将棋界のトップ棋士12名が参加する選抜棋戦、第43回将棋日本シリーズ JTプロ公式戦(協賛:日本たばこ産業株式会社)は、9月17日(土)に2回戦の豊島将之JT杯覇者―稲葉陽八段戦が行われました。結果は116手で稲葉八段が勝ち、準決勝へ進出しました。
本局は豊島JT杯覇者の先手から、相雁木となりました。先後が全く同じ形でしばらく駒組みが進みますが、稲葉八段が手を変えた直後に豊島JT杯覇者が▲4五歩と動きます。以下、1歩を手にして▲1五歩からの端攻めに出て、後手の香を取ることに成功します。ただしその過程で後手は先手の桂を奪っているので、駒割りはほぼ五分、歩の枚数を勘定に入れると後手の得といえます。歩損の代償として先手は後手陣を乱すことに成功しているので、形勢はほぼ五分と言っていいでしょう。
お互い、どのように手を作っていくかが課題となる中盤ですが、70手目に稲葉八段が打った△3七角が好手。6四の歩取りになっているほか、相手からの複数の攻め筋を未然に防ぐ含みの多い一手です。「これでわからなくなった」と豊島JT杯覇者は振り返っています。その数手後、先手は▲6三歩成と成り捨てて△同金に▲5五香と銀取りに打ちましたが、成り捨てを入れずに単に▲5五香と打った方がよかったようです。後手の金を6三に持ってくるのは後の▲7二角が8一の飛車と6三金の両取りになる効果がありますが、▲5五香から▲5四香と銀を取った時、後手の金が香の当たりから外れるマイナスの側面もありました。
実戦の▲5五香に対して稲葉八段は△6六歩▲同銀△6七歩と攻め立てます。対して豊島JT杯覇者は▲6七同銀と5六の銀を引き付けて自陣を堅くしましたが、▲6七同金直と取るほうがまさりました。5六に銀を置いておけば次の△6五歩に▲7五銀とかわしても、まだ5五の香車にもう一枚の銀が利いています。以下の進行は先手の5筋の香を取り、駒得となった稲葉八段がペースをつかんでいきます。後手玉も堅いとは言えない形ですが、先手から攻めるには駒が足りません。
終盤の104手目、△4六角が決め手になりました。次の△5七角成が王手飛車ですが、それを受けると△5七歩成でより後手の攻めが手厚くなります。最後は一気の即詰みに打ち取って、稲葉八段が準決勝進出を決めました。稲葉八段は準決勝で藤井聡太竜王―羽生善治九段戦の勝者と対戦します。前回、前々回と優勝していた豊島JT杯覇者の3連覇はなりませんでした。
そして本局の両者は21日(水)にもA級順位戦で対戦が決まっています。3回戦最後の対局で、ここまでただ一人無敗の稲葉八段が3連勝として挑戦争いから一歩抜け出すか、豊島九段が稲葉八段を止めて混戦に持ち込むか。関西のライバル対決からまだまだ目が離せません。
相崎修司(将棋情報局)