2022年8月30日、デジタルクリエイティブ関連の人材育成スクール「デジタルハリウッド」が、世界のブロックチェーンをリードするゲームメイキングプラットフォーム「The Sandbox」との協業に関する体験型プレス発表会を開催した。
当日は、現役のThe Sandbox収益クリエイターも登壇し、The Sandboxの仕組みや世界観、メタバース時代のクリエイターの働き方などについて紹介を行った。
ユーザー主導のゲームプラットフォーム「The Sandbox」
The Sandboxは、バーチャル・リアリティヘッドセットなしで遊べるメタバースで、登録ユーザーが300万人を突破するブロックチェーンを活用したゲームプラットフォームだ。アイテムやキャラクターはすべてNFTで、現金化を前提とした仮想通貨での取引が可能となっている。
「マインクラフト」のようにThe Sandboxの世界でゲームを制作したり、キャラクターやそのグッズなどを作成・販売したりできることから、ユーザー主導のゲームプラットフォームとして注目を集めている。
まだまだ発展途上であるが、その人気から企業の開設も相次ぎ、2020年にはスクウェア・エニックスなどから総額201万ドル(2億2000万円相当)の出資を受けるなど、日本での今後の展開が期待されている。
筆者も実際にThe Sandboxの世界を体験させてもらったが、アイテム収集などのミッションに挑戦したりするだけでなく、世界中のユーザーとチャットでコミュニケーションを楽しんだりすることもできる。普段ゲームをまったくしないため、キャラクターの動きを操ることすら難しかったが、視点を自由自在に動かしながら、広いメタバース空間の中で思うように動けるというのは、それ自体が多くの人にとって未知の体験ではないだろうか。
また、アセットを購入して収集することで、いわば「仮想空間にあるドールハウス」のような、自分好みの空間を創り上げるという楽しみもあるようだ。オフラインであれオンラインであれ、人間の「所有欲」「収集欲」は変わらないのだと膝を打った。
クリエイターが収益を得る仕組み
The Sandboxでは「VoxEdit」というツールを使って、「アセット」と呼ばれるキャラクターやアイテムを制作することができる。さらに、クリエイターがアセットを制作すると、アセットの評価に応じた報酬が暗号資産の「SAND」としてクリエイターに還元される「クリエイターファンド」という枠組みがある。
また、認定されたクリエイターには、自身が作ったアセットをマーケットプレイスで販売するチャンスがあり、アセットが売れれば販売収益も得ることができる。
では、実際にどのくらい稼げるのかというのが気になるところ。現状ではThe Sandbox自体がALPHA SEASON 3(テストシーズン)ということもあり、The Sandboxの日本人収益クリエイターの多くは、副業として活動を行っている。
The Sandboxから直接得られる報酬は、アセットのサイズなどによって最大額が決まっているそうだが、マーケットプレイスでの販売価格についてはクリエイターの裁量が大きい。ひとつのアセットで70~80万円相当の取引額になることもあるという。
現状では「アセットの作成で億万長者」というレベルではないものの、The Sandboxの活動だけで生計を維持しているクリエイターも存在する。The Sandboxの専任になれば、前述の2種類の報酬に加えて、固定の報酬も得られるそうだ。今後、The Sandboxのユーザー数がさらに拡大していくことを踏まえると、近い将来にはスタークリエイターが生まれ"The Sandbox長者"が誕生する可能性もあるのではないか。
「日本チームは今後、クリエイターエコノミーを拡充するべく、コンテンツIPや大手企業の力を借りながら広く認知してもらうという動きと、クリエイターへの教育・サポートにも力を入れて行こうと思っています」とボクセルアーティストのVEN氏は語る。
未経験からThe Sandboxで活躍する秘訣を伝授
こうした背景から、今回、The Sandboxとデジタルハリウッドが協業を開始。デジタルハリウッドが開催する「駆け出しクリエイターのメタバース講座」を通じて、The Sandboxの世界をクリエイトするボクセルアーティストとボクセルゲームクリエイターの育成に乗り出した。
本講座では、未経験からThe Sandboxで活躍する3つの秘訣を伝授。経験豊富なクリエイターから直接The Sandboxの世界に命を吹き込むコツを学んだり、多くの場合グループ単位で行われるThe Sandboxの大規模なゲームやイベントのワークフローを体験したりできる。さらに、NFTの制作に欠かせないメタマスクの準備から制作したアセットの販売までを経験でき、The Sandboxを舞台とした報酬獲得の仕組みも学べるという。
本講座は、9月下旬~10月中旬にかけて札幌・仙台・東京・大阪・福岡の5都市で開催。週末の1日で受講でき、受講料も20,000円(デジタルハリウッド在卒生は15,000円)と、時間的にも費用的にも参加しやすい内容だ。
講座受講後、「SHIBUYA109」とのコラボコンテストが開催され、このコンペに入賞するとThe Sandboxのクリエイターファンドに応募するチャンスが得られる。なお、現在はクリエイターファンドの公募は行われていないため、The Sandboxの収益クリエイターとして活躍するには、本講座を受講してコンペに参加するのが一番の近道となりそうだ。
時間や場所にしばられない働き方が可能に
現役の日本人収益クリエイターは、やりがいをこう語る。「一番はチームで作品を作り上げたときの達成感です。The Sandboxのエコシステムがあることでモチベーションの高いクリエイターさんたちが集まってくる」
The Sandboxのクリエイター活動は、時間や場所にしばられないため、子育てをしながら制作活動をしているクリエイターや、地方在住のクリエイターもいる。また、今後The Sandboxの発展に伴って役割の細分化が進むと考えられ、The Sandbox内で新たな「職種」が生まれる可能性も高い。
「現時点ではボクセルアーティストとゲームメーカーの2つに分かれているような状況ですが、将来的にはランドプロデューサーや制作ディレクター、ファッションデザイナー、GCアニメーターといった仕事がThe Sandboxの中で生まれていくと考えています」とVen氏。
デジタルハリウッド 名取氏は「The Sandboxで活躍するスキルを学んでもらうことで、自分らしいライフスタイルの実現につなげてほしい」と語る。The Sandboxの収益クリエイターとしての活動は、単なる「お小遣い稼ぎ」というよりも、「自分の可能性に挑む」「新しい生き方を実現する」といった側面が大きいように感じられた。