この結果は、rMRに伸びた軸索の終末から放出されるOXTが、同ニューロン群に作用して交感神経活動を促進する機能を持つ可能性を示唆するものであったことから、OXTが生体の交感神経機能に与える影響を調べることを目的に、麻酔されたラットの多数の生体情報を同時に測定しながら、光遺伝学的手法を用いて、視床下部室傍核のOXTニューロンから伸びたrMRの軸索終末だけを刺激する実験が行われたところ、熱産生交感神経反応(褐色脂肪組織の交感神経活動と温度の上昇、心拍数の増加、呼気中CO2濃度の上昇)が誘導されることが確認されたという。同様の交感神経反応は、rMRに微量のOXTを注入しても誘導されたとする。
加えて、この交感神経反応は、(1)OXT受容体阻害薬によって抑制されること、(2)rMRに入力するほかの興奮性神経伝達を遮断した状態でも誘導されることから、OXTが交感神経プレモーターニューロンを直接活性化して起こるものであることが判明したともする。
また、rMRは視床下部背内側部など、さまざまな脳領域から入力される熱産生シグナルを受け取りながら、熱産生を環境の温度や状態に応じた適切な量に常時調節していることから、これらの熱産生シグナルに対するOXTの効果を調べることを目的に、光遺伝学的手法を用いたOXTニューロンの活性化と、グルタミン酸作動性の熱産生シグナル入力を模倣したrMRへのNMDA(グルタミン酸受容体の一種であるNMDA受容体の作動薬)の微量注入とを組み合わせた実験が行われたところ、NMDAによって誘導される熱産生交感神経反応がOXTニューロンの活性化によって増強されることが判明。このことから、OXT神経系の活動は、それ自体が熱産生を駆動するだけでなく、ほかの脳領域からrMRへ送られる熱産生シグナルを増強する可能性が示されたという。
なお、研究チームでは、OXTがほかの脳領域からの熱産生シグナルを増強することは、さまざまな環境変化に対する交感神経反応が、養育行動や社会行動などによるOXT神経系の活動レベルの変化によって変わりうることが示唆されていると説明しており、今後、情動表出に伴う自律神経反応(心拍数や体温の上昇など)の神経メカニズムの研究への展開が期待されるとしているほか、OXTの継続的な熱産生の惹起や増強作用は全身のエネルギー消費量を長期的に増加させることから、肥満の防止に役立っていることが考えられ、今回の研究で得られた知見が、プラダー・ウィリー症候群の肥満発症機序の解明や、肥満ならびに関連疾患の新たな治療法の開発につながることが期待されるとしている。