「エアマックス狩り」が社会問題になった第1次スニーカーブームから20年、いま「令和版スニーカーブーム」とも呼ばれるような事態が起きている。

希少価値の高いモデルを所有することに喜びを感じる「スニーカーヘッズ」や、投資目的で購入する「リセーラー」が増えたことで、新古・中古スニーカーの価格が高騰しているのだ。

2022年3月には、コメ兵が阪急メンズ東京に新古・中古スニーカーの専門店「SNEAKER MARKET BY KOMEHYO」をオープン。店長の濱野了一氏に、昨今のスニーカーブームの実態を聞いた。

  • 新古・中古スニーカーの専門店「SNEAKER MARKET BY KOMEHYO」店長の濱野了一氏にインタビュー

    「SNEAKER MARKET BY KOMEHYO」濱野了一 店長

■SNS・ネット広告での情報拡散で需要が増加

――コメ兵でのスニーカーの平均商品単価が5年前に比べ、約1.5倍に伸びているそうですね。その理由は?

単純に、スニーカーの需要がどんどん高まっているということが挙げられます。

近年では、スニーカーをファッションアイテムとして身に着ける方だけでなく、希少価値の高いモデルを所有することに喜びを感じる「スニーカーヘッズ」や、投資目的で転売を前提に購入する「リセーラー」が増えています。こうした方々の登場が需要を押し上げる要因になっています。

――「スニーカーヘッズ」や「リセーラー」が増えているのはなぜでしょうか?

インターネット・SNSを通して、情報がごく簡単に手に入るようになったことが関係しています。

以前は「スニーカーヘッズ」と呼ばれるスニーカー好きな方が自ら情報を探して、追いかけて購入に至るという流れでしたが、いまは積極的に追いかけなくてもインターネット・SNSなどで自然と情報が入ってくるようになっています。

人気のあるスニーカーは抽選になることも多いですが、ネット広告などで抽選販売を知った方が「試しにやってみようか」と軽い気持ちで参加することも増えており、需要の引き上げにつながっていると考えています。

■二大人気は「ジョーダン 1」と「ダンクSB」

――特に高値で売買されるスニーカーの特徴を教えてください。

まず、ブランドとのコラボ商品は高値が付きやすい傾向にあります。いま流行っている限られたモデルのコラボ商品の場合は値段が上がりやすいですね。最近では、アメリカのヒップホップアーティスト、トラヴィス・スコットが手がける「カクタス・ジャック」とのコラボ商品はほとんどがプレミアム価格になっています。

「素材」も重要な要素です。スニーカーは経年劣化でいずれ壊れてしまうものですが、10年・20年経っても壊れないような素材を使ったものは比較的高値が付きやすいです。

――レディースと比べ、やはりメンズスニーカーのほうが高値が付きやすいのでしょうか?

実は、つい最近までは絶対にメンズスニーカーが高値だったのですが、いまは逆に「レディーサイズが高い」というモデルも出てきています。一部では、同じモデルにメンズサイズとレディースサイズがある中で、レディースサイズだけが値上がりするという現象が起きているのです。

レディースは、メンズで高値が付いたモデルを追いかけているのかと思いきやそうでもなく、有名人が着用して一気に値段が上がるケースが多いですね。

――メンズの場合、ブランドやデザインなど高値が付くスニーカーの共通点はありますか?

メンズはいま結構偏っていて、ナイキの「ジョーダン 1」と「ダンクSB」の2つがズバ抜けています。数が多いのはナイキですが、どのブランドにも高値が付くものがあります。

  • 人気の「ダンクSB」シリーズ、左から「NIKE SB」DUNK LOW WHAT THE P-ROD」、「NIKE SB」DUNK LOW PRO“Sea Crystal”

――特に高値が付くスニーカーの場合、いくらくらいで売れるのでしょうか?

「SNEAKER MARKET BY KOMEHYO」での取り扱いで一番高額となったスニーカーは40万円ほどです。しかし、市場全体を見ると10倍・20倍、あるいはそれ以上の価格で取引されているケースも多いです。

極端な例では、海外のオークションでマイケル・ジョーダンが試合で履いた「エア・ジョーダン」が約7,800万円、カニエ・ウェストがグラミー賞授賞式で履いていた「ナイキ・エア・イージー」が約2億円で落札されたことがあります。

  • 40万円ほどの値がついた「NIKE × Trophy Room」Air Jordan 1 High Chicago

――――スニーカーを高く買い取ってもらうためのポイントを教えてください。

単純なことですが、「次に履く人がどのような状態で購入できたらうれしいか」を考えることが大切です。買取店に持ち込む前に、ウェットティッシュで拭いてきれいにするくらいのことでも買取価格が変わってきます。

また、箱や替え紐などの付属品が揃っていることも評価を上げるポイントになります。さきほど挙げた40万円で売れたスニーカーの場合、ナイキの手違いで替え紐があるバージョンと替え紐がないバージョンが出ていました。同じ商品でも替え紐がないバージョンは20万円程度でしたが、替え紐のあるバージョンは約2倍の価格になりました。

■スニーカーはもはや「アートの域に達している」

――今年3月に阪急メンズ東京にスニーカー専門店「SNEAKER MARKET BY KOMEHYO」をオープンされましたよね。こちらはどのようなお店なのでしょうか?

阪急メンズ東京の8階全体が「GINZA SNEAKER HILLS」というスニーカーの"基地"のようになっています。その中に「MARKET」「MUSEUM」「SCHOOL」「HOSPITAL」の4つのセクションがあり、コメ兵が担当する「MARKET」では、新古・中古のスニーカーの販売と買取を行っています。

それ以外のセクションについては、「MUSEUM」ではスニーカーの歴史を感じられる展示、「HOSPITAL」ではスニーカーの修理やクリーニング、「SCHOOL」ではスニーカーをカスタマイズするワークショップなどを行っています。

――百貨店での新古品・中古品の展開は珍しいですが、阪急メンズ東京にスニーカー専門店を出店した経緯は?

「GINZA SNEAKER HILLS」のフロアを企画した阪急の担当者さんから出店のお話をいただきました。フロアのテーマが「スニーカーカルチャーを通して循環型社会を目指す」というようなものだったので、リユース企業としては「渡りに船」と、前のめりで参加させていただきました。

百貨店としても、館の中にリユースショップが入るというのは大きなチャレンジですし、コメ兵としても百貨店に新古品を販売する店舗を出すのはこれが初めてだったので、双方にとって「挑戦」でしたね。

――オープン後の反響はいかがですか?

反響は「想定以上」です。こうして取材を受ける機会も圧倒的に多く、テレビ、雑誌、YouTubeなどさまざまな媒体からひっきりなしに連絡をいただいています。

百貨店にいらっしゃるお客様は中古品に抵抗がある方も少なくありませんが、いざやってみると「こんなの見たことない」とすごく喜んでいただけることが多いのがうれしいですね。

メンズ館でありながら、女性のお客様の来店が多いのも意外な反響でした。男性向けのプレゼントを探しに来る方、自身が履くスニーカーを探しに来る方、買う目的ではなくフロアを見に来る方、それぞれ同じくらいの割合でいらっしゃいます。スニーカーを通して色んな体験ができるフロアなので、メンズ館でも女性がわざわざ来たくなるようなコンテンツに仕上がっているのかなと思っています。

  • 500点前後のスニーカーを取りそろえる「SNEAKER MARKET BY KOMEHYO」

――最後に、濱野さんご自身もスニーカーがお好きとのことですが、スニーカーの魅力を教えてください。

シンプルに言うと「造形美」です。ただの履き物、消耗品という枠ではなく、もはや絵画のような「アート」の域にまで達しているので、フィギュアのように展示物としてもとらえられるようになってきています。

特にInstagramでは最善の環境、最善の撮影方法で撮られたスニーカーの画像が投稿されているので、実物より良く見えてしまうこともあるくらいです。スニーカーブームは何度も起きていますが、やはり今回のブームはSNSの発達が大きく影響していると感じますね。