AppleからiPhoneの新製品「iPhone 14」シリーズが登場した。しかし華々しい発表会とは裏腹に、前モデルからの変更点は少ない。果たしてiPhone 14は「買い」なのだろうか? ライターの海老原昭が「買わない」理由を挙げてみる。
これじゃ「iPhone 13.5」だよ
9月8日(米国時間)に開催されたAppleのスペシャルイベント、深夜にも関わらず配信を見ていた方の中には、興奮した方もがっかりした方もいらしたことだろう。筆者ははっきり言うと「がっかり」というよりは「ずっこけた」と表現する方が正しい。
iPhone 14はiPhone 13と基本的なデザインを共有しつつ、内部がアップデートしているわけだが、そのアップデート内容がとにかく乏しい。AppleのサイトでiPhoneの機能比較をしてみると、iPhone 14とiPhone 13の間の違いは下表の通りだ。
iPhone 13 | iPhone 14 | |
・本体ケース | ||
厚み | 7.65mm | 7.8mm |
質量 | 173g | 172g |
・SoC | ||
SoC | A15 Bionic(GPU4コア) | A15 Bionic(GPU5コア) |
・カメラ | ||
メインカメラ | f/1.6 | f/1.5 |
フロントカメラ | f/2.2 | f/1.9 |
TrueDepthカメラ | 固定フォーカス | オートフォーカス対応 |
シネマティックモード | 1080Pまで | 4K HDR対応 |
Photonic Engine | なし | あり |
アクションモード | なし | あり |
・センサー | ||
衝突事故検出 | なし | あり |
ジャイロ | 3軸ジャイロ | ハイダイナミックレンジジャイロ |
加速度センサー | 加速度センサー | 高重力加速度センサー |
環境光センサー | 環境光センサー | デュアル環境光センサーに変更 |
・通信機能 | ||
CDMA EV-DO Rev.A | あり | なし |
Bluetooth | 5.0 | 5.3 |
衛星SOS | なし | あり |
・バッテリー持続時間 | ||
ローカルのビデオ再生 | 最大19時間 | 最大20時間 |
ストリーミング | 最大15時間 | 最大16時間 |
オーディオ再生 | 最大75時間 | 最大80時間 |
はい、完全にiPhone 13のマイナーアップデートだよね。筆者は優しいから言わないけど、スペックだけ見れば実はiPhone 12のマイナーアップデートでもある(言わないけど書いちゃう)。もちろんスペックに現れない、体感上の違いとか、写真の出来栄えだとか、そういう差異はもっとあるはず。とはいえ、2年間でこれっぽっちの進化しかしてないのかよ! Android陣営を見ろよ!……あっちもあんまり変わらないな。
そんなわけで14というよりは13.5くらいかな……13Rev.Bとかでもいいぞ……というのが正直な感想だが、そんなiPhone 14を買おうかどうか迷っている人たちの肩を押さずに引き留めて説得する材料をいくつか並べてみた。「買わない」言い訳を探している人はぜひご一読を。
理由1:SoCがA15世代のまま
SoCがiPhone 13と同じ「Apple A15」世代のままだ(ただしGPUユニットは4つから5つに増え、13 Proと同じSoCになっている)。もちろんA15でも十二分にパワフルなのだが、ProにA16が搭載されているのはいただけない。筆者は、iPhoneは同一世代内でSoCに差をつけない方が良いと考えている。iPhone 5sとiPhone 5cが同時に発売されたとき、5cは1世代前のA6プロセッサのまま、5sはA7を搭載した結果、ユーザーは5sに集中してしまった。デザインが1世代だけで終わってしまったのは、未だに初代iPhoneと5cだけだ。せっかく新しい世代の端末を買うのだから、たとえ実際にはA15とA16の違いがマイナーアップデート的なものだったとしても、より先進的なSoCを求めたいというのはユーザーとしては自然な感情ではないだろうか。今回、予約数の8割近くがProモデルという噂もあるが、それはそうだろうな、という感じだ。
理由2:カメラが1,200万画素のまま
Pro版のメインカメラが4,800万画素になったのに、無印は未だに1,200万画素のままだ。スペックを見ると、カメラモジュール自体は若干バージョンアップしており、f値などが改善しているし、Photonic Engineのおかげでカメラの写りそのものはよくなっているようだが「まだ1,200万画素止まりなのか」という見劣り感が強い(画素数が高ければいい、というものでもないのだが)。もっともProのほうも、メインカメラのみ4,800万画素というちぐはぐさがあるので、あまり強力にはおすすめできないのだが……。画素数にこだわる理由としては8K動画の撮影の可否があるのだが、Pro版もまだ8Kに対応していないので、この辺はAppleにもいろいろ思惑はあるのかもしれない。
理由3:Wi-Fi 6E非対応
無線LANではWi-Fi 6Eという規格が登場している。これは先日日本でも解放された6GHz帯の電波を使う規格で、Bluetoothや電子レンジと競合する大混雑地帯の2.4GHz帯、レーダーなどと干渉するほか、最近やや混み始めてきた5GHz帯とも違い、今のところまったくのブルーオーシャンと言っていいため、混雑の度合いなどに足を引っ張られる可能性が極めて少なく、快適に利用できる可能性が高い帯域だ(ただし障害物などには弱い)。2.4GHz帯も5GHz帯も、Wi-Fi 4(IEEE802.11n)以前の規格と共存するため、実力を出しきれないことが多いが、6GHz帯ならその心配はない。日本でも対応ルーターは登場しているのだが、まだクライアント側は少ない状況である。コンシューマ機にWi-Fiをいち早く導入したAppleにこそ、新しい規格を採用してもらいたいものだが、最近はすっかり保守的になってしまって……。
理由4:Bluetooth LE Audioはまだ?
これはiPhone 14だけの問題というわけではないが、モジュールがBluetooth 5.3に対応しているのに、5.3の新機能である「LE Audio」への対応が言及されていない。LE Audioはオーディオ機器(たとえばイヤホン)用の新しい規格で、従来のA2DP、HSP、HFPといったプロトコル(Classic Audio)を置き換えるかたちになる。低遅延、高品質な新コーデック「LC3」、マルチストリーム、ブロードキャストといった機能に対応している。LE Audio対応のイヤホンならこうした機能がメーカーの違いを問わず利用できるはずだし、実はAirPods Pro 2もBluetooth 5.3に対応しているので、この組み合わせならAACではなくLC3で接続されている可能性が高いと睨んでいるが、この辺りに触れられていないのは技術オタク的に大変萎える。まあ、この辺は将来のアップデートでシレっと対応してくるかもしれないので、そこまで重視しなくてもいいかもしれないが、「できるはず」のことが含まれていないと心配なものだ。
理由5:価格が高い
最新機種だからということもあるし、世界的な部品不足、急速に進む円安などの影響も大きいが、最安モデルが11万9,800円というのは、やっぱり高い。併売している旧機種と比べると、iPhone 13は10万7,800円から、iPhone 12なら9万2,800円から購入できる。もっとも12の場合、最安モデルはストレージが64GBなので、128GBで揃えて比べると9万9,800円になる。冷静に考えるとこの3機種、価格差2万円の間に微妙~な性能差をつけてきていて、実にいやらしい。ただしこの辺は考え方次第で、キャリアなどの「一定期間で下取りに出して新しい機種に乗り換える」プランを利用するなら、無視しても差し支えないだろう。
理由6:miniがない
iPhone 14ではサイズバリエーションとしてminiの選択肢がなくなって、大画面の「Plus」が復活している。miniは世界的にあまり売れなかったと言われており、消えてしまうのもやむを得ないかもしれないが、日本では結構支持していた人も多い。せめて一言くらい発表会で触れとけよ! というのが筆者の思いだ。まあでも、老眼が進んでくると小さい画面が厳しくなってきて、大画面サイコー! となるので、Plusという選択肢が増えたこと自体は評価したい(命名法則は整理してほしい)。
理由7:iPhone 15はもっと凄いんじゃね?
14の発表でずっこけつつも、頭の中では「んじゃ来年の15はも期待だな!」と思っていた。今回、Twitterのトレンドにいくつも登場するほど、多くの人が14に「なかったもの」について言及していたが、そのうちのいくつかは15に搭載されるであろう、という予想が立ったのだ(あ、ちなみにmicroSDカードとイヤホンジャックじゃないです)。iPhone 15に関する予想については、この記事に記すには余白が狭すぎるので、また別の機会に。
そんなわけで、iPhone 14については、過去一番「急いで買わなくてもいいんじゃないの?」感が濃厚である。Pro版についてはその限りじゃないけれど、じゃあA16ってスッゴイよね!という感じでもなさそうだ(Dynamic Islandは面白そうだけど)。逆に言えば、そもそもiPhoneシリーズ全体の完成度が高く、もはや大きな変化は起きにくいのかもしれない。しかしAppleといえばイノベーションの会社であり、世界最強企業でもある。細部に宿る深遠な改良もいいけれど、社会全体が浮かれて景気のひとつふたつも高揚するような、ドーンどド派手な花火の一つ二つも毎年打ち上げていただきたいのである。
それでもやっぱり新しいiPhoneはいいよね! 14欲しいよね! という方の気持ちもよくわかる(筆者とて11 Proからさっさと乗り換えたくて仕方がないのだ)ので、そういう方はぜひお買い上げいただきたい。実際問題として新しいカメラの写りは気になるし、Bluetooth 5.3も将来きっと役立つはず。Apple製品は発売と同時に買って長く使うのが一番お得なので、発売と同時にゲットして、持てる者も持たざる者も、共に仲良くiPhone 15を待とうではないか。