「低密度リポタンパク受容体関連タンパク2」(Lrp2)遺伝子異常は、臨床的にも実験的にも強度近視を引き起こすことが知られている。今回の研究では、神経網膜ではなく、RPE細胞で特異的にLrp2遺伝子をノックアウトさせるとVegf遺伝子発現が低下し、眼軸が非常に長くなること、つまり近視が進行することが見出された。また、眼軸長伸長、屈折度の近視化と共に、脈絡膜厚の菲薄化が起こることがわかったという。

これらの結果を踏まえ、RPE細胞におけるVegf遺伝子の発現量で屈折度が変化するかを検討すべく、RPE細胞特異的なVegf遺伝子ノックアウトマウスと共にVegf遺伝子発現亢進を促すフォン・ヒッペル・リンドウ(Vhl)遺伝子ノックアウトマウスを作成したところ、Vegfノックアウトマウスでは脈絡膜毛細血管板の喪失と共に脈絡膜の菲薄化が観察され、研究チームが開発したレンズ誘導近視モデルマウスと同程度に、眼軸長伸長および屈折度の近視化が示されたとする一方、Vegfを過剰発現するVhlノックアウトマウスでは脈絡膜毛細血管板の拡張、脈絡膜の肥厚と共に眼軸長伸長の抑制が見られたとのことで、研究チームではこれらの結果から、RPE細胞のVegf発現量が脈絡膜厚と眼軸長を規定していることが示唆されたとする。

  • 近視眼で見られる眼軸長の伸長は脈絡膜の菲薄化によって進行する

    近視眼で見られる眼軸長の伸長は脈絡膜の菲薄化によって進行する。近視とは網膜より前方で焦点を結ぶ状態で、その多くは眼軸長の伸長によって進行する(軸性近視)。今回の研究では、RPE細胞が分泌するVEGFが脈絡膜厚の維持に必要であり、近視進行抑制に関わることが明らかにされた (出所:慶大プレスリリースPDF)

また、強度近視では、成人後も眼軸長が伸長し続けることが知られていることから、慶大病院眼科外来における強度近視患者の眼軸長伸長程度の検討が行われたところ、脈絡膜毛細血管板が非常に薄い強度近視患者は、脈絡膜毛細血管板が維持されている患者よりも観察期間中、有意に長く眼軸長が伸長したという。

なお、現在、加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などの血管新生性網膜疾患に対する治療法として抗VEGF薬が広く用いられており、VEGFは治療の対象となっている。研究チームでは、今回の研究結果から、眼軸長の正常発達においてVEGFによる脈絡毛細血管板の維持が必要であることが明らかとなり、VEGFの適切な制御が新たな軸性近視の進行予防と治療法となることが期待できるとしている。