キリンホールディングスは7日、電気の力で減塩食の塩味を約1.5倍に増強するスプーン型とお椀型の商品を明治大学と共同開発していると発表した。その名も『エレキソルト』デバイス。一般の消費者向けに2023年頃を目処に発売したい考えだ。担当者は「本デバイスを通じて、日本人の塩分摂取量を減らしたい。美味しく食生活の改善がはかれる社会を実現できれば」とアピールした。

  • キリンが開発中の『エレキソルト』デバイスとは?

どうやって使うの?

「エレキソルト -スプーン-」はスプーンの先端から微弱な電流が食品に流れることで、人の感じる塩味を約1.5倍まで増強できるデバイス。通常のスプーンと同じように使用することで効果を発揮する。お好みの強度は4段階で選択可能。担当者は「ラーメンのレンゲの代わりに、また具だくさんのスープやカレーを食べるときに。もちろん、その他の食事全般にも利用できます」と説明する。

  • 「エレキソルト -スプーン-」の試作機。商品化の際には、内蔵式の充電池によりもっとスマートな形状になる。LEDの点灯が強度の段階を知らせている(写真は2段階めで点灯中)

  • 利用イメージ。スプーン背面の電極に触れることで電流が流れる

「エレキソルト -椀-」も、通常の椀と同じように使用する。椀の底部に触れることで微弱な電流が流れて効果を発揮する仕様。こちらもお好みの強度が4段階から選択できる。味噌汁やお吸い物を食べるときに、またラーメンやうどんの取り分け用の器としても使用できる。

  • 「エレキソルト -椀-」の試作機。写真のLEDは3段階めで点灯中

  • 利用イメージ。椀底部の電極に触れながら使用する

『美味しい』を我慢しないデバイス

キリンホールディングス 新規事業グループの佐藤愛氏が概要を説明した。キリングループではこれまで、食から医にわたる広い領域でイノベーションを創出すべく事業を展開してきた。開発中の『エレキソルト』デバイスも、減塩の食事療法で辛い思いをしている患者の立場から発想を得たデバイスだという。

  • 開発者のキリンホールディングス 新規事業グループの佐藤愛氏

「普段から味の濃い食事に慣れていると、薄味にしたときに食欲が落ちてしまいます。例えば減塩したラーメンは美味しくありません。だから減塩中には、ラーメンを食べること自体を諦める人もいます。でも『美味しい』を我慢するのは辛いこと。当社では美味しいを諦めずに、食塩の摂り過ぎという社会課題に向き合う方法はないかと考えました」と佐藤氏。

  • そもそも日本人は、1日あたりの食塩摂取量が多すぎる。世界保健機関(WHO)が掲げる食塩摂取基準は1日5gだが、日本人の男性は10.9g、女性でも9.3gも摂取している

ちなみに同社が首都圏の在住者を対象に実施したアンケートでは、減塩食を行っている/行う意思があると回答した人のうち、約63%が減塩食に課題を感じていると回答し、そのうち約8割は味に対する不満を抱えていたそうだ。

  • 減塩食の必要性は感じるものの、味に対する不満がある

そこでキリンホールディングスでは2019年2月より、「電気味覚」の権威である明治大学 宮下芳明研究所との共同開発をスタートした。その成果として、減塩食の塩味を約1.5倍に増強する電流波形の開発に成功。たとえ塩分を30%減らしても、デバイスを介して食事をすれば減塩を感じないで済むという結果が得られた。

  • 電気刺激により、塩味を約1.5倍も増強することに成功した

  • 塩味増強の仕組み。微弱な電流により食品中に分散していたナトリウムイオンが集中し、塩味を感じやすくなるという理論だった

『エレキソルト』デバイスでは、強度1で0.1mA(ミリアンペア)、強度2で0.3mA、強度3で0.5mA、強度4で0.7mAの微弱な電気が流れる仕様。なお0.5~1.0秒かけて電気を流すため、スプーン、お椀をしばらく口につけてじっくり味わうのがコツだと説明している。

  • 『エレキソルト』デバイスの使い方

筆者も『エレキソルト』デバイスの試作機を使用する機会を得た。はじめに薄味で作られたラーメンを試食。たしかに薄い。次に「エレキソルト -椀-」の強度を2にして同じラーメンをすすった。なるほど舌先で感じる味わいがほんのり濃くなった印象がある。これでラーメン1杯を食べ終えたら、それなりの満足感を得られることだろう。このあと「エレキソルト -スプーン-」でも試し、同じ効果を実感した。

  • 電流で塩味が濃くなるというのは不思議だった。なおスプーンと椀は別々に使うことを想定。一緒に使っても塩味が3倍になることはないそう

最後に、記者団の質問に佐藤氏が回答した。

今後、実施が予定されている実証実験の規模については「(協力会社の)オレンジページ社とノルト社の会員さま約60名に会場で体験いただくほか、家庭内ではホームユースのテストを15~20名の規模で行う予定です」と回答。

商品化された段階で、連続使用時間は少なくとも1か月程度となる見込みだそう。想定価格については「お客様が手に取りやすい価格帯にします」と佐藤氏。ターゲット層については「幅広く考えています。たとえば減塩食の生活を開始した30~60代のかた。健康診断で指摘されて減塩を始めた、というようなかたに、ご家庭で毎日使ってもらうことを想定しています」と回答していた。