魚類学者として様々なメディアで活躍し、“おさかな愛”を広め続けているさかなクンをモデルとした主人公“ミー坊”を、のんが演じることで早くから話題を集める映画『さかなのこ』が公開。さかなクンが自身の半生を綴った自叙伝を、『横道世之介』『子供はわかってあげない』の沖田修一監督が映画化した。
子どもの頃からお魚が大好きで、成長してもその気持ちを貫いていくミー坊自身のまっすぐさはもちろんのこと、支え、味方となり、互いに影響しあう周囲との関係も優しく伝わってくる本作。そのひとりである、不良の“総長”を、磯村勇斗が愛らしさいっぱいに演じている。
そんな磯村を「かっこいい総長様をバシっと決めてくださった」「すギョい!」と称賛するさかなクンと磯村の対談が実現。お魚談義のほか、好きを貫いてきた2人に、「好きを仕事にする難しさ」についても聞いた。またこの日、さかなクンは早朝から定置網漁へ。新鮮なお魚をプレゼントされた磯村が大感激する一幕も飛び出した。
■互いの印象から魚談義へ。沼津出身の磯村が大好きな魚は……
――本編のミー坊もそうでしたが、さかなクンは芸能人にあまり詳しくないイメージです。磯村さんのことは知っていましたか? また磯村さんからのさかなクンへのイメージも教えてください。
さかなクン:磯村様のお名前や、醸し出されるオーラはテレビなどで拝見していましたが、今回、総長様役をしてくださるということになり、どんな雰囲気を出してくださるんだろうとワクワクいたしました。かっこいい総長様をバシっと決めてくださって、もう最高でギョざいます! 高校時代のやんちゃな仲間たちをとても思い出しました。一見、強面でも、なんか優しいんですよね。やっぱり愛がすギョくて、そのすギョさを、すギョく優しく表現していらっしゃって、感動しました。
磯村:ありがとうございます(照れて)。僕は、沖田監督がさかなクンさんのお話を描くということで、すぐに興味が湧きました。そこで台本を読ませていただいたのですが、非常に心温かくなるお話しだと感じて、撮影がとても楽しみでした。さかなクンさんについては、ずっとテレビで見てきました。周りの目を気にせずに、好きなことをやり続けていくというのは、なかなかできないことだと思いますが、さかなクンさんは好きなことを突き詰めた方ですし、すごく元気をもらえます。そして非常にチャーミングな方だなぁと思いました。
さかなクン:とんでもギョざいません!
――磯村さんは静岡のご出身です。魚は身近だったのでは。
磯村:そうですね。今回の映画撮影でも行った沼津市なので、港町ですし魚は毎日食べてきました。特に沼津はアジが有名なので、よく食べていましたし大好きです。
さかなクン:沼津いいですね~。港町もおっきくてとっても楽しいです! 港でお買い物もできるし、おいしいお店もいっぱい! そしてアジちゃんといえば、万能選手です。たたきも刺身もフライも、揚げても煮ても焼いても。丸干し、開き干し、とにかくおいしいんです。なぜかと言いますと、アジは赤身と白身のお魚の、ちょうど中間に位置するそうなんです。だからピンクっぽい身の色なんですね。それで赤身のコクの深さと白身のよい食感を同時に持ち合わせてるんです。「これはいい味の魚だ」とそのままアジという名前とも言われております。
磯村:そうなんですね!
さかなクン:漢字では魚に参の「鯵」と書きますが、旧暦の3月から美味しくなるという3月の参と、あまりの美味しさに「参りました!」という降参の参のふたつの意味で「鯵」という漢字を書くんです。アジちゃんは、貝塚からも出てくるくらい、太古の昔から愛されてきたお魚なんでギョざいます。
磯村:へえ~。勉強になります。僕、最近釣りを始めたんです。
さかなクン:そうなんですか! すギョ~い! 実は今日、お魚を持って来たんです。
磯村:え!?
さかなクン:地元が館山なので、朝3時ギョじゅっぷん出航の定置網漁に行って、磯村様にと思ってお魚を捕ってきました。(部屋の脇に置いてあったクーラーボックスを持って来て開けてみせるさかなクン)
磯村:今日ですか!? この仕事の前に!? この魚たちを!?
さかなクン:はい。エイちゃんは煮つけて食べるととてもおいしいです。これはイサキちゃんとウルメイワシちゃん。サザエちゃんもおります!!
磯村:わ、かわいい! えー、すごい。めちゃくちゃ嬉しいです。
さかなクン:磯村様も大好きなアジちゃん、マアジちゃんも入っています。
■好きを貫くさかなクンと、自分なりの道を模索中の磯村
――すごいですね! もう1問伺いたいのですが、磯村さんも最初に「好きなことをやり続けていくというのは、なかなかできないこと」とお話されていましたが、磯村さん自身、学生の頃から進みたい道を選んできました。「好きなことを続ける」ことを、今どう感じていますか?
磯村:続けることって、本当に大変だと思うんです。好きなことをずっと自分の中で好きなままで続けていくということとは別に、僕は俳優というものが仕事になりました。なので、好きと仕事については、よく考えます。ビジネスが入ってきますから。好きだからこそ、それを仕事にすることや、好きで居続けることの難しさというのを考えてしまうんですよね。さかなクンさんにもお聞きしたかったんです。
さかなクン:今回、ギョギョおじさんとして出演もさせていただいたのですが、本当にわずかなセリフも覚えられなくて、監督様からも「もうさかなクンでいいですから」と言われるくらいで、本当に申し訳なくて、役者様はすギョいなぁ~と心から思いました。自分の場合は、ただただ大好きなことを続けさせていただいているのが本当にありがたくて、絵を描くにしてもお話しをするにしても、全力でやることは常に心がけています。
――好きと仕事は両立しますか?
さかなクン:自分の場合はですけど、仕事というと、やっぱり限られた時間の中でどう完成させるかということが出てきます。絵を描くときはひたすら時間がなく、「時間が足りない!」と。だけど妥協はしたくないし。難しいんですけど、でもう~! っとやっていくうちに、奇跡のようにピタッと、本当のギリギリで描き終えるんです。講演会なんかでも、「もっとお話ししたいのに!」となって、時間との葛藤がお仕事だなと思いますけど、でもやっぱり好きだから頑張れます。
磯村:僕自身は、好きを仕事にしていくことについて、正直、自分なりの答えを見つけている最中です。でも学生の頃から好きなことを見つけて続けてこられたのは、すごく良かったと思っています。この映画は、好きを極めていくことや、「人と違っても、全然いいんだよ」という勇気をくれる作品だと思います。
■磯村勇斗
1992年9月11日生まれ、静岡県出身。2015年、『仮面ライダーゴースト』にレギュラー出演。2017年には連続テレビ小説『ひよっこ』でヒロインの相手役を務めて注目を集めた。映画『東京リベンジャーズ』(21年)、『PLAN 75』(22年)、ドラマ『今日から俺は!!』(18年〜)、『恋する母たち』(20年)、大河ドラマ『青天を衝け』(21年)など多くの作品に出演し、第45回日本アカデミー賞にて『ヤクザと家族 The Family』『劇場版 きのう何食べた?』(21年)で新人俳優賞を受賞。今年、『ビリーバーズ』で映画初主演を果たした。初めて声優を務めたアニメ映画『カメの甲羅はあばら骨』、Netflix作品『今際の国のアリス シーズン2』が待機中。
■さかなクン
東京都出身。東京海洋大学名誉博士、客員教授。魚の生態や料理法について豊富な知識を持ち、全国各地での講演や著作活動を中心に活動しながら、魚類学者、画家とさまざまな顔を持つ。2010年には絶滅種とされていたクニマスの生息確認に貢献。2012年には海洋立国推進功労者として内閣総理大臣賞を受賞した。アニメ映画『ファインディング・ニモ』(03年)、『ファインディング・ドリー』(16年)、連続テレビ小説『あまちゃん』(13年)など、アニメ・ドラマ・映画にも数多く関わっている。『さかなのこ』では、原作(『さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~』)と出演だけでなく、魚類監修、劇伴でのバスクラリネット演奏などに参加した。