HTC NIPPONは9月1日、日本では4年ぶりの新機種となるSIMフリースマートフォン「HTC Desire 22 pro」を発表しました。ファン待望の新作はどんな機種に仕上がっているのでしょうか。新製品のコンセプトや魅力を掘り下げつつ、記事後半ではファーストインプレッションをお届けします。
本機種はSoCこそミドルレンジ向けのQualcomm Snapdragon 695 5Gを採用しますが、8GBメモリや120Hzディスプレイ、ワイヤレス充電機能などを備え、平均的なミドルレンジ機よりは一歩プレミアム寄りの仕様です。IP67準拠の防水防塵やおサイフケータイにも対応しており、日本市場のニーズに合わせた対応も十分。価格は64,900円で、10月1日に発売予定です。
名門スマホメーカーHTCが日本市場に4年ぶりの復帰
HTCといえば、世界初のAndroidスマートフォン「T-Mobile G1」(HTC Dream)や日本初のAndroidスマートフォン「HT-03A」(HTC Magic)を開発し、Android黎明期に輝かしい実績を残したメーカーです。
しかし、近年のHTCはVRヘッドセットの「VIVE」シリーズやメタバースプラットフォーム「VIVERSE」などのVR事業に軸足を移しており、スマートフォンメーカーとしての存在感は薄れていました。特に日本市場に限ってみれば、2018年7月発売の「HTC U12+」以来、丸4年以上のブランクがあります。もはやスマートフォン事業からは手を引いたものと思っていた人も多いでしょうが、なぜこのタイミングで復活が実現したのでしょうか。
記者らの質問に対して、HTC NIPPON 児島全克社長は「(日本市場での空白期間にも)グローバルでは年に1~2機種はスマートフォンの新機種が出ていたが、ハイスペックなものや尖った機能を持つものがなく、日本市場のニーズにはあまり合わないだろうと考えていた」と明かします。
しかし、為替レートやサプライチェーンの問題による端末の高価格化、割引規制などによる市場環境の変化、そしてスマートフォン市場が成熟期に入り最新のトップクラスの機種を選ばずとも十分快適に利用できるようになったことなどから、この4年間も日本市場での売れ筋も変化しており、以前と比べてミドルレンジの機種が注目される状況となりました。
HTCのハイエンドスマートフォンは残念ながらU12+以降途絶えてしまいましたが、そもそも日本市場にマッチする価格帯が下がってきたこと、そして現在のHTCが注力するVR分野との連携を強化したワンランク上のミドルレンジ機としてDesire 22 proの開発がスタートしたことで、グローバルでの機種ラインアップと日本で出す機種の選定基準がかみ合い、再び出せるタイミングがようやく来たというわけです。
5G n79にも対応する徹底した日本仕様、カラーバリエーションにも注目
国内では4年ぶりの復活に沸くファンもいる一方、「かつてのHTCのようなハイスペックな機種ではないのか」と肩を落としたファンもいるかもしれません。筆者自身、もう12年近くAndroid端末を常に複数台持ちで使っているのでファンのみなさんが思い描く“あの頃のHTCスマホ”もいくつか通ってきていますが、あらためてスマートフォンメーカーとして栄えていた頃のHTCの立ち位置を振り返ると、2012年頃を境に大きく変化しています。
2010年~2012年頃の日本のスマートフォン市場は、アーリーアダプター向けの「最新OS/最新チップを搭載する海外メーカーのハイスペックスマホ」、現実的にフィーチャーフォンからの買い替え先として手に取りやすい「おサイフケータイ/ワンセグ/赤外線通信が入った国内メーカーのスマホ」に二極化しており、HTCは前者の代表格でした。HTCといえば先進的なハイエンド、というイメージはこの頃までに築かれたものでしょう。
一方で、その「日本向け機能はないけれど最先端のスマホ」「スペックは一段劣るけれどガラケーでやっていたことがそのままできるスマホ」という究極の選択のような図式を打破したのも他ならぬHTCです。auと共同開発した2012年夏モデルのHTC J ISW13HTは当時としては珍しい海外メーカー製ながらおサイフケータイ/ワンセグ/赤外線通信入りの日本向けモデルでした。最近でこそXiaomiやOPPO、モトローラなど海外メーカーかつ通信キャリア向け以外の機種でもコストをかけて日本仕様で作り込んでいる機種が増えてきましたが、実は「ハイエンドのHTC」と同じぐらい、海外メーカーでありながら国内メーカー並みに日本市場特有のニーズと向き合ってきたこともHTCらしさといえます。
このローカライズという文脈でDesire 22 proを見てみると、他メーカーと十分に差別化できるポイントがひとつあります。おサイフケータイと防水に関してはミドル以上の機種ではかなり普及率が上がってきたので、もはや付加価値というよりは機種選びの前提に入れている人が多いかもしれません。今回の注目はそこではなく、対応バンドまでしっかりと日本仕様になっている点です。 Desire 22 proは5Gのミリ波を除き、日本の携帯キャリア4社が運用中のすべての周波数帯に対応。4Gのプラチナバンドはもちろん、5GもSub6に関しては網羅されています。
特に5Gのn79は世界的に見てもNTTドコモとChina Mobileしか利用しておらず、グローバル展開を念頭に設計された機種ではコストも考慮して省略されがちです。スマートフォンの平均利用年数が伸びているなか、今後数年間で5Gが広まったり、キャリアを乗り換えたりしても、不自由なく使い続けられることはメリットになり得ます。
そして機能面に限らず、日本仕様のサプライズとして発表されたカラーバリエーションからも、可能な限り日本のファンの期待に応えようとする姿勢が見て取れます。
Desire 22 proのカラーバリエーションはダークオーク、チェリーブロッサム、サルサ・レッドの3色。黒いボディに金の差し色が入ったダークオーク、カッパー系のチェリーブロッサムの2色は海外版と同様ですが、3色目のサルサ・レッドは日本限定です。
関係者によれば今回に限らず、「HTCといえば赤が欲しい」という熱烈なファンの声は多いそう。グローバルのフラグシップモデルでも赤色が採用されていた時期はありますが、日本専用モデル「HTC J」シリーズの歴代イメージカラーはすべて赤系だったということもあり、日本では特に赤のイメージが強いのでしょう。
VR/メタバースの入口として考えられた「VIVERSE」連携
日本におけるDesire 22 proのコンセプトは「自分時間のためのスマートフォン」。HTC NIPPON ヴァイスプレジデントの川木富美子氏は「未来のスマートフォンの一歩手前にある、未来につながるスマートフォン」だと語りました。
冒頭でも触れたように、2022年現在のHTCはスマートフォンよりもVR機器などの分野で存在感を増しています。VR事業での取り組みの成果を原点といえるスマートフォンの世界に持ち帰った機種であり、スペック的にはミドルレンジでも、そのコンセプトからは往年の名機に感じたような先進性も垣間見えます。
VR/メタバース連携の具体的な中身としては、まずハードウェアの面では同社の小型VRグラス「VIVE Flow」との接続に正式対応。VIVERSEのアプリ/サービス群はVRに留まらず、仮想通貨ウォレットの「VIVE Wallet」、NFTを購入できる「VIVE Market」なども揃っています。
実を言うと、VIVE FlowやVIVERSEを利用する上で、性能や機能の面でDesire 22 proと組み合わせることが有利になるというわけではありません。しかし、VIVERSEというエコシステムを抱えているHTCの製品だからこそ、ハードとソフトをワンパッケージで提供し、これらの新しい技術に触れるための予備知識などのハードルを下げることができます。
VIVE Flowそのものはすでに単体で販売されていますが、スマートフォンメーカーとしての立場から、予備知識を求めず安心して手を出しやすい純正周辺機器として改めて送り出すことで、より間口が広がると考えられます。
「Desire 22 pro」&「VIVE Flow」ファーストインプレッション
発表会場では、短時間ながらDesire 22 proの実機にも触れられました。本体重量は205.5gと重めの機種ですが、画面サイズが6.6インチと大きく、実際に手に取ると重さが分散するためさほど重くは感じませんでした。外装はプラスチック製で、光沢感のある背面パネルには特徴的な縞模様が入ります。指紋センサーは本体右側、電源ボタンに内蔵されています。
スマートフォンとしての機能や使い勝手はとてもシンプル。かつて採用されていた独自UI「HTC Sense」は影を潜め、ロック画面やホーム画面のウィジェットに面影が残るほかは素のAndroidに近い仕様でした。ユーザーインターフェースだけでなく、プリインストールアプリもVIVERSE関連のものを除けば必要最小限で、独自の機能はあまり見当たりません。スマートフォン単体で見ると売れ筋のミドルクラスよりは少し上に位置している機種だけに、スペック的には近い4万円前後の機種と差別化できるような機能や魅力がもう一声欲しいところです。
スマートフォン本体の機能のなかでは、U11やU12+でも注力されていたカメラ機能にこだわりを感じられました。約6,400万画素 F1.79のメインカメラはミドルレンジ機としては期待以上の画質です。被写体を認識してシーンごとに自動で最適な設定に切り替える「AIシーン検出」機能では、花と果物のような見分けの難しそうな物まで細かく区別できていました。
続いて、VIVE Flowと接続してVRコンテンツ(シューティングゲーム)を体験しました。VIVE Flowにはバッテリーが内蔵されていないため、給電のためのケーブルが必須となりますが、スマートフォンとの接続はワイヤレス。専用のコントローラーを持つ必要はなく、親機となるスマートフォンがコントローラーも兼ねるシンプルな構成です。
VIVE Flowの立ち位置としては、スマートフォンを差し込んで使うタイプのVRゴーグルと、Meta Quest 2などのようなスタンドアロンVRヘッドセットの中間といったところ。演算処理はスマートフォンに任せながらも、表示部はレンズ越しにスマートフォンの画面を見せる形ではなくグラス内に組み込まれているため、コンパクトでありながら想像以上に表示はクリアです。
また、メガネユーザーとしては、他のVRヘッドセットのような重ね掛けを要求されず、普通のメガネは外してVIVE Flowの視度調整ダイヤルで対応する形となっていることも快適でした。ただ、調整機能で対応しきれない視力の方なら反対にデメリットになるので、店頭などで一度見え方を確認しておいた方が安心でしょう。
VIVE Flowのセンサーで取れる動きの情報は首振りのみで、スマートフォンをタッチパッド代わりにした簡易コントローラーでできることも限られているため、遊べるコンテンツや空間内で出来る動きは簡易的なVRゴーグルとさほど変わりません。しかし、なんとか“VRグラス”と呼べそうなサイズ感でヘッドマウントディスプレイに近い画質が得られる点は大きな魅力を感じました。
また、スマートフォンの画面表示をミラーリングすることもできます。Desire 22 proとの組み合わせならHDCPで保護されたコンテンツにも対応しているため、Netflix、Hulu、Disney+などの動画も視聴できます。VRの世界に限らずとも、手軽に持ち出せて自分だけのシアターを作れるVIVE Flowがあれば、移動中や出先でのコンテンツ体験を豊かにできそうです。