都内に「美術館のようなホテル」といわれるホテルがあるのをご存だろうか。それが、港区汐留にある「パークホテル東京」だ。

2003年に開業した「パークホテル東京」は、「日本の美意識が体感できる時空間」をテーマに、「アートホテル」としての存在感を確固たるものにしてきた。

コロナ禍で「おこもりステイ」が注目されたこともあり、最近では都内在住のゲストも多いという。「ホテルでアートを楽しむ」というのは一体どういうことなのか、実際に「ARTなおこもりステイ」プランを体験した。

400点以上のアートが散りばめられた館内

東京・汐留にあるパークホテル東京は、「日本の美意識が体感できる時空間」をコンセプトにしたアートホテル。ゲストは、ホテルの柱である「ART=空間(Atrium)食(Restaurant)旅(Travel)」のそれぞれのシーンで、日本ならではの美意識を体感することができる。

ホテルを訪れたゲストが最初にやってくるのが、地上25階にある「アトリウム」。フロントやロビーのほか、レストランやバーも備えたこのフロアは、まさにホテルの「顔」といえる。高層ビル内でありながら、都内最大級の高い吹き抜けや木をアクセントにしたしつらえが、開放感と同時に「隠れ家」のような落ち着きを感じさせてくれる。

枯山水に見立てたカーペットや置石をイメージしたソファ、砂にできた風紋を表現したテーブルからも「日本の美意識」が垣間見えるはずだ。

パークホテル東京が「美術館のようなホテル」といわれるワケは、絵画やオブジェなど常時400点以上のアート作品を展示しているところにある。

地下2階・1階・25階のフロント・ロビーのほか、26階~34階までの客室フロアの回廊などで年間を通してアート展示を開催。ホテルから一歩も外に出ることなく、どっぷりとアートに浸かる時間が過ごせるのだ。

ホテルの「顔」である25階のアトリウムでは、年2回入れ替わる季節展示「アートカラーズ」も開催している。2022年の夏・秋は、「銀座ギャラリーズ うつろいゆく多様性 展」を開催中(2022年5月16日~11月13日)。

「アートカラーズ」の展示期間中は、出展作家の作品をモチーフにしたプロジェクションマッピングも行われ、夜はまた違った表情に出会えるのが楽しい。

なぜ「ホテルでアート」なのか

「ホテルでアートを楽しもうとする人は、どんな人たちなのだろう」と気になっていた。

「アート好きを自認していて、普段から美術館めぐりをしている人」なのか、「アートのことはあまりわからないけど、『ホテルでアートが楽しめるなんてなんだか面白そう』と思ってきた人」なのかでいえば、パークホテル東京のゲストは後者が多いそうだ。“アート初心者”にとってはなんとも心強い話である。

ちなみに筆者も“アート初心者”の部類に入ると思っている。国内外のあちこちを旅してきたため、美術館に足を運んだ回数は多いものの、またまだ「アートなんて敷居が高い」と感じてしまう……。

ところがパークホテル東京では、ホテルだからこそ、アートを「空間の一部」としてごく自然に受け入れ、楽しむことができる。美術館に入ったときの「さぁ、鑑賞してください」といわんばかりの光景や空気に気後れする人も、建築や空間全体を愛でる中で、自然と「あ、あの絵きれいだな」「面白いな」と、アートに関心が向くのだ。

パークホテル東京では、館内のアートをスタッフが解説する「ART walk」も開催している。「ARTなおこもりステイ」プランなら、この「ART walk」に参加できるため、「自分1人ではどのようにアートを楽しんだらいいかわからない」という人にもうってつけだ。

これからアートを楽しみたい人は、美術館ではなくあえて「ホテル」を入口にするのもアリかもしれない。

お部屋そのものがアートになった「アーティストフロア」

パークホテル東京ならではの体験ができるのが、31階のアーティストフロアだ。31階にあるすべての客室の壁に直接アートが施されていて、お部屋の空間そのものがアート作品となっている。

客室内のアートは「日本の美意識」をテーマに、アーティストが泊まりこみで制作したもの。実際にパークホテル東京に滞在する中で、アーティストがホテルや周辺から得たインスピレーションをもとに、部屋の壁に直接絵を描いたり、原画やオブジェを壁に設置したりして、世界にひとつだけの独創的な空間を創り上げている。アーティストフロアには31の客室があるが、同じ空間はふたつとしてない。

落ち着いた渋いテイストのお部屋がある一方、一度見たら忘れられないようなインパクト抜群の空間も多く、扉を開けてお部屋に入った瞬間、「わぁすごい」と声を上げてしまうこと請け合いだ。

天女が舞い降り、薔薇の花が咲き乱れる大地を描いた「天女」(アーティストルーム クイーン)

古の日本人の美しい心、おもいやりの心を表現した「おたふく」(アーティストルーム クイーン)

現在は焼失している江戸城を緻密に描いた「城」(アーティストルーム クイーン)

客室を水槽に見立てたという「芸者金魚」(アーティストルーム クイーン)

このように、アーティストルームは各部屋がまったく異なる個性で彩られている。「同じホテル、同じフロアなのに、すぐ隣の部屋はまったくの別世界」というのが面白く、「隣の部屋はどんな空間なんだろうなぁ」と考えるだけでワクワクしてくる。

「連泊するなら部屋を替えて色んな空間を楽しみたくなりそうだな」と思ったら、やはり「そういったお客様もいらっしゃいます」とのこと。

アーティストフロアには「シングル(19平米)」「クイーン(22平米)」「キング(26~33平米)」の3タイプがあり、人数や好みによって選ぶことができる。指定できるのは部屋タイプのみで、特定の客室の指定はできないものの、「『おたふく』に泊まりたい」といった要望は、「リクエスト」として伝えることができる。

素直に、直感的に楽しむアート

今回筆者が宿泊したのは、小林万里子氏が手がけた「縁」というお部屋。客室タイプは「アーティストルーム キング」で、広さは26平米。

壁全体に愛らしさと躍動感あふれる動物や植物が描かれた、いるだけで楽しくなれる空間だ。このお部屋のアートは部分的に立体感を持たせているのが特徴で、ベッド上部の壁面では、布や糸で作られた極彩色の立体的なアートワークが圧倒的な存在感を放っている。

アートのテーマは「これまで出会ってきたすべてのものとのつながり」や「これから出会うすべてのものとのつながり」を表す「縁」。

そういった説明がなくとも、空間としての作品を眺めているだけで、「生きとし生けるものはすべてつながっているんだな。自分もそんなつながりの中で“生かされている”んだな」という思いが自然と湧いてきた。

普段アートに接していないと、「アートは難しい」というイメージがあったり、アート鑑賞をするときは「解釈しなければならない」と考えてしまったりしがちだ。しかし、ホテルという空間でアートに触れると、肩ひじ張らずに、素直に自分の中から湧き出てくる「感覚」を大切にできるような気がする。

「面白い」「可愛い」「かっこいい」― そんなシンプルな感想で十分。アートって、本来は私たちが思っている以上に自由で直感的なものではないだろうか。

少なくとも1晩は過ごす空間だからこそ、アートのさまざまな表情が楽しめるのもアーティストルームの魅力だ。日中の日差しが強い時間帯はベッドに陽の光が降り注いでいても、陽が落ちてくると天井に架かった紐が陰を創り出したり、ベッド上部のカラフルな立体アートの色味が落ち着いて見えたりと、1日の中でも変化が生まれる。

窓際のチェアに座って何気なく上を見ると、「あそこのアートの端っこは鳥の顔になっていたのか!」という発見も。立ったり、座ったり、寝たりと、さまざまな体勢で過ごすホテルの客室だからこそ、あらゆる角度からアートを楽しむことができ、そのたびに気づきがあるのだ。

アートとコラボしたグルメも

パークホテル東京での「アート体験」は、滞在中ずっと続いている。25階にあるレストラン・バー「日本料理 花山椒」「ザ ソサエティ/アートカラーズダイニング」では、館内に展示されているアートとコラボしたグルメが味わえるのだ。

バー「ザ ソサエティ」は、日本初のソサエティ公認バー。25階からの夜景を眺めながら、ここでしか出会えないミクソロジーカクテルや、300種類以上のウィスキーなどが楽しめる。

2022年 9月5日~11月13日の期間限定で提供されているのは、坪田純哉氏の絵画「みぞれ輪舞」にインスパイアされたオリジナルカクテル「Leggiero」。異なる旋律を挟みながら同じ旋律を繰り返す輪舞のように、雨と雪が入り混じり降るみぞれを表現している。

洋梨や白ブドウ、あんず、国産ウォッカなどを使用したという「Leggiero」は、甘くフルーティーながらすっきりとした後味で、「これなら何杯でも飲めそう」というくらい美味だった。

2食付きの「ARTなおこもりステイ」プランでは、夕食は「アートカラーズダイニング」でのハイティーディナーまたは「日本料理 花山椒」での会席ディナーがセットになっている。

比較的気軽に楽しめるハイティーディナーは、おひとりさまにもぴったり。「アートカラーズダイニング」とひと続きになっている「ザ ソサエティ」のカクテルとともに楽しもう。

アートとコラボレーションしたハイティーは、以下の内容となっている(下記メニューは11月13日までの提供)。

  • シェフの特製アミューズ
  • 鴨とフォアグラのパテアンクルート、真鯛と帆立のファルシ サフランソース / 天使の海老のパピヨット(2段のティースタンドで提供)
  • 牛ハラミのステーキ 秋の実りの野菜添え ソースマスタード
  • 洋梨のパイ 柿とフロマージュブランのソルベ

メインディッシュの「牛ハラミのステーキ 秋の実りの野菜添え ソースマスタード」は、むろまいこ氏の「収穫」に、デザートの「洋梨のパイ 柿とフロマージュブランのソルベ」は、Juan Pino Bosques氏の「太陽の心臓」にインスピレーションを受けた一皿だ。

味はもちろんのこと、盛り付けやお皿といった「見た目」でも楽しめ、五感でアートを感じることができる。目でも舌でも味わえるアートなドリンクと料理に、身も心も満たされた。

おわりに

結局、15時すぎにチェックインしてから翌朝チェックアウトするまで、ホテルの外に出ることはなかった。ところが、不思議と「旅」をした気分なのである。それは、物理的に自分が動く旅ではなく、“感性の旅”とでもいうべきものだったと思う。

アートに触れて、「すごい!」「きれい!」「面白い!」といった自分の“レーダー”が反応し、普段考えなかったことに意識を向ける内面の旅。それを体験したことで「これからはアートにもっと気軽に触れてみよう」という気持ちにもなった。

その意味で、パークホテル東京は「今までよりも、人生を少し豊かにしてくれるホテル」なのではないだろうか。

パークホテル東京
東京都港区東新橋1-7-1 汐留メディアタワー(フロント25階)
公式サイト:https://parkhoteltokyo.com/ja/