渡辺明名人への挑戦権を争う第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、9月12日(月)にはA級3回戦の藤井聡太竜王―糸谷哲郎八段戦が行われました。結果は113手で藤井竜王が勝利し、リーグ成績を2勝1敗としました。
本局は藤井竜王の先手番で横歩取りに。早々に△4二玉と形を決めたのが後手の作戦でしょうが、糸谷八段はさらに△5二玉と中住まいに構え直します。後手の手損になりますが、この違いがどのように出てくるかというのが序盤の注目点でしょう。
以下の進行は横歩取りにしてはやや珍しい駒組み合戦となりました。お互いに仕掛けの間合いを計っている感じですが、なかなか糸口をつかみにくい状況です。
48手目、糸谷八段が△7五歩と動きました。対して藤井竜王は▲8六銀△7六歩▲7五銀と7六歩の取り込みを許す間に、目標にされた銀を前線に繰り出して後手陣に圧力を掛けます。結果としてこの銀は後手の銀との交換になりました。
銀交換の直後に藤井竜王は▲3五歩とじっと突き出しました。力をためつつ飛車の横利きを通し、後手の攻め駒を刈り取る狙いです。対して△7七銀と構わず攻め込んだのが強烈な打ち込みになりました。藤井竜王は▲3五歩を指した以上、▲7六飛と根元の歩を払うのは当然の一手ですが、ここは藤井竜王がピンチに陥っているようです。
ここで後手は7八の金を取るか、8八の角を取るかの二択です。糸谷八段は△8八銀成と角を取りましたが、ここでは△7八銀成と金を取るほうがまさったようです。対して実戦同様に▲7二歩成は△7七桂成が効きます。この成桂にひもがつく状況かどうかが大きな違いなのです。本譜は角銀交換となって後手の駒得ですが、先手のと金が7二で存在感を示しています。
糸谷八段は桂馬を犠牲に飛車を先手陣に成り込み、寄せの足掛かりを作りますが、藤井竜王は金銀で鉄壁の陣形を構築します。後手陣には確実な足がかりが残っているので、攻めを急ぐ必要はありません。最後は後手の攻めを切らして、藤井竜王が2勝目を挙げました。
次戦のA級は9月21日(水)に豊島将之九段―稲葉陽八段戦が行われます。稲葉八段が3連勝として一歩抜け出すか。豊島九段が勝てば2勝1敗で6名が並ぶことになり、大混戦です。序盤の大一番に注目しましょう。
相崎修司(将棋情報局)
虎口を脱して2勝目を挙げた藤井竜王(写真は第48期棋王戦コナミグループ杯挑戦者決定トーナメントのもの 提供:日本将棋連盟)