ソニーは、企業としての存在意義(パーパス)を「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことと定義しています。9月、自社の成長と地球のサステナビリティ(持続可能性)に関連する取り組みを紹介する説明会と展示を実施しました。
ソニーの最先端テクノロジーは、コンシューマーの快適な生活をかなえるだけでなく、地球環境への負荷低減や改善にも貢献しているといいます。具体的にはどんなテクノロジーやサービスがあるのでしょうか? 責任者によるコメントとともに取材レポートをお届けします。
脱臭・抗菌効果が注目を集める「トリポーラス」
2018年以降、ソニーは人々のクリエイティビティを育み、同時に地球環境や社会の課題解決にもつながる独自のテクノロジーやサービスを紹介する「サステナビリティ説明会」を開催してきました。2022年はソニーの本社に、サステナビリティのテーマに関連するテクノロジーとサービス、プロダクトの一部をピックアップした展示も行っています。
筆者がもっとも関心を惹かれたのは、日々手にするソニーのエレクトロニクス製品の本体、または梱包材に使われているサステナブルな「新素材」の展示です。ひとつずつ紹介しましょう。
まず「Triporous(トリポーラス)」は、脱穀と籾(もみ)すりの工程を経て、不要になった米の籾殻を原料とする天然由来の多孔質カーボン素材です。独特の繊維構造による水や空気の浄化、高い消臭・抗菌効果が期待できる素材として注目されています。
すでにトリポーラスは、衣類をはじめとしてボディソープといった生活化粧品など幅広い分野に製品展開されています。会場には、国際宇宙ステーション(ISS)に2023年以降の搭載が決定したという、トリポーラスを活用したリラクシングウェアを展示。ちなみに筆者も、カメラ機材を拭くためにトリポーラス入りのクロスを愛用しています。
オーディオビジュアル製品にも高品位再生プラスチックが使われている
続いて「SORPLAS(ソープラス)」は、使用済みの水ボトル(給水器のリフィルなどに使われる大きめサイズのボトル)や、廃棄される光ディスクなどをリサイクル素材として活用。再生材料の利用率にして最大99%を実現した難燃性再生プラスチック素材です。
ソニーは約20年前に素材の開発を始めてから、現在まで研究を重ねながらソープラスを高度化してきました。廃プラスチックから再生した原料に難燃剤や各種添加剤をブレンドしたことで、エレクトロニクス機器の部品に求められる特性を獲得。実用化に至りました。
この素材が持つ特徴のひとつに、塗装を施さなくても鮮やかな色艶を持たせられることがあります。現在は、4K有機ELテレビ「BRAVIA(ブラビア)」フラグシップモデルのリアパネルなどにも使われています。
ソニーは日本を代表するオーディオメーカーでもあります。高音質・軽量なポータブルオーディオといった製品にも、プラスチック素材はよく使われます。高純度のバージンプラスチックと同等の特性を再生プラスチックに持たせ、スピーカーやヘッドホンなど多くの製品に活用することを、ソニーは長年にわたって研究・開発してきました。
その成果である「高音質再生プラスチック」が、現在のサウンドバーやワイヤレススピーカーの一部材料として採用されています。「音質的に良好な特性を備えるだけでなく、安定した発色(着色)が確保できること、そして燃えにくく安全であることも特徴」(ソニー)としています。
新たなリサイクル素材「紙発泡材」も開発中
製品のパッケージに使う「梱包材」でも、環境負荷を抑えた良質なマテリアルの開発を続けています。成果のひとつは、竹・さとうきび・リサイクル紙などを原料とする「オリジナルブレンドマテリアル」です。ワイヤレスイヤホンの「WF-1000XM4」や、ワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM5」のパッケージにも、この素材が使われています。
現在は新たに、回収した古紙といった紙材料を粉砕して、薬剤を加えて製造する「紙発泡材」の開発も進められています。独自の製法によって、さまざまな種類の紙材料をハイブリッドに組み合わせ、重い製品の輸送に用いる緩衝材などへの応用を目指しています。今後どのような形で本格的に登場するのか楽しみです。
AIを組み込んだ新イメージセンサー「IMX500」
今回の展示には、大容量電池としての役割も期待されるEV(電気自動車)の「VISION-S」や、ソニーの最新イメージセンサーを積んで「宇宙の視点」から地球を見守る新たなテクノロジーとして期待されている人工衛星「STAR SPHERE(スタースフィア)」も並んでいました。
ソニーが開発を進める各種の製品に、今後の搭載が広がりそうな新しいイメージセンサー「IMX500」にも要注目です。
2022年5月にソニーが発表したIMX500は、画素チップとロジックチップを重ね合わせた積層構造を採用。ロジックチップにAI画像解析処理の機能を持たせた世界初の「インテリジェントビジョンセンサー」です。
IMX500は、イメージセンサーが取り込んだデータをもとに自ら解析処理を行い、撮像データに関連するメタデータを出力することが可能です。センサーを搭載する「AIカメラ」はエッジ側で高度な処理の一部を完結できるようになるため、クラウドに流れるデータ量を削減し、IPトラフィックやデータセンターにかかる負荷を減らす役割が担えるといいます。
ソニーが提案する「地球をみまもるプラットフォーム」
ソニーグループのサステナビリティ説明会では、会長兼社長CEOである吉田憲一郎氏がビデオプレゼンテーションのステージに登壇しました。
吉田氏はメッセージの中で、ソニーの先進技術をかけ合わせることによって、「地球を見ることを、地球を守ることにつなげる『地球みまもりプラットフォーム』を構築。災害の未然防止や環境の課題解決に貢献したい」と述べました。
この「地球みまもりプラットフォーム」とは、センシングや通信、AI分析に関連する先端技術を活用して、地球上における異変の予兆を観測。それをフィードバックして、サステナビリティにつなげるという新たな取り組みです。
ソニーは現在、北海道大学との共同研究でプラットフォームの応用に向けた実証実験を進めています。具体的には、センシングやAIの技術を「スマート農業」へと広げ、安定した収穫を確保。食糧不足や農業分野における新たな雇用創出といった課題解決を、取り組むべきテーマとしているそうです。
環境関連の最新技術を社内でスピーディーに共有する仕組み
メディアからの質疑応答には、ソニーのサステナビリティ担当役員である神戸司郎氏が回答しました。以下は筆者の質問とそれ対する回答です。
―― ソニーでは、今回の展示で披露した最新のテクノロジーや新素材を、現在展開する各事業領域に横串を刺す形で迅速に共有するために、どのような仕組みを採り入れているのでしょうか。
神戸氏:以前は本社の環境部が取り組みの内容を踏まえて、適材適所への配置を進めてきました。これに対して事業部の側でコストを試算し、商品の優位性にもたらす効果とのバランスを検討する段階において、難しいやり取りに時間を要することもありました。
近年は外部の環境、あるいはソニー社内の環境が変わり、互いの連係がスムーズにできるようになっています。本社の中には環境全体を見る部門があり、R&D部門もまた環境サステナビリティを中長期の成長戦略の中で重要な位置付けとしています。
かたや事業サイドでも、環境負荷を抑えることが最終的にはお客さまにとっての付加価値向上にもつながるという意識が高まっています。特に若い世代のお客さまの間に、環境意識が広く根付いてきた手応えもあります。ヘッドホンの梱包材に採用するオリジナルブレンドマテリアルも、ユーザーニーズをとらえて好評を得ています。各事業部にサステナビリティを専門に取り組むチームがあり、それぞれがうまく機能しはじめています。
ソニーによる積極的なテクノロジーの発信に期待
今後もソニーには日本を代表する企業として、最先端のサステナビリティに関連するテクノロジーやサービスなど幅広い取り組みを世界に向けて積極的に発信して欲しいと、個人的にも強く願っています。
特に環境負荷を低減するプラスチック素材、あるいは現在開発中の紙発泡剤は、クリエイティブであり、同時にサステナブルな社会の実現を模索する、世界の企業や人々の取り組みを力強く後押しするはずです。