研究の結果、SiCパワー半導体の作製プロセスの間もしくはプロセスの後に注入を行うと、部分転位の固着こそ起こるものの、水素イオン注入による結晶ダメージが起きてしまい、SiCパワー半導体の電気特性が悪くなってしまう一方、SiCパワー半導体の作製プロセスにはアルミニウム(Al)イオン注入の後に実施される、結晶ダメージ回復のための高温アニールのプロセスが存在しており、この高温アニールのプロセスよりも前に水素イオン注入を実施すれば、水素イオン注入の結晶ダメージも回復し、水素イオン注入のないものと同じ電気特性が得られることがわかったとするほか、高温アニール後でも水素イオン注入による部分転位固着効果は保たれていたとする。
実際に従来プロセスで作成されたダイオードと今回開発されたプロセスにより作製されたダイオードを用いて、長時間の電流負荷試験が施された後のエレクトロルミネッセンス(EL)像を取得したところ、水素イオン注入のないダイオードの場合、複数の箇所で暗部が確認され、積層欠陥が拡張していたものの、水素イオン注入ありの場合、積層欠陥は観測されず、水素イオン注入が積層欠陥の拡張を抑制していることが示されたという。
この成果について研究チームでは、SiCパワー半導体の長期信頼性における課題であるバイポーラ劣化の解決につながるとしており、それにより、SiCパワー半導体の低コスト化および、長期信頼性が要求される自動車分野などへの展開が期待できるとしている。
また今後については、SiCパワー半導体の性能と長期信頼性を両立できる、水素イオン注入の最適条件を見出す研究開発を継続するとしているほか、将来的には同技術の実用化し、SiCパワー半導体製造業者に提供することを目指すとしている。