「何をやっても満足できない」「中途半端な自分に自信が持てない」「やりたいことがわからない」……最近は、「やりたいことがあって、熱中している」のがかっこいい時代。やりたいことを見つけて活躍している人、何かに夢中になっている人を見るたびに凹んだり、努力が足りないせいだと思って何かを学んだりしている人もいると思います。
でも、たくさんのことをやっているのに、本当に大事なことからは遠ざかっているように感じて、「やりたいこと」がどんどんわからなくなってしまう……。
あなたは、こうしたことを感じていないでしょうか? その理由を『かくれ繊細さんの「やりたいこと」の見つけ方』(あさ出版)などの著書がある心理カウンセラーの時田ひさ子先生にお聞きしました。
好奇心が強いにもかかわらず怖がりな「かくれ繊細さん」とは
こうした悩みを持つ人の中には、好奇心が強いにもかかわらず怖がりである、とか、没頭しやすいけれど長続きしない、という相反する性格特性の方がいます。
このような人たちは、よくある「やりたいこと探し」の方法を試しても、なかなかうまくいきません。なぜなら、「かくれ繊細さん(HSS型HSP)」の特性が関係している可能性があるからです。
最近は、アメリカの心理学者のエレイン・アーロン博士の発見した概念「HSP:Highly Sensitive Person」(生まれつき感受性が強く敏感な気質を持った人)が少しずつ浸透してきて話題になることも増えました。
「かくれ繊細さん」とは、このHSPの中でも、共感能力が高く繊細で傷つきやすい側面(HSP)を、外向性、社交性、積極性、好奇心旺盛さという別の側面(HSS:High Sensation Seeking)によって表面化しないようにカバーしている人たちです。
<かくれ繊細さんの特徴>
- 大胆な行動をとり外向的なのに傷つきやすく繊細
- 誰かに喜んでもらえるなら、自分の気持ちは抑え込む
- おもしろいことや感動することが大好きで、心が洗われるような体験を求めて、さまざまな分野に興味を持つ
- 取り組み始めると、集中してのめり込む
- 疲れやすく、まわりにペースを合わせ続けられない
- 時々猛烈に休みたくなる
- 中途半端な人を見るとイライラする
- ゼロから1を生むよりも、1を2にすることが得意
※『かくれ繊細さんの「やりたいこと」の見つけ方』より一部抜粋
かくれ繊細さんが「やりたいこと」がわからなくなる理由
かくれ繊細さんが「やりたいこと」がわからない状態に陥るのには、いくつか理由があります。
「刺激を求める好奇心と、まわりの反応に縮み上がる繊細さの両方を扱いきれない」というのもその1つです。
かくれ繊細さんの「HSS(High Sensation Seeking)」は、「(自分にとって)センセーショナルなことを探す」という意味です。
新しい情報、新しい考え方、これまでに見たこともないものに目を奪われ、追い続ける性質のことで、アメリカの心理学者マーヴィン・ズッカーマンの研究から確立されました。この新規刺激追求性を持ち合わせた人は、かつて、食糧源と繁殖の機会を獲得しやすかったといわれています。
この特性により、かくれ繊細さんは普通よりも好奇心が旺盛で、多様なことに興味を持ちます。みんながあまり興味を持たないことにも興味を持つのは、このHSS特性が関わっているからです。
ところが、この好奇心のままに、あらゆる方向に手を出していると、まわりの人ちから「おや?」という反応をされます。まわりの目が、かくれ繊細さんの好奇心旺盛ぶりに「行きすぎでは?」という警戒、警告の光に変わるのです。
そうなると今度は、かくれ繊細さんの中にあるもう1つの特性(HSP)が発動し始めます。繊細で慎重なもう1つの側面が、揺れ動き始めるのです。
相手が何げなく言った言葉や、普通の人なら受け流せるようなことにも大きく傷つきます。もし、あなたが「ぐるぐると考え続けてしまっている」としたら、それは傷ついているということです。かすかな風であっても、暴風のように感じてしまう高い感受性を持っているからです。
また、「積極的だね」「やる気あるね」などのような褒め言葉でさえも、「人は本当のことは言わないものだ」と勘ぐり、率直に喜べないのではないでしょうか。こんなとらえ方に対しても、「素直に受け入れなよ」「素直じゃないな」と言われ、否定されたりもします。こう言われると、ますます状況は悪くなりますよね。でも、「本当に褒められているとは思えないからそう言った」というのが、かくれ繊細さんの素直な気持ちです。
こんなふうに、刺激を求める好奇心と、まわりの反応に縮み上がる繊細さの両方を扱いきれず、まわりからの刺激に翻弄され続けてしまい、自分のやりたいことへの足踏み状態が続いてしまいます。
かくれ繊細さんは、いつも必死で疲れている
また、HSP特性を併せ持つかくれ繊細さんは、不安を感じても、不安を払拭するために行動を起こす人たちでもあります。そのため、いつも不安からくる焦りに追い立てられるようにして何かしなくちゃと慌ただしく、がんばって疲れてしまいがちです。
その結果、何かを達成してもその達成感に酔いしれることができず、「こんなことで満足してはいけない」「もっとやらなくちゃ」と自分をさらに追い込みます。結果が出ても、また不安になるのです。「満足の枯渇状態」だといえるかもしれません。
こうした現象は、そもそも、繊細ではない人(非HSP)と、繊細な人(HSP)の「やりたいことの受けとり方」の違いから起こるものです。
現状に満足度が高く、落ち着いてどっしりと構えているように見える非HSPの場合は、やりたいことを「やりたいならやればいい」と楽観的にとらえています。非HSPは人口の8割を占めるといわれており、ほとんどの人は自分と「やりたいこと」の間には隙間がなく、近い距離にあります。
ショックな出来事によって動揺して体調や精神的な状態が悪くなったとしても、それは一時的なものであり、時間がたてばその調子の悪さは改善され、やりたいことをやれるようになるといった距離感にあり続けます。
一方、少数派である繊細な人たちは、やりたいことを「変身の先にあるもの」「今の自分を飛び越えていかないと手に入らないもの」ととらえています。「没頭できる自分になれるもの」「夢中になれるもの」「ものすごい集中力が出るもの」という努力を必要とする、遠くにあるもの、といった感じでしょうか。
没頭し、夢中になり、集中した末に手に入る「理想の自分を実現すること」で手に入るのが「やりたいこと」とみなしています。やりたいことがやれている自分は、理想の自分を実現することであり、そういう自分に変身するためにもがいています。
かくれ繊細さんにとっては、「やりたいことをやっている状態」は、不安を埋めるために変身して一目散に走っている状態。いわゆる、非日常的に追い込んでいる状態です。
でも、非日常的な状態は長く続かないので、もとの自分に戻ります。そうすると途端に不安がやってくる。走っていないからです。不安を埋めようとする時間のほうが圧倒的に長いのです。
やりたいことに向かって走り、不安が小さくなった瞬間は、充電が満タンになるのでたまらなく安心感があって、気持ちがいい。そのわずかな時間を生み出すために一生懸命に「やりたいこと」を探します。そして「やりたいこと」が見つかったら、ふたたびそれに没頭していくのです。
不安がデフォルトであるという悩みは、同僚や上司、専門家に話したことがある方もいると思いますが、理解してもらえないばかりか、「考えすぎだって」「気楽にやりなよ」「みんなそうだから」と言われて、ますます混乱したこともあると思います。
かくれ繊細さんの特殊さへの理解は、まだほとんど浸透していないので、まず自分の特性を理解し、世間との乖離を認識しながら前進していくといいと思います。
【著者プロフィール】
時田ひさ子(ときた・ひさこ)
HSS型HSP専門心理カウンセラー。
HSP/HSS LABO代表。早稲田大学文学部心理学専修卒業。
繊細で凹みやすいと同時に好奇心旺盛なHSS型HSPへのカウンセリングをのべ1万5000時間実施。講座受講生からのメール、LINEのやりとりは月100時間以上。
かくれ繊細さんのオンラインコミュニティ主催。
臨床心理学、認知行動療法をはじめ、フォーカシング、退行催眠、民間の手法まで、あらゆる心の扱い方について習得する。
著書に『その生きづらさ、「かくれ繊細さん」かもしれません』(フォレスト出版)がある。