リーズナブルなオーディオブランド「1MORE」から、オーバーヘッド型ヘッドホン「SonoFlow」が発売となった。有線、無線ハイレゾワイヤレス再生も可能ながら、極めてリーズナブルな価格で販売される同機の実力はどうだろうか。

  • ハイレゾ対応のワイヤード&ワイヤレス両対応ANCヘッドホン「1MORE SonoFlow」を試す!

ハイレゾ認定有線&ワイヤレス両用ヘッドホン

1MOREはFOXCONNの元スタッフが独立して設立された、中国のオーディオ専業ブランドだ。日本でもAmazon.co.jpや楽天で販売を行っている。今年5月には、同社の完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデルとして、日本オーディオ協会が認定する「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴを取得している「1MORE EVO」が発売された。

  • 現在はネット販売専門で、Amazon.co.jpおよび楽天に公式ショップがある

  • 完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデル「1MORE EVO」。2万円台でハイレゾ対応認定されている、コストパフォーマンスが光る1台だ

そして今回紹介する「1MORE SonoFlow」は、9月15日に日本国内で発売されたばかりの、同社のオーバーイヤー型ヘッドホン製品だ。特徴としては、無線・有線の両方に対応しているほか、アクティブノイズキャンセル機能「QuietMax」を搭載し、バッテリー容量は最大で70時間もの再生時間に対応している。また無線接続では1MORE EVOと同じくLDACに対応しており、有線向けの「ハイレゾオーディオ」および無線向けの「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴを取得している。

  • 1MORE SonoFlowの箱に燦然と輝く「ハイレゾオーディオ」と「ハイレゾオーディオワイヤレス」ロゴ

ハイレゾオーディオおよびハイレゾオーディオワイヤレスロゴを取得するためには「96kHz/24bit以上の信号処理能力」と「40kHz以上を再生可能なアンプとドライバー」を備えており、ワイヤレス製品ではさらに日本オーディオ協会が認定するハイレゾ対応コーデック「LDAC」と「LHDC」のいずれかをサポートしている必要がある。ロゴ取得製品はこれだけのハイスペックを満たしているという証になるわけだが、果たして認定ロゴにふさわしい実力があるか、さっそくチェックしていこう。

バッテリー駆動時間は非常に強力

まずはヘッドホン本体から見ていこう。本体はよくある密閉型といった感じで、楕円形のハウジング部にプロテインレザー製のイヤーパッドが付いている。サイズはW170×H192×D82mm で、内張りに大きく「R」「L」と書かれており、左右が一目でわかる。内径は幅約42mm、高さ約62mm程度で、標準的な耳の大きさである筆者は特に圧迫感もなく装着できた。

  • ハウジングの内側に大きく「R」「L」が記載されているので間違うことはない

ハウジングはアーム部で回転し、さらにアームの根本で内側に折りたためるので、持ち運ぶ際には半分程度にまでコンパクトにできる。付属のハードケースに入れるときは片方だけ折り畳んでうまいことケースに収まるようになっている。イヤーパッド重さは約250gで、特別軽量というわけではないが、装着中にはほとんど気になることはなかった。

  • 本体をケースに収納する際は「6」の字に似た形に折り畳む必要がある。最近はケースが付属しない製品も多いので、シンプルなケースでも付属しているのはありがたい

音質を担当するドライバーユニットは、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)のコンポジット薄膜とPET膜を使用した、直径40mmのダイナミック型。再生周波数帯域はハイレゾロゴで保証される40,000Hzまで拡張されているという。インピーダンスは32Ωで、このクラスのヘッドホンとしてはおおむね標準的と言っていいだろう。

右ハウジングの側面は操作部になっており、前面に電源ボタン、背面にノイズキャンセルモードの切り替えや、音量や早送り・早戻しの操作が行えるボタンが並んでいる。また、右ハウジングの底面には有線接続時のオーディオジャックが、左ハウジング側にはUSB Type-Cポートがあり、右側では有線接続が、左側では充電が行える。ただしこれらのボタンはすべて無線接続時のみ有効で、有線接続時には機能しない。有線接続時は電源がオフ状態になるため仕方がないが、音量調節くらいは使えるとよかった。

  • 右側の側面にボタン類が集中している。前面のボタンは電源スイッチで、電源オンと着信拒否は2秒長押し、電源オフは5秒長押し。1回押すと音楽の再生/一時停止と電話の着信/切断、2回連続押しで音声アシスタント(Siri/Googleアシスタント)を呼び出せる

  • 右側面後方のボタンは上からノイズキャンセルのモード変更、音量上げ、音量下げ

  • 右側側面底には2.5mm径のオーディオミニジャックがあり、付属のオーディオケーブルで有線接続も可能。有線接続時は有線側が優先され、電源を入れなくてもヘッドホンとして利用できる。一般的な3.5mmのジャックではないので注意したい

  • 左側は一切操作系がなく、底面にUSB Type-Cポートがあるのみ。充電中は自動的に電源がオフになる

ノイズキャンセルボタンは押すと約0.5秒後に操作音がしてモードが切り替わる。ほんの少しタイムラグはあるものの、物理ボタンなので操作しているかどうかわからないということはない。音量ボタンも同様だが、これを1回押すと音量上げ/下げ、2秒長押しすると前の曲/次の曲への移動となる。長押しなので、連続して曲をスキップしたいときに操作しにくい。筆者はスマートウォッチで操作するので構わないが、ボタン操作の変更など、カスタマイズできるようになることを期待したい。

また、ヘッドセットとして通話も可能。本体には5つのマイクを内蔵しており、DNN(Deep Neural Network)によるノイズキャンセルで、通話時に送信側の音声をクリアにしてくれる。今回は扇風機による風を直接当てるという条件で通話してみたが、相手側にはクリアな音声を届けることができた。

無線接続はBluetooth 5.0に対応しており、ペアリング済みの機器との自動接続に対応しているが、低遅延のゲームモードなどは搭載していない。実験的機能として、スマートフォンとスマートウォッチなど、同時に2台の機器と接続できる「マルチポイント接続」もサポートしている。例えばiPhoneとAndroid端末に同時接続しており、iPhoneで音楽を流していたときにAndroidで電話を受けたら、iPhoneの曲が自動で一時停止し、Androidに切り替わる。ここで着信ボタンを押せば通話ができる。通話が終わって切断ボタンを押すと、またiPhoneに自動的に切り替わって音楽の続きが再生される。まだ正式な機能にはなっていないが、なかなか便利な機能だ。

バッテリー容量は720mAh。ANC利用時で約50時間、未使用時は実に約70時間という、驚異的な利用時間を誇る。実際に一週間ほど使ってみたが、月曜日に1回充電してから金曜日の時点でバッテリー残量が10%になり、低バッテリー警告が発せられた。毎日ANCをオンにしたまま、この原稿用にさまざまな実験をしつつ、8時間以上聴いていたので、無線接続でも40時間以上は使ったことになる。ほぼカタログスペックに近い数値と言っていいだろう。USB Type-C(USB PD非対応)による充電時間は約80分。5分の充電で最大5時間利用できる急速充電にも対応しているので、出勤前などで急いでいる場合にも安心だ。なお、充電中は電源がオフになるので、充電しながら聞くことはできない。

ちょっとだけ面倒なのは、電源をオフにするか、有線接続するか、充電ケーブルを繋ぐかしないと、Bluetooth接続がオフにならない点。当たり前といえば当たり前なのだが、普段完全ワイヤレスイヤホンを使っていると、ケースに入れたりするだけでオン/オフすることに慣れてしまい、電源オフにすることを忘れてしまいがちだ。幸い、バッテリー動作時間はかなり余裕があるので、スマートフォンから音が出なくなる以外のデメリットはないと言ってもいいのだが、着信に気づかないこともあり得るので気を付けたい。

アプリによるカスタマイズ

1MOREの製品は、スマートフォンアプリ「1MORE Music」アプリで各種設定が行える。SonoFlowではノイズキャンセルのモード設定、LDACの利用のオンオフ、イコライザーの設定、ファームウェアのアップグレードなどが行える。

イコライザーは12種類のプリセットが用意されている。今回は「デフォルト」で評価を行ったが、イコライザーに「ロック」などメジャーなジャンルの設定がないこと(低音強調でいいのだろうか?)や、ユーザーが設定をいじったり、好みの設定を保存することができないのは残念なところだ。この辺りはソフトウェア的に解決できる問題だと思われるので、将来の改善を期待したい。

  • イコライザーはプリセットが12種類あるが、いずれもオン/オフのみで、細かく自由に設定できない

素直で聴きやすい万能タイプの音質だが、有線時はNC無効

肝心の音質についてチェックしよう。まずは「標準」状態を確認するため、スマートフォンにイヤホンジャックで有線接続してみる。今回は後述するLDAC対応のために、モトローラの「moto g50 5g」を使って確認した。特にハイレゾ対応などはしていない、ごく一般的なスマートフォンだ。音楽ソースにはApple Musicでハイレゾロスレス音源(24bit/96~192kHz)が選べる曲を選択した。これで通常配信(AAC)とハイレゾの違いを聴き比べるわけだ。

まずはAACで再生する。SonoFlowの音は、一言で言えば素直。高音から低音まで過不足なく、フラットな特性だ。高い解像感で音場感もあり、細かい音もしっかり拾ってくれるため、聴いていて物足りなさを感じることもない。筆者が持っている有線ヘッドホンの中で一番高いのは、ちょっと古いが「Beats Solo HD」(購入当時1万9,800円)なのだが、Beatsが低音の効いたド派手な音作りでいかにもダンス系に向いていそうなのに対し、SonoFlowは満遍なく、どんなジャンルの音楽もサポートしてくれる万能タイプといった印象だ。イヤーパッドの装着感も含め、これなら長時間聴いていても疲れにくそうだ。

続いて、有線でのハイレゾ音源だ。moto g50 5gはハイレゾ再生に対応していないので、スマートフォンに接続できるハイレゾ対応のDACを介する必要がある。残念ながら筆者は高級なポータブルアンプを持っていないため、24bit/96kHz対応のエレコム「AD-C35SDBK」を使ってみたが、アンプを介してハイレゾ音源を聴いてみると、AAC音源と比べて、よりクリアに聞こえる。AACだと微妙にもやっとした、フィルターの向こうのような感じだった音が、よりストレートに聞こえる感じだ。比較のためにBeats Solo HDでも聴いてみたが、Beatsよりも音がフラットなぶん、細かい部分の音も聞き分けやすい。なるほどハイレゾオーディオロゴを受けるだけの実力はあると感じた。

  • ポータブルアンプの代わりに使用したエレコムのUSB Type-C変換アダプタ「AD-C35SDBK」。単なる変換アダプタに見えるが、DAC内蔵で24bit/96kHzまでサポートし、ハイレゾオーディオ認定ロゴ付きだ

と、ここで気付いたのだが、有線接続だとノイズキャンセルが機能していない。有線接続時は電源がオフになり、ボタン類が効いていないのは分かっていたのだが、ノイズキャンセルやイコライザー類も効いていないのは盲点だった。せっかくならノイズキャンセルされた状態でハイレゾの音を楽しみたかったので、この点はちょっと惜しい。有線接続は電源が切れた時の非常用、あるいはゲームなど遅延が許されないケースを想定しており、あくまで主役はワイヤレスということのようだ。

続いてワイヤレス接続だ。1MORE SonoFlowは標準ではSBC接続だが、Androidで対応している機種の場合、「LDAC」コーデックが利用できる。LDACでは990kbpsと、SBCなどと比べて約3倍のビットレートを利用できるため、そのぶん情報量が多い高音質な音を楽しめる。LDACを選びたい場合はAndroidの「設定」→「接続済みのデバイス」で1MORE SonoFlowを選び、「デバイスの詳細」で「HDオーディオ:LDAC」をオンにする必要がある。ちなみに本機はiPhoneでも利用できるが、iPhoneではLDACは利用できない。

  • Androidの場合は端末によってサポートするコーデックが異なる。LDACによるハイレゾ再生を楽しみたい場合は、必ずスマートフォン本体がLDACをサポートしていることを確認しよう

まずSBCだが、これは有線と比べ、情報量の少なさを如実に感じさせられる。細かい音の聞こえ方(聞こえなさ)が「圧縮されているな」と感じさせるのだ。これをSBCからLDACに切り替えた途端、情報量が圧倒的に増えるのがはっきりわかる。SBCがカーテンの向こうで演奏しているとすれば、LDACは目の前、間近で演奏しているような感じだ。LDACと比べるとSBCは音が潰れた感じで、奥行きも感じられない。LDACなら歌手や楽器の違いすらもはっきり聞き取れるようになる。実際、有線接続でのハイレゾ再生と聴き比べても、筆者の耳ではほとんど違いを感じられない。LDACの効果は抜群だ。

そして接続性について。1MORE EVOのときは、本体サイズによるものか、2.4GHz帯を利用する機器が多い場所、たとえばファミレスや電車の中、あるいは端末からちょっと離れた時に、LDACを選択すると接続がブツブツと細切れになる場合があった。しかしSonoFlowでは5m以上端末から離れない限り、こうした切断状態になることはほとんどなかった。スペック上、無線利用距離は最大10mと変わらないが、本体が大きいため、アンテナの性能が高いのだろう。LDAC接続を気軽に選べるのは大きな利点と言えるだろう。

ノイズキャンセルには独自のアクティブノイズキャンセル技術「QuietMax」を採用している。ノイズキャンセルの効果は公表されていないが、同社の「1MORE EVO」(公称42dB)と比べると、やや控えめに感じられる。30dB台半ば~40dB程度といったところだろう。ノイズキャンセルのモードは「ノイズリダクション」「パススルー」「消灯(オフ)」の3種類が選択できる。

「ノイズリダクション」を試してみたところ、十分強力。ファミレスで周囲の話し声やBGMなどはほとんど気にならなくなる。「オフ」にした途端に周囲の音がモワっと入り込んでくる感じなので、ノイズキャンセルの効果をしっかり体感できた。周囲の音も感知できる「パススルー」では、特定の周波数帯の音(具体的には肌を爪で掻いたりする音など)を強調しているようなのだが、強調具合がちょっと独特で、特に音楽が流れていない状態の時には環境音が強調されてしまい、逆に気になってしまう場合があった。これはEVOでも同様のクセがあったので、QuietMaxのアルゴリズムの問題かもしれないが、調整できるようになるとうれしい。

また面白いことに、ノイズリダクションをオンにすると、イコライザーとはまた別に、明らかに低音が強調されて、メリハリのある音になる。おそらく、基本的にはノイズリダクションを常時オンにして使うことを想定しているのだろう。この辺は好みが分かれるかもしれないが、筆者としてはほぼ常時ノイズリダクションをオンにして使いたいところなので、特に問題はないと思う。

最後に気になる価格だが、1万3,990円。しかも2022年10月18日までは発売記念の特別セールとして3,000円の値引きクーポンが利用できる。ハイレゾワイヤレス対応のANCヘッドホンとして考えると、相場は少なくとも2万円台後半からといったところなので、驚くほどリーズナブルだ。若干クセはあるものの、音自体は素直で聴きやすく、無線主体に使いたい人にはかなり魅力的な選択肢になるだろう。ハイレゾへの入門用として、またリモートワークのお供に、これまでよりちょっとグレードアップした音楽環境を用意したいといった人におすすめの1台だ。