具体的には、シンガポール南洋理工大のZheng Liu教授らのグループが、五酸化バナジウム(V2O5)とヨウ化カリウム(KI)を混合。化学気相成長(CVD)法を用いて、硫黄ガス流量を低く、かつ反応温度を高く(750~800℃)調節した場合、針状薄片が成長することが確認され、調査の結果、この針状物質は、通常のCVD法による均質な多角形の物質とは異なるものだったとする。
末永教授らが開発した超高真空低加速電圧STEMを利用して、針状物質の原子配列の解明を進めたところ、同新物質は硫化バナジウムからなり、2次元構造を持つVS2膜と1次元構造を持つVS鎖が積み重なった超格子を形成しており、前例のないハイブリッド構造を持つことが判明したという。
また、電子エネルギー損失分光法を用いた状態分析により、VS2膜とVS鎖それぞれのバナジウム(V)原子の電子状態が調べられたところ、VS鎖のV原子のL端のエネルギー損失吸収端微細構造はVS2膜構造のそれよりも赤方偏移を示し、VS鎖のV原子の価数(2+)はVS2膜のV原子の価数(4+)と異なることが判明。これは、2次元膜中のV原子と1次元膜中のV原子は異なる電子状態・スピン状態を持つことを示すことを意味するとする。
研究チームでは、この電子状態の異なる1次元VS配列の存在により、ハイブリッド超格子は面内でも異方的な磁気抵抗効果を示すことが示唆されたとするほか、結果として、磁場がVS鎖方向に平行または垂直な場合、ホール抵抗の挙動が大きく変化し、従来とは異なる面内ホール効果が生じ、面内ホール効果は380Kまで持続され、これはほかのTMDCよりも高い温度であり、ハイブリッド超格子を利用した低電力デバイスの実現に可能性を拓くものだとしている。
なお、今回の研究については、従来の超格子材料に「異なる次元性の組み合わせ」という新たな可能性を付加する成果だとしており、これを機に、これまでにない異次元超格子を創成すれば、その特異な周期性・異方性に起因する新機能発現につながる可能性があるとしており、今回示されたような室温で安定に見出された異方性ホール効果は、低電力デバイスの実現に寄与するとしている。
また、ハイブリッド超格子中に存在する1次元ナノ空隙は、さまざまな物質を高密度に内包できると考えられるため、ストレージ材料やセンサデバイスなどに応用できるともしており、今後、さまざまな2次元物質と1次元物質を自在に組み合わせることができれば、新規の物理的・化学的性質が期待されるため、ナノサイエンス・ナノテクノロジー分野に大きな貢献を果たすことが期待されるとしている。