「学校で導入したiPadの活用は学習のみに限定せず、生活全般で積極的に使わせています。端末の利用制限はほぼかけておらず、アプリの入手はゲームも含め自由で、SNSも問題ありません」――。そんなに自由にさせて大丈夫なのか、と驚くほど生徒の自主性に任せたiPad活用の方針を貫いているのが、iPad活用の先進校として全国的に知られる近畿大学附属中学校・高等学校。学校で導入したiPadを自由に使わせるようにした背景には、不審なアプリが入手できない仕組みを整えているApp Storeへの信頼もありました。
アプリの充実ぶりや安定した動作を評価し、2013年にiPadを導入
大阪府東大阪市にある近畿大学附属中学校と近畿大学附属高等学校は、全国の小中学校にタブレット端末を整備したGIGAスクール構想(2019年開始)よりも数年前の2013年、生徒1人に1台のiPadを導入したICT先進校。現在は約4,000台のiPadが活躍しています。
近畿大学附属高等学校で教育改革推進室室長を務める乾武司先生は、かつてICT教育推進室室長として、ICT教育導入の旗振り役として活躍してきました。
「2000年前後から、ICT教育用の端末選定を少しずつ進めていました。当時、低価格を売りにしたネットブックがブームになっていたので試しに使ってみましたが、あれはまったくダメでしたね…。その後、2011年に個人的にiPadを購入したところ、それまでとは生活が一変して驚きました。これなら学校でも文句なしに使えるな、と手応えを感じました」(乾先生)。
iPadを選定したのは使いやすさだけでなく、無料で使える標準アプリが充実していることや、さまざまなアプリ間での連携がしやすいことを評価したから。さらに、動作が安定していて故障が少ないことも重要視したといいます。
iPadの使用で問題が生じても、それが教育や指導のきっかけになる
同校のiPad活用で注目できるのが、iPadの利用に制限をほとんどかけておらず、生徒が自由に使えるようにしていること。アプリの入手も制限がなく、ゲームも含め自由に導入して使えます。さらに、学習のためだけでなく、ふだんの生活でも積極的に使うことを推進しており、曜日や時間の制限も設けず、24時間使いたいときにはいつでも使えるようにしています。
乾先生は「制限は、生徒たちの自由な活動を縛ることになります。使い方は自分たちに任されているんだ、という責任感を生徒に自覚させたうえで自由に使わせるのが当校の方針です。iPadの活用に自由度を与えると、生徒の学びは主体的なものになり、教員の予想を超える成果を出してくれます」と語ります。
「そもそも、1,000台単位の端末の利用を学校側が管理するのはとても無理なんですね。たとえ端末を学校で充電するだけでも、教員の業務が立ち行かなくなってしまいます。それもあり、管理や利用はすべて生徒に任せるようにしました」と乾先生は語ります。
生徒たちは授業だけでなく、部活動でも積極的にiPadを活用しているそう。「生徒たちにとって、もはやiPadは手元にあって当たり前の存在なんですね。僕らも、日常生活を豊かにしたり荷物を軽くするために、積極的に活用しなさいと言っています。校内で使えない状況を作らないために、運動場にもWi-Fiを設置しています」。
保護者から目の敵にされがちなYouTubeも制限をかけていません。「僕が工夫しているのが、見てもらいたい動画のURLを生徒たちに投げるようにしていること。その動画を再生すれば、リコメンドとして表示される動画がよい動画に染まり、好ましくない動画を追いやれますから(笑)」
同校では、かつて携帯端末の使用は禁止していたといいます。「禁止すると生徒はこっそり、しかもアングラ的な感じで使うようになるんです。これではアカンと議論を交わし、方針を180度改めました。SNSも自由に使わせていますので、何かしら問題やトラブルが発生するケースもあります。しかし、それが教育や指導のきっかけになるんです。僕は、まだごめんなさいで済む年齢で失敗を経験した方がいいと思っています」
サイドローディングが可能になれば、今のスタイルは継続できない
同校でこれほど自由にiPadを使わせるベースとなっているのが、アップルによる審査をクリアした信頼の置けるアプリのみが掲載されているApp Storeの存在です。
「App Storeは人間のチェックが入ったアプリしか存在しないじゃないですか。iPadにマルウエアが入り込んで感染するリスクがきわめて低く、この仕組みのおかげで子どもでもアプリを安心してダウンロードできる環境が保たれています。ですが、もしApp Store以外からアプリを入手できるサイドローディングが始まったら、今のやり方は難しくなるでしょうね。そもそも、アップルの端末を使うかどうかも見直さないといけなくなるかもしれません」と、サイドローディングに対して強い懸念を示しました。
ICT先進校の専門家が警戒感を示すサイドローディング、欧州を中心とした導入推進の声に押されるような形で日本でも導入の議論が始まりつつありますが、ユーザー不在の状態で議論が進められている印象も受けます。果たして、本当にユーザーのためになるものなのか、それともパンドラの箱を開いてしまうものなのか、当事者である私たちユーザーも逆戻りできなくなる前に考えてみる必要がありそうです。