高齢者人口が増え続ける日本では、高齢者による車の事故は社会問題のひとつ。これを受けて、2022年5月から75歳以上の一部ドライバーは免許更新時の運転技能検査が必須になりました。しかし、交通機関が十分ではない地域では、免許を返納してしまうと生活ができない高齢者もいます。
そこで最近注目を集めているのが、免許不要で利用可能な「近距離モビリティ」です。9月13日にWHILLから発表された「WHILL Model S」(以下、Model S)も、免許不要で歩道を走れる近距離モビリティ。今回、プレス向け発表会で実際の乗り心地や操作感を体験してきました。
「シニア感」を押しつけないシンプルなデザインが特徴
シニア向けの「歩道も走れる近距離モビリティ」には、従来よりシニアカー(ハンドル型車いす)があります。しかし、シニアカーは足腰が弱ったお年寄りが乗る印象が強いため「自分はそこまでの状態ではないのでは?」と使用を躊躇する高齢者が多いのが現状。また、シニアカーは高齢者用にデザインされているため、アクティブなシニアからは使いたくなるデザインではないという声もありました。
そんななか、デザイン性の高い車椅子で人気のWHILLが発表したのが、今回発表された「WHILL Model S」です。Model Sはアクティブなシニアが使いたくなるようなデザインがコンセプト。
このため、開発元であるWHILLは本製品をシニアカーとは呼称せず「歩道も走れるスクーター」と呼称しています。なお、スクーターというと一般的には二輪車の意味で使われますが、WHILLでは“時速6km以下で走行する近距離モビリティ”の意味で使用しています。
写真を見ればわかるように、Model Sはシンプルなデザインが特徴。シニアカーというとぼってりとした低重心の車体に、さまざまなアクセサリーで煩雑な印象の見た目が標準的です。
一方、Model Sはスリムな本体に、あえて肘掛けや杖ホルダー、バックミラーといったアクセサリーを省いたシンプルな形。このシンプルさが自転車のようなアクティブさを演出しています。もちろん、人によってはバックミラーといったアクセサリーを必要とするかもしれません。そんな場合は別売りで後から追加も可能です。
実際の乗り心地はどうなのか?
発表会ではModel Sに試乗もできました。免許がなくても運転できる製品なので、操作は非常に簡単。D字型のハンドル中央にあるダイヤルで速度を設定し、あとはハンドル中央・パネル左右から突き出たバーを握って前進/後退します。
バーは「D」と書かれた側を握ると前進、「R」と書かれた側を握ると後退する仕様。一般的なシニアカーでは「前進」「後退」「低速」「高速」と漢字で役割がデザインされていますが、Model Sはあえて車のようなインタフェースデザインにこだわり、アルファベット表記を取り入れています。
ヘルメットや免許が不要で、歩道走行が可能な自走車両は時速6km以下と規定されています。このため、Model Sも最高時速は6km。これは大人の早歩き程度の速度ですが、実際に乗ってみると意外とスピードを感じます。試乗したときは天候もよかったため、風を切るような爽快感も味わえました。
Model Sは走行性能もなかなか優秀です。動画では最初に段差を乗り越えて室外に出ていますが、段差は7.5cmまで乗り越えられる仕様。また、動画後半では道をUターンしていますが、最小回転半径は148cm。さらに、10度までの登坂能力があります。いずれもシニアカーとしては標準的なスペックです。
気になる航続距離は満充電時で約33km。これはだいたい東京から横浜くらいの距離になります。一般的にシニアカーは電車移動よりも短距離の利用を想定しているので、航続距離としては充分だと感じます。バッテリーは24Vの鉛電池を採用しており、充電時間は標準充電器なら9時間40分、急速充電器なら6時間40分前後かかります。
ちなみに、屋外にコンセントがない場合、Model Sからバッテリーを取り外して室内でも充電できます。ただし、バッテリーを取り外すには、一度車体からシートをとり外す必要があるうえ、鉛電池は約15kgとかなりの重量です。個人的には、毎回バッテリーを外して充電するというは現実的ではないと感じました。
アシスト自転車のように気軽に乗れる近距離モビリティとなるか
WHILLといえば、デザイン性の高い電動車椅子で世界中から注目を集めているメーカー。それまで車椅子といえば、不自由をサポートするために必要に迫られて使う道具という位置づけでしたが、WHILLの電動車椅子は健常者も乗りたくなる魅力的なモビリティでした。
今回WHILLが発表したModel Sは、WHILLの電動車椅子ほどの衝撃的なデザインではありません。とはいえ、スクーターと自転車の中間のようなアクティブな形状で、シニア以前の筆者が運転していても違和感を感じないデザインです。従来まで「シニアカーにのると老けて思われる……」と敬遠していたユーザーでも、Model Sなら乗りたいと感じるのではないでしょうか?
日本はこれから超高齢化社会になるといわれていますが、高齢者がModel Sなどを利用してアクティブに外出することで、楽しく健康的に過ごせる時間を増やせるようになるかもしれません。