東京理科大学(理科大)は9月21日、米国でのオンライン調査から、自信過剰な人は自分の能力と所得が釣り合わない理由を経済の不公平さに求めるが、それが所得格差是正や政府介入への支持にはつながらないという結果を得たと発表した。
同成果は、理科大 教養教育研究院の松本朋子講師、同・大学 経営学部の岸下大樹講師、米・プリンストン大学経済学部の山岸敦大学院生らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、集団的意思決定や政治的行動などを含む経済現象を扱う学術誌「European Journal of Political Economy」に掲載された。
多くの人が、自分の能力を過信する傾向にあることが数多く報告されているが、そうした人の所得は自分で思うほど高くないことから、自分の能力と経済的地位との間にギャップがあることを、人生のある時点で自覚することが考えられるという。その際、彼らは自分の能力に強固な自信を持っているため、このギャップは自分の能力不足ではなく、社会が不公平で非実力主義であると考えるようになり、結果として、より公平な社会の実現を求め、所得格差是正への指示を高めることが予想されてきたという。
近年、公平さに対する見方や所得再分配に対する選好において、個人の経済経験が重要な役割を果たすことが指摘されるようになってきたが、自認する能力と所得にギャップがあることに気づくという経験は、一般的なものであるにも関わらず、公平さや所得再分配に対する選好性にどういった影響を与えるのかについての研究は進んでおらず、実際に個人の経済経験を操作することは不可能であることから、十分なエビデンスもないという。
そこで研究チームは今回、自信過剰という性質が、所得政治的選好、特に平等に対する選好にどのような影響を与えるかに着目。実社会において、自認する能力と所得間のギャップの認識が政治的選好に影響を与えるかどうかの調査を行うことにしたという。今回の調査は米国においてオンラインによって行われ、約4500名が参加した。
調査では、回答者に対して自分の収入と稼得能力に関する自己評価を求め、その回答結果に基づき、自認する能力と所得間のギャップについての自己認識の評価が行われたとする。
その結果、回答者の大半は、稼得能力に対する自己評価と収入の位置が一致していないことが示されたほか、その人たちの半数以上は自分の所得が稼得能力よりも低いと考えていることが示されたという(負の所得-能力ギャップ)。
また、それまでの回答に基づき、所得-能力ギャップを強調する処置群とその対照群へのランダムな振り分けを実施。具体的には自己評価で「非常に高い能力」を選び、世帯収入は相対的に「低い」を選んだ回答者の場合、その半数は、能力が非常に高いにもかかわらず収入が低いことを意識させるような質問をする処置群に、残りの半数をそのような質問をしない対照群に振り分ける、といった形だという。
研究チームでは、この処理を回答者の所得-能力ギャップの自己評価に基づいてカスタマイズしているのが、今回の調査のユニークな点だと説明しており、これにより実社会において、負の所得-能力ギャップの認識が不平等是正の選好に与える影響を探ることが可能になるという。