相場の世界では8月は夏季休暇などにより市場参加者が減少することから、「夏枯れ相場」といって値動きが鈍ると言われますが、今年の相場は一味違いました。
年初から続いた下落基調からの反発が続き、日本を代表とする日経平均株価は、1月以来の29,000円台を回復。アメリカを代表する株価指数であるNYダウも、5月以来の34,000ドルを回復となりました。
一方で8月後半にかけては反転下落となります。8月26日には、ジャクソンホール会議での要人発言を受けて、米国市場は急落。NYダウは1,008ドル安と今年3番目の下落幅となりました。
このような相場変動の背景には、各国が行っている金融政策の影響があります。今回は、直近の国・地域ごとの金融緩和の変化に触れながら、マクロな視点から今後の相場の注目点について見ていきます。
■世界各国は利上げ継続も日本は緩和継続
はじめに、8月26日の株式下落を引き起こした背景について、2つの点から見ていきます。話題となったジャクソンホール会議とは、毎年8月に行われる経済政策シンポジウムのことで、世界各国から中央銀行の総裁や経済学者などが参加し、世界経済の見通しを話します。
今回はこの会合でのFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の発言がフォーカスされ、市場に影響を与えたのです。直近の株式市場は下落からの反発基調でしたが、その背景としては、直近の経済指標において急速に進んでいたインフレに若干減速の兆しが見えたことにより、インフレ率の上昇を抑えるために行われている米国の利上げが緩むのではないかという期待がありました。ところが、パウエル議長が利上げに対し、インフレ抑制をやり遂げるまでやり続けるという主旨の発言をしたことで、中央銀行の姿勢は市場の期待とは逆であることが鮮明となり、株式下落という形で市場は反応しました。
あわせて26日には、急速なインフレを受けて欧州の金融政策を決めるECBにおいても次回9月の会合で0.75%の大幅利上げを議論したい意向であると報道されています。ユーロ圏では日本と同様にこれまではマイナス金利政策を導入していましたが、インフレを背景に金融政策を引き締め方向に転換し、米国を追いかけるように利上げをする局面となっています。この欧州の報道も26日の株式下落圧力となったとされています。
このような大きな流れの中、日本の金融政策がどうなっているかというと、欧米とは異なり金融緩和の姿勢を続けています。日本でも消費者物価の上昇は続いており、日銀が目標としている前年比2%超の上昇率を4カ月連続で達成しています。しかし、コストプッシュ型のインフレで賃金上昇に結び付いていないといして、金融緩和を緩める状態ではないとしています。
つまり、欧米は過熱する物価上昇を抑える目的で金利上昇に舵を切っている中、日本はこれまで通り金融緩和を続け金利はマイナス水準にあり、姿勢の違いが鮮明となってきているのです。それに伴い、他国と日本との間の金利差は拡大している状態なのです。
■上半期は為替相場も活況に
そのような中で例年に比べ注目を浴びているのは為替市場です。為替の動きをもたらす要素の一つとして、金利差が上げられますが、各国で利上げが進んでいく中、金利差の変化に反応する形で為替市場も活況となっています。
あまり投資への関心が高くない方でも比較的馴染みのある「ドル/円」に関しては、7月におよそ24年ぶりとなる139円台をつけ、9月1日には一時140円台まで上昇しています。
3月時点では110円台であったことから、この約半年で急速に円安ドル高が進んでいます。今後も米国は金利上昇が予想される中で、日本が金融政策を変更しないとなると、モメンタムとしては円安ドル高基調にあると考えられます。
今後、心理的節目とされている140円台を大きく突破すると、日本の金融政策に関する議論も取りざたされる機会が増えると考えられるため、市場の動き並びに報道に注目すると良いでしょう。
また、世界で最大の取引量を誇る「ユーロ/ドル」も歴史的な節目を迎えています。1ユーロ=1ドルとなる水準はパリティと呼ばれていますが、20年ぶりにそのパリティ割れとなったのです。背景としては、相対的に米国の利上げぺースが速いことや、2月に勃発したウクライナ問題の影響で引き落とされたエネルギー価格の高騰がユーロ圏経済に影響を及ぼしていることなどが挙げられます。
先に触れた金融政策の変化により、株式だけでなく為替相場にも大きな変動が起こったのが2022年の上半期でした。
■日本株は底堅い展開か?
これまで相場の不安定な見通しについて触れてきましたが、9月以降はどうなるでしょうか。日本株にフォーカスしてみてみましょう。
まずはポジティブな要素について、2点挙げます。まずは経済面です。国家の経済を測る重要な指標であるGDPを見ると、他国では減速も目立つ中で日本は3四半期連続のプラスで4-6月期の水準はコロナ前を回復しています。他国と比べて新型コロナ政策が厳しく、コロナ禍が始まって以降で急激な経済回復がなかった裏返しとしての緩やかな回復ではありますが、それによって過度なインフレに苦しめられることもなく、安定した経済状態となっています。これは投資をする上でも下支えとなる一つの要因となると考えられます。
また、為替の円安も相場にとっては追い風です。上場する日本企業の多くは円安のメリットを享受する体質です。先に触れたように、日本円は継続的に下落基調となっており、円換算の日経平均株価に対して追い風であると言えます。
続いて、不安な面も2点挙げます。まずは金融政策面です。日本は各国と歩みが異なり、いまだ金融政策を緩和的にしていますが、他国が続々と政策変更を行っていったことを踏まえると、今後も変化がないとは言えません。仮に変更があった場合は、経済の面でも為替の面でも大きく前提が異なってくるため、相場も混乱状態になることが予想されます。可能性は高くないものの、そういったシナリオも念頭に置く必要があるでしょう。
また日経平均の短期的な値動きを見ると、8月中旬に1月以来の高値をつけた後反落し、前回の高値が抵抗線となる形になっています。目先では29,000円台を上抜けるには少し材料不足とも言えます。
コロナ禍以降、投資が注目を集める機会が増えてきましたが、それに応じるように大きな変化が起こっているのも事実です。モノのインフレなど、生活に馴染みのある事象を皮切りに、投資情報にも少し目を向けてみてはいかがでしょうか。