人手不足を解消するため、最近では、社内業務を外部に委託する企業が増えています。「業務請負」も、そうしたアウトソーシングの1つ。しかし、業務請負とはどのような契約形態なのでしょうか。

ここでは、業務請負の内容や、業務委託、派遣などとの違いについて詳しく解説しました。業務請負のメリットやデメリット、注意点もまとめましたので、業務請負について知り、理解を深めてみましょう。

■業務請負とは

業務請負とは、社外の事業者に業務を委託するアウトソーシングの一種です。民法においては、請負契約のことをいいます。民法第632条では、請負契約について「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」とあります。

このように、請負契約とは「成果物の完成」を約束する契約であり、発注側は仕事の完成形を想定し、事業者に業務を依頼します。

依頼された事業者(請負業者)は、成果物の完成までを一任されたことになり、決められた納期までに責任をもって成果物を完成させ、納品する必要があります。請け負った業務の過程で生じた経費などは、基本的に、契約時に決めた報酬に含まれます。

請負業者が成果物を納品するまで、依頼した企業は業務工程について指示を出すことはできません。また、請負契約の性質上、請負業者は、依頼主である企業に自社の労働者を長期間常駐させることも多いです。

■業務委託や派遣との違いは?

業務請負と似た契約形態として、「業務委託」や「人材派遣」があります。これらは全て、労働力を外部に求めるという点で共通しており、混同しやすいものです。

では、業務請負と業務委託、人材派遣の違いはどこにあるのでしょうか。

<業務委託との違い>

まず、業務委託とはどのような契約形態なのか確認してみましょう。実は、「業務委託契約」という契約は、法律上存在しません。業務委託とは、民法上の「請負契約」「委任/準委任契約」を総称する実務用語なのです。

請負契約と委任契約、準委任契約を総称するものが業務委託であり、このうちの請負契約とは、一般的に言われる業務請負のことを指します。つまり、業務請負は業務委託の一種、ということになります。

請負契約(業務請負)がどのようなものかについては先ほど述べた通りですので、ここからは、委任契約と準委任契約について簡単に解説しましょう。

・委任契約

委任契約について、民法第643条には「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」とあります。

このように、委託契約とは、法律行為を委託する契約のことです。たとえば、弁護士に訴訟の事務を委託するような契約を指します。ただし、あくまで法律行為の依頼のみで、訴訟に勝つという結果までは依頼の範囲に含まれません。

・準委任契約

これに対し準委任契約は、法律行為を伴わず、事実行為(事務処理)を委託する契約です。準委任契約について、民法第656条には「委任の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する」と記載されています。

準委任契約は、法律行為ではない事務や業務を社外に委託する契約ですので、さまざまな事例が想定できるでしょう。一部の例を挙げるなら、セミナー講師としての講演、調査業務、社内システムの運用などの外注です。

以上についてまとめますと、請負契約が「成果物の完成、納品」を目的としているのに対し、委任契約や準委任契約は、依頼した事務、業務自体を目的としているという違いがあります。

<人材派遣との違い>

次に、業務請負と人材派遣の違いを確認してみましょう。労働者派遣法第2条では、人材派遣を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」としています。

また、同法第26条には、労働者派遣契約について「当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう」とあります。

つまり、人材派遣とは、派遣元と派遣先企業が契約を結ぶことで、派遣元と雇用契約を締結している労働者を派遣し、業務を遂行してもらうことを意味します。

業務請負と人材派遣の違いは、主に2つです。1つめは、「指揮命令権の所在」で、業務請負の場合、指揮命令権は請負業者にありますが、人材派遣の場合は就業先企業にあります。

2つめは、「契約の目的」です。業務請負が成果物の完成や納品を目的とするのに対し、人材派遣では、事務など依頼した業務の遂行を目的としています。契約の目的という点において、人材派遣は、委任契約や準委任契約に近いと言えるでしょう。

■業務請負のメリット、デメリット

外部に業務を委託できる、業務請負。では、業務請負には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。また、デメリットも確認したいところです。

業務を委託する側と受託する側それぞれのメリット、デメリットをご紹介しましょう。

<メリット>

・委託側のメリット

業務を委託する側のメリットとしては、その業務にかかる人件費や設備投資などのコストを削減できるという点が挙げられます。専門的な業務に携わる人材を採用し雇用すると、それだけで多大な労力や費用がかかってしまいます。そこで、必要な時だけ外部の専門家に業務を発注すれば、その分、コストを大幅に省くことができるのです。

また、人材派遣と違い、業務に携わる請負労働者を管理する必要がないこともメリットでしょう。3年など期間の制限もないため、長期にわたる業務を一任することも可能です。

・受託側のメリット

受託側にも、期間に制限がないことでメリットがあります。請負労働者にとっては、長期にわたる業務を依頼されるケースが多くなり、安定して長く働けるという点です。

請負会社も、期間に縛られることなく、自社の人材を長期に活用できます。労働者が長期的に働けることで、会社として人材を集めやすくなるメリットもあるでしょう。

また、業務請負は完成まで業務を一任されるため、依頼した会社から途中で指示が入ることもなく、請負会社が主体的に業務を完遂できます。委託側の企業に請負労働者が常駐する場合も、独立的に業務を行えますので、自分の専門業務に集中できるでしょう。

<デメリット>

・委託側のデメリット

一方、業務請負にはデメリットもあります。たとえば、業務を委託した企業は、受託側が成果物を完成させ納品するまでの過程では、指示を出すことができません。受託側を管理することは違法であり、罰則の対象となってしまうからです。そのため、請負労働者が常駐している場合でも、業務の独立性には充分注意を払わなければなりません。

また、成果物が期日までに納品されなかった場合には、委託した企業が何らかの損害を被る恐れもあります。

そして、業務を社外に委託できることは、コスト面でのメリットがある一方、社内で専門性のある人材が育たない、情報やノウハウを共有できないというデメリットも併せ持ちます。発生の頻度が高い、もしくは長期的に必要となる業務の場合、社内で人材育成を目指した方が良い場合もあるでしょう。

・受託側のデメリット

業務請負の目的が成果物の完成であることから、業務を委託された側は、決められた納期までに必ず仕事を完遂させる必要があります。請負会社は、業務に従事する労働者のスキルを管理するほか、プロジェクトの進行については常に注視しておかなければなりません。

もし、期日までに成果物を納品できない場合や不具合があった場合は、業務を委託した企業から損害賠償を請求されるケースもあります。

また、業務を委託した会社に請負労働者を常駐させる際には、業務の独立性を保つため、労働者に他の業務を行わせないよう管理することも必要です。

■業務請負の注意点

最後に、業務請負の注意点をご紹介します。業務請負については、主に以下の3点に充分気を付けましょう。

1.指揮命令をしない

先述の通り、業務請負において、委託する企業が受託側に指揮命令をすることは認められていません。委託側は、業務を遂行する上で受託側の独立性を保つ必要があります。

もちろん、依頼した企業の社員と請負労働者の間で日常的なコミュニケーションをとる程度は全く構いませんが、委託側の指揮命令のもと、受託側が仕事を手伝った場合などは問題です。

このようなケースは、請負会社が派遣元事業主、委託した企業が派遣先となる「労働者派遣」に該当する可能性があります。業務請負として仕事を行うと、違法となるため注意が必要です。

2.偽装請負にならないよう工夫する

1のように、委託側が受託側に指示を出して業務を行わせると、委託側、受託側ともに罰則が科されてしまいます。

これは、契約上は「請負」の形を取りながら、実際には「労働者派遣」で業務を進めさせる「偽装請負」になっているためです。

偽装請負に当てはまるか否かは、厚生労働省が発出している「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」等を踏まえ、判断されます。これには、委託した企業が請負労働者に対し、業務遂行に関する細かい指示を出している、勤務時間の管理をしているなどの行為が該当します。

偽装請負にならないためには、請負契約の内容を工夫し、可能な限り詳細に記載しましょう。たとえば、契約した作業内容に変更が生じる可能性があるなら、変更の可能性を示す条項を加える、などです。

こうした記載なしに請負労働者に指示を出してしまうと、偽装請負と見なされる危険があるため、事前に対策を取っておきましょう。

3.適切な契約形態を選択する

繰り返しとなりますが、業務請負では、成果物を完成させ納品することを目的としています。業務を行うこと自体が目的である場合、業務請負ではなく、委任契約や準委任契約として契約する必要があります。

成果物の完成義務を確認し、適切な契約形態を選択しましょう。

■業務請負を活用しよう

今回は、業務請負について解説しました。業務請負は業務委託の1つですが、人材派遣との区別がつきにくいケースもあるなど、委託側、受託側の双方が気を付けなければならない点もあります。

委任契約、準委任契約、人材派遣など他の契約形態も理解しつつ、業務請負を活用しましょう。