具体的には、構成元素が少なく結晶構造が単純なCu2Oに着目し、母体の銅イオンと等原子価のナトリウム(Na)不純物が正孔濃度を増加させるメカニズムの解明への取り組みが行われた。
p型Cu2O半導体では、銅イオンが抜けることで生まれる空孔が正孔を供給するアクセプターの準位が形成され、p型伝導することが知られている。第一原理計算の解析からNa不純物は、格子の隙間(格子間サイト)に位置し、この格子間のNaイオンと2つの銅イオンが抜けた空孔からなる複合欠陥(Nai-2VCu)が形成されることが判明。ドナー型欠陥(格子間Na)と2つのアクセプター型欠陥(銅空孔)で構成される複合欠陥が、アクセプターとなることが示されたとする。
また複合欠陥は、銅イオンの空孔よりアクセプター準位が浅く形成されるため、正孔ドーパントとしてさらに有効に機能することを確認。複合欠陥の構造から、Na一価イオンと銅一価イオンとの静電反発が原動力となり、隣接する2つの銅イオンが本来の格子位置から抜けて空孔が生成されることが推察されたとする。
さらに、Naイオンは銅イオンよりもイオン半径が大きく、より多くの隣接陰イオンと結合した方が安定になることから、複数の銅イオンが抜けても欠陥構造は安定に保たれると予測されたともする。
これらの結果から、銅空孔がp型伝導の起源となるCuIにおいても、不純物陽イオンと銅イオンの静電反発により、1つの不純物に対して複数の銅イオンが抜けて空孔を作り、正孔濃度の向上につながると考えられたと研究チームでは説明する。
加えて、Cu2Oを用いた検討結果から添加するアルカリイオンのサイズが、正孔生成・安定化において重要と推察されたことを念頭にドーピングするイオンの選定を実施。正孔を供給するアクセプター型複合欠陥の形成には、結晶構造に応じた適度に大きな不純物を選択する必要があるためで、今回は、大きな空隙を持つCuIの正孔ドーピングの不純物として、アルカリ金属の中からカリウム、ルビジウム、セシウムを検討。その結果、イオン半径が大きいセシウムの不純物を使うことで、CuI単結晶の正孔濃度を1017~1019にまで上げることに成功したという。
また溶液を原料として使う塗布法で、正孔濃度が1019cm-3以上で、p型有機半導体よりも桁違いに大きな移動度(1~4cm2/Vs)を有する薄膜を得ることに成功。セシウム不純物の欠陥構造を理論計算手法により解析したところ、Csi-3VCu-VIやCsi-4VCu-VIという添加されたセシウム、複数の銅イオン空孔とヨウ素空孔からなる複合欠陥が安定化され、どちらも浅いアクセプター準位を形成することが判明。このようなCuI中のセシウム不純物は、Cu2O中のNa不純物と同様、同じ原子価の陽イオン同士の静電反発により、1つの不純物に対して複数の銅イオンの空孔から構成されるアクセプター型の複合欠陥が正孔ドーパントとして機能することが示されたという。
なお、研究チームでは、今回開発した手法を用いることで、耐久性が求められるペロブスカイト太陽電池などの無機正孔輸送層への応用が期待されるとしている。