JR西日本とJR四国は2023年3月に特急料金の割引を一部終了する。JR西日本の発表は「B特急料金を廃止しA特急料金に統合」「特定特急料金の値上げ」「山陽新幹線岡山~下関間で在来線特急と乗り換える場合の乗継割引の廃止」など。「乗継割引の廃止」は岡山駅発着で運転されるJR四国の在来線特急列車も含まれる。「JR西日本とJR四国区間にまたがる特急列車の50km未満の自由席特急料金もA特急料金に変更」となる。JR四国は2023年春に向けて運賃値上げも国土交通省に申請した。

  • 山陽新幹線と接続し、岡山駅発着で四国方面へ向かう特急列車の乗継割引も廃止に

乗継割引は「新幹線と在来線特急を同日に乗り継ぐ場合、在来線特急料金を半額にする制度」だ。山陽新幹線岡山~新下関間で乗継割引が適用される特急列車は、岡山駅発着の「うずしお」(高松・徳島方面)、「しおかぜ」(松山方面)、「南風」(高知方面)、「スーパーいなば」(鳥取方面)、「やくも」(出雲市方面)、新山口駅発着の「スーパーおき」(米子・鳥取方面)がある。

岡山駅で寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」と山陽新幹線を乗り継ぐ場合も、「サンライズ瀬戸・出雲」に乗継割引が適用された。「サンライズ瀬戸・出雲」は関東と四国・山陰を結ぶ列車だが、岡山駅で広島・九州方面に乗り換えるという使い方もある。なお、JR四国は「在来線特急と寝台特急サンライズ瀬戸の乗継割引の廃止」も発表している。

両社とも乗継割引の廃止は2023年4月1日乗車分から。3月中に手配しても乗継割引は効かない。在来線特急料金の新料金適用は4月1日購入分から。3月中に手配すれば値上げ前の料金となる。JR西日本とJR四国にまたがる50km未満の特急自由席料金は、JR四国の運賃値上げと同時期となる。

■「乗継割引」の「役割は終わった」とは?

朝日新聞の9月3日付「新幹線や寝台特急と四国の在来線特急の『乗り継ぎ割引』来春廃止へ」によると、JR四国営業部が「乗り継ぎ割引は、新幹線の利用促進という導入当初の役割は終わった」と説明したという。ちなみに、「乗り継ぎ割引」が正しい送り仮名表記で、きっぷの制度名は「乗継割引(制度)」となる。

乗継割引の設定は東海道新幹線をきっかけとしている。1964年10月に東海道新幹線が開業すると、それまで東京~博多間で運行していた特急「つばめ」「はと」が新大阪~博多間に短縮された。半ば東海道新幹線の乗車を強制されてしまった。特急券は1列車につき1枚が原則だが、新幹線と在来線を乗り継ぐと2つの特急券が必要となり、料金が上がる。利用者としては納得しかねただろう。

そこで救済措置として、「つばめ」「はと」の新大阪~岡山間、「ゆうなぎ」の新大阪~宇野間などに特定特急料金を設定した。正規料金で1等1,320円を半額の660円、2等も600円を300円とした。半額になっているものの、当時まだ乗継割引制度はなく、個々の列車に特定特急料金を設定する形になっていた。

乗継割引の誕生は1年後の1965年10月から。新幹線に接続する形で特急列車が新設された。「しおかぜ」(新大阪~広島間)、「いそかぜ」(大阪~宮崎間)、「あすか」(名古屋~東和歌山間)、「やくも」(新大阪~浜田間)、「あかつき」(新大阪~長崎・西鹿児島間、寝台車)だ。このときに乗継割引制度が始まる。列車ごとに特定料金を設定すれば窓口作業が煩雑になるし、将来の新幹線延伸にも対応できる。

乗継割引は東北新幹線方面にも適用された。従来、上野駅から乗換えなしで運行した特急列車が、新幹線駅接続となったからだ。つまり、乗継割引は「いままで直行できた列車の乗客を新幹線に移行するため、高額な特急料金から利用者を救済しよう」という主旨がある。したがって、東京発房総方面や中央本線の特急列車のように、もともと東海道本線と直通する列車がなかった場合は乗継割引の対象外となった。

寝台特急「サンライズ瀬戸」と四国内特急列車の乗継割引は、新幹線とは関係ない。こちらは1961年に設定された宇高連絡船を介した特急列車の割引運賃を継承した形となっている。要するに、1960年代に作られた古い割引制度が40年以上も続いていた。

  • 寝台特急「サンライズ瀬戸」と四国内特急列車の乗継割引も廃止される

国鉄分割民営化以降、乗継割引は縮小されていった。2004年に九州新幹線が一部開業した際、JR九州は乗継割引の扱いをせず、その代わりに在来線特急「リレーつばめ」と九州新幹線「つばめ」を同一列車とみなした。さらに2011年、JR九州は乗継割引制度を廃止した。

乗継割引があると、小倉駅または博多駅で山陽新幹線(JR西日本)と在来線特急列車(JR九州)を乗り継ぐ場合、一方的にJR九州側の特急料金収入が減る。これはJR九州にとって不公平だ。小倉~博多間はJR九州も在来線特急列車を走らせており、競合関係にある。JR九州がJR西日本の新幹線の利用促進をする道理はない。また、博多~新鳥栖間は九州新幹線の他に鹿児島本線経由の特急列車も走っている。山陽新幹線の乗継割引で在来線特急料金が安くなると、九州新幹線の利用促進にならない。

新幹線駅のうち、乗継割引が適用される駅も減った。東北・上越新幹線は当初、東京駅、上野駅、大宮駅以外のすべての駅を対象としていた。しかし現在は新青森駅、新潟駅、長岡駅のみ。北陸新幹線は長野駅、直江津駅、金沢駅、津幡駅(金沢駅扱い)、北海道新幹線は新函館北斗駅のみだ。これは利用できる列車そのものが減ったという事情もある。

乗継割引は全廃ではない。JR西日本でも新大阪で乗り換える場合は乗継割引の対象だ。たとえば東京駅から紀伊半島の新宮駅に行く場合、新大阪で在来線特急「くろしお」に乗り換える場合の特急料金が半額になる。JR東海も乗継割引がある。東京か新宮に行く場合、名古屋で在来線特急「南紀」に乗り換える特急料金が半額になる。これから旅する人は、利用区間の乗継割引の有無を調べて旅費を節約しよう。

■「B特急料金」とは何か?

「B特急料金」の始まりは1970年代にさかのぼる。ただし、市販の時刻表に「B特急」の表記が現れる時期はずっと後、国鉄分割民営化・JRグループ発足以降のようだ。それまでは、列車と区間を詳細に定めた「特定特急料金」のひとつだった。短距離区間や寝台列車の日中走行区間が示された。市販時刻表1975年3月号では、おおむね100km未満の区間が挙げられている。後のB特急料金区間とほぼ同じだ。正規特急料金は200kmまで700円、自由席特急券は600円、特定特急券は500円。ちなみに急行券は100kmまで200円、200kmまで300円だった。

1981年に東京駅から伊豆方面の急行列車・普通列車で185系の導入が始まった。185系は特急列車から普通列車まで幅広く運用される車両で、当時の特急車両としては見劣りする存在だった。この車両を次々に投入し、1982年に急行「伊豆」を特急「踊り子」へ格上げしていく。関東北部の急行列車も同様だ。つまり、いままで急行料金で乗れた列車が、特別感のない車両で特急列車化された。国鉄の増収策とはいえ、値上げとなった。利用者としては納得しがたいが、特定特急料金だから、他の地域の特急列車より低いランク扱いともいえる。

  • 特急「踊り子」などで活躍した185系。特急列車から普通列車まで幅広く運用された

各地の急行列車の格上げが相次ぎ、長距離特急列車より格下の特急列車が増えた。そこで特定特急料金の体系を見直し、「列車指定」から区間指定として整理した料金体系が「B特急料金」といえる。これに対して、正規特急料金を「A特急料金」と呼んだ。

来年春、JR西日本はB特急料金を廃止する。しかし、B特急料金はJR東日本とJR九州で存続している。とくにJR九州は営業施策上、新幹線を除くすべての区間がB特急料金となっている。B特急料金の役割は終らない。

■特急料金は値上げしやすい

JR西日本がB特急料金を廃止してA特急料金に統一する。その理由は「値上げしやすいから」だろう。JR西日本に限らず、鉄道事業の収支は厳しい。本音を言えば、運賃そのものを値上げしたい。しかし、運賃(乗車券)の値上げは国土交通大臣の認可が必要で、その過程で審議会があり、パブリックコメントの手続きなど時間がかかる。一方、特急料金については届出だけで値上げできる。

運賃値上げを行わず、割引を廃止する。この流れはいままでにもあった。「周遊きっぷ」をはじめとするフリーきっぷの廃止、回数券の廃止などだ。その延長で、JR西日本は特急料金の見直しを決めた。これはサービス業の値上げにとって良策ではない。一般に料金を上げる場合は、定価を上げる一方でお得意様に割引施策を用意し、顧客の不満や客離れを和らげる。JR西日本に限らず、鉄道事業者の多くはこの逆の施策をとる。

鉄道事業者もそこは理解しているはず。問題は「定価」にあたる運賃を上げにくい法律になっていることだ。その改善を含めて、国土交通省は上限運賃制度の見直しを検討している。しかし、JR西日本はそれを待てない。他のJR旅客会社も追随するだろう。

■値引きサービスは「オンライン予約」へ

本題とは少し逸れるが、「フルムーン夫婦グリーンパス」の廃止も話題になった。夫婦の年齢88歳以上でグリーン車乗り放題というきっぷだ。独身の「乗り鉄」の多くが、「いつか使ってみたい」と思っていたはず。しかし、これも「役割を終えた」「割引を廃止する」という方針の延長にある。あるJR関係者に聞いたところ、「上原謙さん、高峰三枝子さんがCMをしていた頃に比べると売れていない」という。売れていない物に対して、「大物タレントを使って広告費用を割いて、割引きっぷを売る」というビジネスモデルはもう使えないかもしれない。

筆者は「乗継割引制度の認知度も低下した」と思う。出張や旅行で、きっぷをそのつど買い求めるという状況をしばしば見聞きする。予定がはっきり決まっていないなら仕方ないが、行程が決まっていれば一括できっぷを買ったほうがいい。「みどりの窓口」でも、気が利く職員なら乗継割引を勧める。会社の総務部がきっぷを手配すれば、必ず乗継割引で手配しただろう。利用者本人が出張手配するしくみだと、乗継割引に気づかない。

きっぷのルールを熟知して割引きっぷを使っていた利用者から見れば、どこか納得がいかない。しかし、JR各社はいま、オンライン予約システムで割引きっぷを用意している。JR西日本はオンライン予約サービス「e5489」で、在来線特急列車向けに最大3割引の「WEB早特」を用意した。JR東海は「スマートEX」と「エクスプレス予約」で東海道・山陽新幹線の割引料金を設定している。JR東日本とJR北海道は「えきねっと」で割引運賃を提供。JR九州は「ネット予約」、JR四国とJR東海の在来線特急列車はJR西日本の「e5489」を使う。

そう考えると、単なる割引サービスの廃止ではなく、割引サービスのルールが変わっただけともいえる。オンライン予約サービスの拡充を望みつつ、PCやスマートフォンの操作に不慣れな人の救済方法も忘れないでほしい。