今回の取り組みでは、銀河のどこでどのように星が誕生し死んでいくのかをシミュレーションする必要があるが、それには多様な物理過程を考慮した大規模な計算が必要となる。しかし、アテルイIIとASURAコードの組み合わせにより、天の川銀河を構成する星と星間ガスの進化が追跡され、放射冷却で冷えて低温・高密度になったガスから新たに星が形成され、その星の進化に伴う紫外線放射や超新星爆発による星間ガスの加熱の過程を含めたシミュレーションが実現されたという。

その結果、棒状構造の形成後、すぐに回転の勢いを失った大量の星間ガスが銀河中心の約6000光年以内の領域に流れ込み、爆発的に星が形成されることで、新たな銀河構造である中心核バルジが形成されることが示されたという。

  • 天の川銀河の円盤を正面から見た概略図

    天の川銀河の円盤を正面から見た概略図。円盤の中心付近に星が細長く集まる棒状構造があり、その両端付近から渦巻き腕が伸びた形をしている。棒状構造の中心部には、中心核バルジと呼ばれるさらに星が集中した領域が存在する (c)国立天文台 (出所:NAOJ CfCA Webサイト)

それに対し、棒状構造となった領域では星間ガスが枯渇するため、星形成活動は急激に低下することも判明。このように棒状構造の形成により、天の川銀河内での星形成活動が領域によって異なるという現象が引き起こされた可能性が指摘されたとする。

さらに、棒状構造となる前に存在した星は、棒状構造との重力相互作用による「軌道共鳴」によって銀河円盤の鉛直方向に散乱され、棒状構造がピーナッツ型に立体化することが示されたという。従来の研究では、このような現象は、星々の運動の速度差が大きいことによって生じる不安定性によって棒状構造が鉛直方向に振動し、「へ」の字型にたわむことによって生じると考えられてきた。しかし今回の研究では、棒状構造がたわむのではなく、棒状構造形成による星の軌道共鳴現象によって引き起こされることが示唆されたという。

  • 天の川銀河の棒状構造の進化の様子

    今回のシミュレーションによる天の川銀河の棒状構造の進化の様子。上段が銀河面を真横から見た星の分布、中段が銀河を正面から見た星の分布(オレンジ)とガスの分布(黒)。下段も同じく銀河正面で、星形成の活発さが表されている(赤い部分ほど活発)。15億年頃に棒状構造が形成され始めると、中心核バルジ部分(中心から約3260光年以内)にガスが集まり、星形成が活発になる。一方、棒状構造(中心から約3260~9780光年の間)のガスは徐々になくなり、35億年では棒状構造でほとんど星が作られていないことがわかる。また、棒状構造を真横から見ると(上段)、次第に長方形またはピーナッツ形状になっていくこともわかる (c)馬場淳一 (出所:NAOJ CfCA Webサイト)

なお、今回の研究結果から、棒状構造形成時に爆発的に星が生まれる領域と星形成活動が不活発な領域ができることで、構造内の異なる領域でまったく異なる星の年齢構成を示すことが期待されると研究チームでは説明しており、今後、このような年齢分布の違いを観測的に明らかにすることで、天の川銀河に棒状構造がいつ形成されたのかを推定できるとしている。

  • シミュレーション結果

    中心核バルジと、銀河面から離れた棒状構造の星で期待される年齢構成のシミュレーション結果。中心核バルジでは棒状構造の形成時期より若い星が多く、銀河面から離れた棒状構造の領域では逆に古い星が多いと期待されるという (c)馬場淳一 (出所:NAOJ CfCA Webサイト)

また、そのためには、地球から観測した星がどの距離にあり、どのような運動をしているのかを知る必要があるが、外側のピーナッツ型領域ならGaiaによりある程度観測することが可能だとするものの、中心核バルジ領域は星間物質によって可視光線が強く吸収されるので、Gaiaの可視光帯観測では星の運動を測定できないため、現在、NAOJも含めて国内外27の大学や研究機関の60名の研究者が参加し、2028年の打ち上げを目標として赤外線位置天文観測衛星「JASMINE」の開発が進められており、これにより中心核バルジ領域の星々の精細な観測が期待できるようになるとしている。

今回のシミュレーションで描き出された、天の川銀河の棒状構造が進化する様子の動画。映像中の「1Gyr」は「10億年」が表されている (c)馬場淳一、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト