ギターの改造というのは実にワクワクするもの。故障したところを修理するついでにパーツをアップグレードする、あるいは必要なサウンドを出すためにパーツを交換するなどなど、その理由は様々だが、「憧れのあのギタリストを模倣したい」というのも立派な動機となる。今回は、我々おっさんギタリスト、もとい、あらゆるギタリストにとってのヒーローであり、アイドルである、ジミヘンこと、ジミ・ヘンドリックスをリスペクトするために行った改造話をひとつお聞かせしたいと思う。ギターをつま弾いたことがある人なら一度は考えたであろうカスタマイズを実践してきたのでさっそく紹介しよう!
右利きギタリストがレフティモデル!?
ジミ・ヘンドリックスは1942年に生まれ1970年に27歳の若さで没するまで、数々の伝説を残した偉大なギタリストだ。あらゆるジャンルのアーティストに影響を与えた彼らしい演奏スタイルは未だに絶大なる人気を誇り、今なお彼のプレイから学ぼうとするギタリストは後を絶たない。もちろん、筆者もその1人だし、ギター仲間の御徒町晴彦ももちろん同じようにジミヘンをリスペクトしている。そんな彼から例のごとく連絡が入ったのは、暑さ絶好調の真夏のある日のことだった。
「レフティモデルのストラトを谷口楽器で見つけちゃった。買っちゃった」と電話口で語る御徒町。いや、なぜ右利きなのにレフティモデルを? と、うなる私の気持なんか知ったこっちゃないとばかりに御徒町はこう言った。「もうそのままお茶の水のBIG BOSSに右利き用にカスタマイズしてくれって預けてきちゃった。ははは!」と、自慢げに言い放つ御徒町。
御徒町はもともとシングルコイルピックアップ好きだし、トーカイのオールドストラトも所有しているストラトフリークではある。そして彼とプレイしているとジミヘンコードの「E7#9」も良く出てくるから、利き手とは左右逆持ちプレイに憧れたとしても不思議ではない。しかし、世の中にはジミヘンモデルというものも多数出回っており、単純にジミヘンを真似したければそれを買えばよいのだ。それを指摘するや否や彼はこういった。「だってオリンピック・ホワイトもサンバーストも欲しくない。今回はすごくいい色を見つけたからやる気になったんだ」(by御徒町)。
ふむ。理由としては実に理にかなっている。まぁ、自分がかっこいいと思うモデルを買うのが一番だしな。それはともかく、筆者はこう考えた。「単純に左右逆に持つということにはどんなメリットがあるんだ? というか、どうやればベストな状態で弾けるようになるんだろ?」ということで、これは良い機会とばかりに御徒町とBIG BOSSに掛け合い、取材させてもらうことにしたのだ(あぁ、毎度毎度前置きが長くてすまない)。
ギターの逆持ち、クラフトマンはどう考える?
御徒町から「でき上がったみたい」という連絡をもらい、BIG BOSSにおもむく。御茶ノ水駅から歩いてすぐのところにある店舗の階段を歩くと、店長の橋元さんとカスタムを担当してくれたクラフトマンの小出さんが出迎えてくれた。ギターを受け取り上機嫌の御徒町を横目に早速話を伺った。
──今回は取材を受けていただきありがとうございます。早速ですが、レフティモデルを右利きのギタリストが使うとまさにジミヘンライクなルックスになりますよね? この時のメリットってありますか?
小出 実は私も考えたのですが、メリットはほとんどないと思います(笑)。
──ですよね! 私もハイポジションは弾きにくくなるし、良いことはないように思ってました。
小出 厳密にいえばストラトキャスターの構造上、リアピックアップの傾きが逆になるので、低音弦側が鋭く、高音弦側は甘めになる傾向はありますし、ポールピースの高さも変わるので音色はそれなりに変化します。それでもその音が出したいのでなければ大きなメリットとは言えないでしょうね。
でも、ぼくにも分かりますが、憧れのギタリストの真似をするっていう行為そのものがやる気にさせてくれるという効果は絶大だと思いますよ!
──素晴らしい! さすがギタリストの嗜好をよく知ってらっしゃる! 左右逆にする際に必要なカスタムのポイントはどのようなものなのでしょう?
小出 最低限のカスタムとして大前提ですが、ナットを交換する必要があります。そのままでは弦すら張れませんから、そこだけは絶対にやらなくてはいけません。ブリッジに関してはオクターブピッチの調整が必要になりますが、ここは構造上、単純に低音弦、高音弦の順序が逆になるだけなので大きな問題にはなりません。
──カスタムのポイントの中で、どれが一番大変なのですか?
小出 間違いなくナットです。これに関してはギターに弦をセットして弦高を見ながら微調整しなくてはいけないので、最も慎重を要します。なるべくなら、ここだけは私たちプロに任せていただきたいですね。
──お任せするときはナット交換とだけお伝えすればよいですか?
小出 基本的にはそれでよいです。もしサウンドのニュアンスを変えたい場合は、ナットの素材をブラス、カーボン、樹脂などに変更するという選択肢もあります。しかし、ピックアップや弾き方の相性にもよるので、そこはご相談ですね。今回はオリジナルと同じ牛骨を使っています。
また、ペグを交換するのであれば、ロックタイプのものに変更されることをおすすめします。弦交換も楽になりますし、なんといってもチューニングの安定度が断然違うので、アーミングをしない人でもおすすめできるカスタマイズです。
──なるほど! どうせやるならそこも変えた方がよさそうですよね。ちなみにですが……そのナット、ペグ、オクターブピッチ3点セットでカスタマイズをお任せするとしてお値段はどれぐらいですか?
小出 工賃と張り変える弦のセットを合わせて約1万円強といったところですね。それとロック式のペグのお値段が入るので2万円~という感じで見ていただければ大丈夫です。
──思ったよりリーズナブルですね。これならやりたい人も多いかも。
という感じで、レフティモデルを左右逆持ちにする改造は2万円プラスアルファで可能ということが分かった。だが! 御徒町がこれだけで終わるはずはなかったのだ。
ピックアップに配線まで! やりすぎちゃうん?
実は御徒町、今回のレフティモデルがよほど気に入っていたらしく、小出氏に頼んだカスタマイズポイントはそこだけではなかったのだ。
──今回のカスタマイズには他の箇所もお願いしていたと聞いています。
小出 はい、その通りです(笑)。まず、ピックアップですね。このギターのオリジナルも悪くありませんが、どうせならそこにもこだわりをと思って、当店でも人気の製品をおすすめしました。
──このピックアップは普通に付け替えるだけで良いのですか?
小出 実はブレンダー配線に替えています。
ぐは! ピックアップだけでなく、配線まで変えてくるとはさすが御徒町。この配線、ちとややこしいので筆者から説明しよう。
配線図などの説明は割愛するが、まず特徴的なのはピックアップセレクターが3wayになるところ。そして、ポッドは1ボリューム(ブリッジに近いノブ)、1トーン(中央のノブ)になっていて、もうひとつはセンターピックアップのブレンダー(ブリッジから遠いノブ)になっているのだ。
つまり、ブレンダーを絞ってセレクターを真ん中にするとフロントとリアのミックスが出る。もう分かるかな? 要するにこの状態だとテレキャスターのミックストーンが再現できるのだ。なら2ピックアップにしちゃえばという声が聞こえてきそうだが、ブレンダーを使ったセッティングの場合、ストラト本来のハーフトーンをコントロールできる上に、欲張りな3ピックアップのミックスも出せるところがミソなのだ。使いこなしには時間が掛かりそうだが、アイデアとしては面白いアッセンブリといえる。いやはや、先人たちの探求心はすごいね。さて、話を戻そう。
──この配線は難しいですか?
小出 いえ、配線のやり方さえ知っていれば難しい配線ではありませんよ!
──ちなみにアッセンブリのカスタマイズはお幾らぐらいになりますか?
小出 ポッド類やセレクターの部品代が約8,000円、カスタマイズの工賃が約18,000円といったところになります。ピックアップセットのお値段ですが、今回のものは在庫があったので4万円台半ばでご購入いただけましたが、今相場が不安定なので同じ価格でお出しできるか今は分かりません。事前にご確認いただいたほうが良いと思います。
──輸入品ですから、確かに現在の状況だと価格は不安定かも知れませんね。しっかり弾けるところまでなら2~3万円、徹底的にこだわれば10万円弱という感じですね。
小出 その他、カスタマイズで気になるところがあればいつでもご相談ください。
気になるポイントも聞いてみた
──ところで、今回のように右利きのギタリストが逆持ちにするというカスタマイズって、年に何件ぐらいあるんですか?
小出 いえ、数えるほどですよ(笑)。
──あらやっぱり(笑)。
小出 一方でジミヘンもそうでしたが、レフティの人が右利き用のギターを逆持ち用にカスタマイズするというのはかなりの数の方がいらっしゃいますよ。
左利き用のモデルもありますが、受注生産だったり、選べるカラーや仕様が少なかったりするので選択肢は多くありません。ですから、気に入った色のギターがどうしても見つからないなどの理由で、右利き用のギターを持ち込んでこられるレフティの方は大勢いらっしゃるのです。
──なるほど、時代が変わっても左利きの方たちの悩みは同じなんですね(注:ジミヘンは両利きだったという説もある、らしい)。最後に、カスタマイズを考えている人に一言お願いします。
小出 エレキギターって、私自身もそうなんですが、見た目もとても大事だと思います。見ていて気分が上がる、手にしたくなるというギターであればそれだけ練習にも身が入りますし、上達にも繋がります。そこに関してはとことんこだわっていただきたいですね。中の配線などは後からでもどうとでもなりますから、まずは見た目にこだわってみて欲しいです。
──素晴らしいアドバイスだと思います。ありがとうございました!!
御徒町スペシャルを鳴らして遊んでみよう!
ということで、BIG BOSSの店舗内の試奏ブースを借りて御徒町カスタムをちょい弾きしてみる。フロントは甘く、リアは思ったよりピーキー。このあばれ具合はまさにジミの遺産だ。
サウンドにはほれぼれだが、思った通り何しろ弾きにくい(笑)。ブリッジに置いた手に必ずボリュームポッドが当たるので、思ったようなピッキングもできないし、ミュートもままならない。とはいえ、まったく弾けないという感じでもないので数日、あるいは数週間も弾き続ければ慣れてしまう可能性は高いと感じた。
この環境であのプレイをするジミヘンはよっぽど手がでけーんだな、などと想像しつつ「HEY JOE」を弾くと実に気分が出る。この不思議な高揚感が得られるギターはそうそうないはずなので、それだけの投資対効果は十二分にあるといえるだろう。
今回は時間の都合で本当に音出しだけに終わったが、今度機会を見て御徒町の自宅からこっそりこのギターを持ち帰る予定だ。ということで実に楽しかった取材はここでおしまい。ギターの逆持ちカスタマイズを考えている方はぜひというか絶対にプロに依頼したほうが良いぞ。それでは筆者と御徒町はギターを抱えてこれから飲みに出かけるので今回はこの辺で。それではまた!
参考文献
「ジミ・ヘンドリックス機材名鑑」(DU BOOKS)