マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米ドル/円の状況について解説していただきます。
米ドル/円は急ピッチで上昇してきました。9月1日に24年ぶりに140円を超えたと思ったら、そのわずか4営業日後の7日には145円に限りなく接近しました。
9月6日にRBA(オーストラリア中央銀行)、7日にBOC(カナダ中央銀行)、8日にECB(欧州中央銀行)が相次いで0.50%~0.75%の大幅な利上げを実施。さらに、15日にBOE(英中央銀行)、21日には米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が大幅な利上げに踏み切ると予想されています。
一方、日本銀行は2%の物価目標の安定的・持続的な達成を目指して(頑なに?)大規模な金融緩和を続けています。
円は2年連続「最弱通貨」
米ドル/円の上昇は、金融市場がそうした金融政策の方向性の差を強く意識しているからでしょう。その証拠に、円はその他の主要通貨に対しても大きく下落しています。Bloombergが対象としている主要17通貨のなかで、円は21年の最弱通貨であり、22年(9月8日まで)の最弱通貨でもあります。
円安の水準ではなくスピードを問題視
さて、足もとの急速な円安を受けて、日本の財務省・日本銀行・金融庁は9月8日、「国際金融資本市場に係る情報交換会合(三者会合)」を臨時開催しました。神田財務官は会合後に、最近の円安は「明らかに過度な変動」としたうえで、政府として「動きが継続すれば、あらゆる措置を排除せず、為替市場において必要な対応をとる準備がある」と述べました。
神田財務官はまた、6-7日の約5円の円安(=米ドル/円の上昇)は「ファンダメンタルズだけでは正当化できない急激な動きである」と指摘。直近1カ月の変動率は昨年平均の倍以上になっており、政府・日銀は「きわめて憂慮している」と明言しました。
神田財務官の円安けん制は、かなり強い口調でした。ただ、円安トレンドの転換を意図したものではなさそうです。そもそも、問題視しているのは、円安の水準ではなくスピードです。
3カ月前のデジャヴ
実は、今年6月10日にも三者会合が開催されています。当時も円安が進行しており、6月1日に130円を超えた米ドル/円は、5営業日後の8日には135円に接近していました。つまり、3カ月前にも今回と同様の動きがあったのです。ただし、円は今回より約10円高い水準でした。そして、前回は「一層の緊張感を持って注視していく」などとする三者会合の声明が発表されました(今回は声明なし)。その後、円安のペースが落ちたこともあって、日本の当局が特段の対応をしなかったことは周知の事実でしょう。
円安は「ファンダメンタルズで正当化できる」?
神田財務官は、日銀の金融政策については(2%の物価目標達成という)責務を果たすよう適切な運営を期待するとの旨を述べました。また、米国を含めた各国当局とは緊密に連携しており「しっかり意思疎通はできている」とも語りました。要するに、円安の方向性は「ファンダメンタルズで正当化できる」との見解を表明しているとも受け取れます。
もちろん、円安のスピードが速かったのは事実でしょうから、為替介入や日銀による長期金利上昇の容認などの当局の対応がなくても、円が自律的に反発する(=米ドル/円が反落する)局面があっても不思議ではないでしょう。