大阪から名古屋まで鉄道を利用する場合、東海道新幹線に乗るか、あるいは近鉄特急あたりが一般的なルートになるだろう。交通費を安くしたいなら、東海道本線の新快速や普通列車など乗り継ぐルートで行く人もいるかもしれない。

  • 関西本線の加茂~JR難波間は「大和路線」の愛称が定着。221系の大和路快速などが運転される

さらにもうひとつ、名阪間を結ぶ鉄道ルートとして関西本線が存在する。先日、筆者は「青春18きっぷ」を利用し、1日かけて関西本線経由で名古屋まで旅した。

■加茂駅まで主役は221系、大和路快速に乗車

関西本線は名古屋~JR難波間を結ぶ174.9kmの路線である。現在、大きく3区間に分けられ、JR東海が管轄する電化区間の名古屋~亀山間、JR西日本が管轄する単線非電化の亀山~加茂間、同じくJR西日本が管轄する複線(一部単線)電化の加茂~JR難波間という3つの顔を持つ。このうち加茂~JR難波間は「大和路線」の愛称で定着している。関西本線を全線通して走る列車は存在しない。

筆者は「青春18きっぷ」(夏季用)期間中の平日を利用し、大阪駅から大和路快速に乗り、関西本線経由で名古屋をめざすことにした。関西本線の大阪側における起終点はJR難波駅だが、現在は普通列車と一部の快速列車が発着するのみ。大和路線の最速達タイプである大和路快速はJR難波駅に立ち寄らず、大阪駅をはじめとする大阪環状線のおもな駅に停車しながら大和路線に入り、奈良・加茂方面へ向かう。大和路快速は1989(平成元)年の運行開始当初から221系が使用されている。

大阪駅の大阪環状線ホームでは、大阪環状線の普通列車と関空・紀州路快速、大和路快速とで乗客の列をレーン分けしている。大和路快速を待つ人の列は、関空・紀州路快速と比べて短いように感じられた。しばらく待っていると、221系の大和路快速(加茂行)が大阪駅へ。平日の昼下がりということもあり、座席は4割ほど埋まる。

大和路快速は大阪駅を発車すると、大阪環状線の西側の区間を走行。西九条駅でJRゆめ咲線(桜島線)と分かれ、今宮駅付近でJR難波駅からの大和路線が合流し、新今宮駅に続いて天王寺駅に到着する。天王寺は大阪市の中心地である梅田や難波と比べて地味な印象がぬぐえなかったが、近年は「あべのキューズモール」や「あべのハルカス」といった商業施設があり、以前と比べて活況を呈しているように見える。

ところで、大和路線と同じく大阪と奈良を結ぶ路線として近鉄奈良線があり、大阪市と奈良市の中心地を直線的に結ぶことから、大和路線にとって強力なライバルといえる存在になっている。ただし、近鉄は来年4月に運賃改定を予定しており、大阪難波~近鉄奈良間の運賃が現行の570円から680円に値上げされる。一方、JR西日本も運賃を値上げする予定だが、天王寺~奈良間における現行の運賃は470円で、来年4月から30~40円加算される見込みとなっている。この料金差が今後の大和路線にどのような影響を与えるか、興味深いところではある。

  • 大和路線の201系

天王寺駅を発車した大和路快速はその後、久宝寺駅、王寺駅の順に停車。大和路線はつい最近まで、大和路快速などの快速列車は221系、普通列車は201系・103系というイメージだったが、103系は引退し、201系も221系への置換えが進む。大和路線の普通列車も、多くが221系で運転されるようになっている。王寺駅から先、大和路快速は終点まで各駅に停車。奈良駅に到着すると、ほとんどの乗客が下車していった。

奈良線や学研都市線(片町線)と接続する木津駅を発車すると、それまで複線だった大和路線は単線になる。昨年10月に行われたダイヤ改正で、それまで11~15時台に1時間あたり2本運転されていた加茂駅発着の列車は1時間あたり1本に削減された。実際、乗客数は少なく、減便も致し方ないように感じられた。

■加茂駅から亀山駅まで

大和路快速は終点の加茂駅に到着し、ここで亀山行の列車に乗り換える。先述の通り、加茂駅から亀山駅まで非電化単線で、乗車した列車はキハ120形1両。同区間の利用者数は少なく、2019年度の輸送密度は1,090人/日だったという。JR西日本は利用の少ないローカル線について、存廃も含めた見直しを示唆しているだけに、沿線自治体は危機感を募らせているのではないかと思う。

車内の座席は8割ほど埋まったが、乗客数としては20名ほど。一般の高速バスでも足りるほどの人数だった。筆者と同じく「青春18きっぷ」の利用者もいただろう。加茂駅を発車してしばらくすると、進行方向左側に木津川が見える。渓谷美を楽しみたいところだが、キハ120形はロングシートのため、眺望を楽しむには難がある。せめてクロスシート車の導入を……とつい思ってしまう。

  • 加茂駅から先、亀山駅まで非電化区間。キハ120形の普通列車が運転される

伊賀鉄道との接続駅である伊賀上野駅に着くと、乗客の半分以上が入れ替わり、高校生の姿が目立つようになる。報道によると、今年5月、伊賀市の市長がJR西日本に対し、関西本線から伊賀鉄道伊賀線へ直通する列車の実証実験を提案したという。とはいえ、非電化の関西本線に対し、伊賀鉄道は電化路線である。JRと私鉄の違いもあり、実現は一筋縄ではいかないような気がする。

草津線との接続駅である柘植駅に着くと、隣のホームに草津線の列車が到着し、亀山行へ乗り換える人もいた様子だった。草津線沿線に工場が点在していることもあってか、乗換客の中にサラリーマンと思われる人の姿も。おそらく亀山駅経由で名古屋方面か、あるいは三重県内のいずれかの都市へ向かうのだろう。

柘植駅から次の加太駅まで、「加太越え」と呼ばれる難所が立ちはだかる。カーブが多くなり、スピードは落ちるものの、キハ120形はさほど苦にする様子もなく、ぐんぐん登っていく。途中、スイッチバックのある信号場として知られた旧中在家信号場の痕跡を確認できた。キハ120形1両の普通列車は、加茂駅を出てから1時間30分ほどで終点の亀山駅に到着した。

■名古屋駅まで複線・単線が混在、運転停車を繰り返す

亀山駅で名古屋行の快速列車に乗換え。2両編成の313系(1300番代)を使用し、ワンマン運転となる。名古屋駅発着で関西本線を経由する快速列車といえば、名古屋~伊勢市・鳥羽間の快速「みえ」を連想する人も多いだろう。快速「みえ」は線形の良い伊勢鉄道を経由し、亀山駅に立ち寄らないが、名古屋~亀山間の快速列車も設定することで、快速「みえ」が走らない区間の速達性・利便性向上を図っている。

亀山駅からJR東海の区間になるため、JR西日本の「ICOCA」で同駅をまたいで利用できないことを繰り返し伝えていた。このような放送を聞くたびに、本線を分断する見えない壁を感じる。

  • 名古屋駅へ向かう関西本線の快速列車

名古屋行の快速列車は、亀山駅を発車すると途中の各駅に停車。河原田駅付近で伊勢鉄道の線路が合流し、南四日市駅を経て四日市駅に到着する。車窓から工場群を見ることができ、なかなか興味深い。四日市駅は三重県の主要都市とは思えないほど静かな駅で、隣にあるJR貨物の駅のほうが存在感がある。市街地にあり、特急列車も停車する近鉄四日市駅と比べて、四日市駅の乗降客数は段違いに少ないという。

四日市駅からは快速運転となり、途中停車駅は桑名駅のみ。しかし、名古屋~亀山間は複線と単線が混在しており、列車の待ち合わせを行うため、運転停車が思いのほか多い。参考までに、関西本線と並行する近鉄名古屋線の急行は、近鉄四日市駅から近鉄名古屋駅まで途中の4駅に停車するが、全線複線ということもあり、日中時間帯の所要時間は30分ほど。一方、筆者が乗車した関西本線の快速列車は、四日市駅から名古屋駅まで41分もかかった。

  • 快速「みえ」で活躍するキハ75形。かつて急行「かすが」に使用されたこともある

関西本線は明治時代に開業した歴史ある路線である。かつて名古屋~奈良間を走った急行「かすが」を覚えている鉄道ファンも多いだろう。現在はJR東海とJR西日本に分割され、それぞれの区間で地域輸送に徹していることもあり、脚光を浴びることは少ない。しかし、実際に乗車すると、意外と変化に富んでいた。夏季の「青春18きっぷ」期間はもうすぐ終わりだが、オフシーズンに混雑回避しつつ、関西本線の全線走破に挑戦しても良いかもしれない。「乗り鉄」の楽しみを十二分に味わえる路線だと感じた。