大口径化への対応と新工場による生産能力の向上
また、同社は新製品の開発や製造能力の増強にも余念がない。2022年5月には2kV耐圧のSiC MOSFETおよびダイオードを発表している主にDC1500Vベースのシステムに向けたもので、従来の1700V SiC MOSFETと比べて、宇宙線によるFIT率を10分の1に低減することができるといった特徴があるという。
「市場のニーズに対応するためにはパワー半導体のみならず、コントローラ(マイコン)やゲートドライバIC、スイッチなども提供している。こうしたシステムに必要なものをソリューションとして提供することで、スタートアップや新たなアプリケーションの開発などであっても短期間での設計が可能になり、カスタマの設計労力を減らすことができるというメリットを提供できるようになる」と幅広い製品を展開する背景を語る。
加えて、旺盛な需要に応じるための設備投資も進めている。すでにオーストリアのフィラッハの工場では300mm Siパワー半導体工場の竣工により、空いた150mmと200mmのラインをWBGウェハに対応するように改修。GaN、SiCともに生産可能なものになっているとする。
また、2022年2月にはマレーシアのクリムの拠点を拡張することを決定。もともと同工場ではダイシング(シンギュレーション)やエピ工程を行っていたが、新たに200mmウェハのSiCやGaNの前工程に対応する第3棟を20億ユーロを投じて建設する計画で、2022年6月に建設を開始、2024年夏より設備の搬入を開始、2024年後半に生産を開始、本格的な量産を2025年より行う計画としている。これにより同社は新たに年間20億ユーロの売り上げ増が期待できるようになるとしている。
現在、半導体製造装置の納期が延びており、半導体メーカーによっては、設備投資の一部を2023年に遅らせるといった動きを見せるところもでている。こうした状況に対し同氏は、「実際に製造装置を搬入するのは2024年であり、現在の市況もそのころには改善されていると思っている」と、まだ時間的に余裕があることを踏まえ、状況を見極めていくとする。
環境意識の高まりが追い風に
各国ともに政府レベルでの環境対策が次々と進む現在、同社はこれを追い風と感じているという。需要の高まりからSiCウェハの需給バランスのひっ迫も懸念されてはいるものの、同社は4社のウェハサプライヤとパートナーシップを締結しており、必要な量の確保を進めているほか、2018年には独自のウェハスライス技術「Cold Split」を有するスタートアップ企業「Siltectra」を買収。レーザーを活用することで、1枚のウェハを(素子形成ウェハと素子未形成のエピウェハという)2枚に分割する技術であり、この技術を活用することで生産枚数を増やすことを可能としている。すでにパイロットラインについてはドレスデン工場にて立ち上げ済みで、量産についても2025年をめどにアジアにて立ち上げる計画だとしている。
SiCデバイスメーカーの中には自前でSiCウェハを調達する企業もいるが、同氏は「Infineonが目指すべきレベルのウェハが供給されないのであれば、自前で供給することも考えるが、品質面をはじめ、コストバランスや投資面などさまざまな角度から本当にそれが必要かどうかを考える必要がある。現在、我々はしっかりとした品質のものをパートナーより提供されており、それと同じレベルのものを自分たちで用意できるとは思っていない(例えば昭和電工と同社は2021年5月にSiCエピウェハの共同開発ならびに長期販売契約を締結したことを発表しているほか、昭和電工は2022年9月7日に、200mm SiCエピウェハのサンプル出荷を開始したことを発表している)。だからこそ、そうやって得た高品質のウェハを、Cold Splitなどの技術を活用して有効活用できる方向性を探っている」と、あくまで自分たちはデバイスメーカーであるとする。
ただし、そうした一方で「システムとしての製品供給が重要になってくる」(同)ともする。いわゆる、創エネ(発電)、蓄エネ(2次電池/EV)、省エネ(スマート化)の3つの分野がつながる中で、エネルギーをうまく融通することが求められるようになってくるわけで、太陽光発電から蓄電池に電力を移行させるにしても変換器で電力のロスが生じる。さらには、そうしたシステムが電力グリッドに多数つながり、それらが融通するような未来がくることが想像される。そうした意味では、単体での半導体だけではなく、そうしたインテリジェントに相互接続を可能とする技術なども重要になってくるが、そうしたシステムに関する知見もさまざまなカスタマとの取り組みを通じてすでに有しているという。
また、世界的にグリーン調達に対する意識も高まりを見せている。いわゆる、環境負荷の少ない製品や商品、サービスや環境配慮などといった環境に配慮した取り組みを進めている企業を優先的に調達対象にする取り組みであり、同社でも2030年までにカーボンニュートラルを実現するための計画を発表。直接排出量だけでなく、電気や熱の生成による間接排出量も含めた独自目標を定め、2025年までに2019年比で70%の削減を目指すとしている。
「サステナビリティはSDGsといった言葉を使うまでもなく大きなポイントとなっている。我々も会社の戦略として重要な位置づけとなっており、将来の世代に対してマイナスな影響を及ぼさないようにすることを責任とし、マネジメント戦略に組み込んでいる。地球をいかに健全な状態で子供や孫に受け継いでいくかを考えていく必要がある」(同)と、すでに環境配慮に向けた取り組みを進めており、規制に向けた動きは、まさに自分たちの取り組みの正しさの証明になり、より多くの顧客を呼び込むことが期待されるとする。
日本市場をInfineonはどう見ているのか?
なお、世界的なSiCニーズの高まりをけん引する再生可能エネルギーとEV市場だが、日本においてはまだそこまで大きな動きが見られないという。
太陽光発電システムについては、メガソーラーについてはすでに需要が一巡し、風力発電、特に洋上風力発電の設置が期待されるが、大きな動きはまだ見えない。一方のEVについても徐々に日本の自動車メーカー各社も本腰を入れつつあるように見受けられるが、テスラや新興の中国系ほどの勢いはまだなく、そこまで現状で引っ張りだこという状況にまでは至っていない模様である。ただし、同社は、電力効率の問題などから日本の自動車メーカー各社も遅かれ早かれSiCをEVに採用することになると見ており、そうしたEV化の流れが加速していけば、日本におけるSiC市場の拡大が進むことが期待されるとしている。