具体的には、当時のすべての天文記録を網羅的に調査。その内容について歴史学的および文献学的な検証を行ったという。その結果、ギリシア語や古代エチオピア語(ゲエズ語)などの史料から、一定の信頼性を有する皆既日食記録5件(西暦346年、418年、484年、601年、693年)が選定され、そこに記載されている皆既日食観測の詳細が検討されることとなった。そして、これらの観測記録を満たし得る地球の自転速度の変化幅(ΔT)が計算され、周辺の時代における皆既日食や掩蔽の観測記録との比較が行われたところ、従来ほとんどわかっていなかった4~7世紀の地球自転速度の精度を向上させることに成功。従来の断片的な日食・掩蔽記録を概ね支持する形となったという。これにより、地球の自転速度の減少は、4世紀から5世紀初めにかけてはごく緩やかになり、5世紀中頃から7世紀にかけて比較的急ペースになっていた可能性が示唆されたとする。
このような自転速度の変動は、ほかの地域で同時期に観測された日食などの評価にも用いることが可能であり、たとえば「日本書紀」や「隋書」に記されている628年の皆既日食や616年の金環日食の記録は、従来、その信憑性が疑問視されていたものの、今回の検討対象とされた601年に起きたアンティオキアの皆既日食に関する記録と符合することが確認されたという。
なお、今回の研究成果について研究チームでは、西暦4~7世紀頃の地球の自転速度は一定ペースで単調減少してきたとする従来の研究に、再考の余地を与えるものだとしており、今後も継続して、東ローマ帝国や周辺地域の天文記録を探索・検討し、ほかの時代についても同様の研究を進めていくとしている。
また、過去の地球自転速度の長期変動をより正確に知ることができれば、海面変動や、地球内部のマントルと外殻の相互作用など、長期的な地球環境の変動を理解することにもつながるとしているほか、天文現象と結び付けられた歴史的な事件や、そうした天文現象を記録として残した社会の特徴などについての知見が得られることも期待されるとしている。