研究チームでは、今回の研究成果の意義は、1次元物質における量子相転移の理解という基礎科学的側面だけに留まらないとしている。量子ビット間の接続が可変な量子アニーリングマシン上での大規模量子シミュレーションの技術的基盤を確立することで、より広範な量子物質の特性を正確に理解する新たな手段が提供されたことになることから、これを通じて、有用な物質の開発に向けての取り組みが加速することが期待されるとしている。

なお今回の研究対象は、量子ビットを1次元の線状に並べた量子系であり、1次元という特徴を活かすと厳密な量子力学理論の構築が可能で、その理論と量子シミュレーションの実験データが一致したのが今回の成果だと研究チームでは説明するが、そうした量子力学理論には、より複雑な構造を持つ物質に対しては適用できないという問題があるともしている。

また、今回のような実験時間に依存する動的な量子現象の解明は、古典コンピュータ上で実行される確率過程に基づくシミュレーションでは、規模によらず原理的に不可能だが、量子アニーリングマシンでの量子シミュレーションは、量子ビット間の接続の再設定によって、比較的容易にほかのさまざまな物質を対象として実施することができ、今回の研究では、ゲート方式量子コンピュータ上で量子シミュレーションを実施した場合に見られる、規模の制約やノイズによるデータの劣化の問題も、量子アニーリングマシンでは緩和できることが実証されたとしており、今後は、今回の成果をきっかけとして、数千量子ビット以上の大規模な量子シミュレーションによる物質の量子力学的特性の理解や、それに基づく物質の開発が促進されることが期待されるとしている。