世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスショー「IFA」、ドイツのベルリンで9月2日に開幕しました。初日の基調講演には米クアルコムの社長兼CEOクリスティアーノ・アモン氏が登壇。ワイヤレスオーディオとメタバース、それぞれの市場をリードする企業であるBOSEとMetaとのパートナーシップ強化を発表しました。
新型コロナウィルス感染症の世界的な流行を経て、IFAがメッセ・ベルリンに帰ってきました。約3年ぶりとなる本格的なリアル開催です。
クアルコムのアモン氏は2019年のIFAでもキーノートの舞台に立っています。続く2020年にはバーチャル開催を中心としたIFAのオンラインキーノートによって、コンシューマーエレクトロニクスに関わるクアルコムの取り組みを語りました。
今年(2022年)はIFAのオープニング基調講演として、アモン氏がイベント初日のトップバッターを務めました。アモン氏は、これまでにクアルコムが開発してきたSnapdragonシリーズのシステムICチップとソリューションが、コンシューマーエレクトロニクスのスマート化に貢献してきたと強調。
今後も、Snapdragonシリーズによる5GやAIの先進技術が各分野のテクノロジーと深く結びつき、コンシューマーエレクトロニクスに関わるデジタルイメージングやオーディオの体験がさらにレベルアップするだろうと展望を述べました。そして、このことを実現するため、ふたつの重要なパートナーシップが新たに結ばれました。
ボーズのオーディオがクアルコムのチップを採用
ひとつは、日本でも人気のオーディオブランド、米BOSE(ボーズ)との共同開発です。ボーズが得意とするヘッドホン、イヤホン、サウンドバー、そして自動車向けオーディオの開発には、上質な音楽リスニング環境の実現に向けて高性能なシステムICチップとソフトウェアが欠かせません。
ボーズには、ヘッドホン・イヤホンの人気シリーズ「QuietComfort」に搭載する独自のアクティブノイズキャンセリング機能など、オーディオ技術の幅広い知見があります。その資産をさらに前進させるため、クアルコムと次世代製品の開発に関する広範なパートナーシップを展開します。IFAの基調講演には、ボーズのCEOであるリンダ・シュナイダー氏がゲストとして登壇しました。
「ボーズが情熱を傾けて開発するオーディオは、今や多くの人々にとってなくてはならないものになりました。オーディオリスニングや通話音声が、いかなる場所でもクリアに聞こえるよう、ボースはこれまで以上にアコースティックの技術を磨き上げたいと考えています」(シュナイダー氏)
そして今後は音質の向上にとどまりません。安定した操作性と接続性の実現、AIによる新たな機能の拡張を図り、ユーザーに対してワイヤレスオーディオのストレスを感じさせない製品とサービスを実現することの重要性についても触れました。
「シームレスなユーザー体験をかなえるため、今後はクアルコムと密接に協力しながら次世代の体験を探求できることをうれしく思います」(シュナイダー氏)
両社の提携については、2022年3月にクアルコムが発表したワイヤレスオーディオ向けのシステムICチップを中心とする「Qualcomm S5 Sound Platform」がポイント。ボーズのオーディオ製品に対して、Qualcomm S5 Sound Platformが提供されます。
ステージ上ではボーズが手がける「ウェアラブルデバイス」の協業についても言及されましたが、これがオーディオ以外の分野にも展開するものであるのかどうかは、現時点でわかりません。
現在、ボーズのWebサイトには「あなたに合わせてパーソナライズ」というキャッチコピーを掲げたティザー画像が公開されています。
筆者は、クアルコムのS5 Sound Platformに統合されている「Adaptive Active Noise Cancellation」を活用した「自動最適化機能搭載」のワイヤレスヘッドホン、またはイヤホンが誕生するのではないかと期待します。間もなく、クアルコムのaptXコーデックを初めて搭載するボーズのヘッドホン・イヤホンを聴ける日がやって来ます。
壇上でクアルコムのアモン氏は、ボーズのシュナイダー氏に向けて「ボーズのどんな次世代製品に期待をしているか」と質問をぶつけました。シュナイダー氏は詳細を明かさなかったものの、「9月7日に全貌を明らかにするので期待してほしい」と呼びかけました。発表が待ち遠しいです。
ザッカーバーグ氏が語る、メタバースの進化にクアルコムとの連携が欠かせない理由
もうひとつは、米Meta(メタ)のメタバース事業との連携強化に関するアナウンスです。今後クアルコムは、メタが展開する複数世代のメタバース製品向けに、カスタム設計のICチップとソリューションを提供すると発表しました。
IFAの基調講演には、メタのファウンダー兼CEOであるマーク・ザッカーバーグ氏がビデオメッセージを寄せました。ザッカーバーグ氏は両社による協業を強化する背景を次のように語っています。
「メタバースの普及拡大に伴い、次世代のデバイスはさらに強力なパワーと安定したコネクティビティが求められます。ソーシャルプラットフォームに代表される、サービス連携もスムーズにこなせる必要があるでしょう。それぞれ、クアルコムが得意とするシステムICチップの知見が大いに期待できる領域です」(ザッカーバーグ氏)
クアルコムとメタの協業は、メタがVRヘッドセットをOculusの名称で展開してきた約7年前からスタートしています。近年では、両社のコラボレーションによって「Meta Quest 2」が誕生しています。ザッカーバーグ氏は、これからはメタバースの世界が次のフェースに移るだろうと展望を語りました。
その上で、ユーザーにプレミアムな体験を届けるためには、Meta Quest Platformにカスタマイズされた専用のプラットフォームが必要という決断から、クアルコムとの複数年に及ぶ広範な戦略的合意に至ったというわけです。ザッカーバーグ氏は「いまはまだ初期段階ですが、今後は両社のエンジニアチームと製品チームがより密接な技術協力を深めて、さらに大きなことを実現したいと考えています」と意気込みを語りました。
クアルコムは2021年、AR/VRプラットフォーム向けの開発環境として「Snapdragon Spaces XR Developer Platform」をリリースしました。2022年6月には開発者向けリファレンスキットとして、レノボのスマートグラス「ThinkReality A3」とスマホ「motorola edge+」のセットを提供しています。2022年の後半以降は、メタのほかにも、Snapdragonチップ搭載の新しいスマートグラスや、メタバースに関連する画期的なサービスが続々と立ち上がることを期待しましょう。