社会人に求められる能力にはさまざまなものがありますが、いつの時代も重要だとされるのがコミュニケーション能力です。このことは、見方を変えると、「コミュニケーションが苦手」「話下手」と悩む人が多いということでもあるのでしょう。

  • 話が苦手な人は、最初にあえて「中身のない話」をすべし /ネタ作家・芝山大補

では、話が苦手な人が「話が面白い人」になるにはどうすればいいのでしょうか。「ネタ作家」として300組以上の芸人にネタを提供し、一般の人たちにも芸人の話術を伝えている芝山大補さんは、「あえて『中身のない話』をしよう」と語ります。

■「話が面白い人」になれば、愛されやすく生きやすくなる

みなさんは、「話が面白い人」になりたいですか? 芸人やタレントであれば、「話が面白い人」になることには大いにメリットがあります。テレビ番組などの出演が増え、売れることにつながるでしょう。でも、一般の人ならどうでしょうか。

わたしはTikTokやYouTubeでの生配信を通じて、話が苦手な人たちの相談に乗っています。その活動から強く感じるのは、「話が面白い人」になりたいという人が本当に多いということ。つまり、一般の人でも「話が面白い人」になることになんらかのメリットがあると多くの人が感じているということなのでしょう。

では、そのメリットとはなんでしょうか? わたしなりの答えは、「愛されやすくなる」というものです。

みなさんも、どうせしゃべるのであれば「話が面白くない人」よりも「話が面白い人」としゃべりたいと思うはずです。それはもう、「話が面白い人」が周囲から愛されやすくなるということの証でしょう。

そうして、話が面白くて愛される人なら、人間関係が良好になっていくことも容易に想像できます。アドラー心理学で有名な心理学者のアルフレッド・アドラーは「すべての悩みの原因は人間関係にある」という言葉を残していますが、話が面白いがために良好な人間関係を築けるようになれば、悩みが減り、生きやすくなるということにもつながっていくのではないでしょうか。

■面白い話によって「グレーゾーンの人間関係」を守る

とくにわたしは、「グレーゾーンの人間関係」というものを良好な方向に導いてやることが大切だと思います。

人に対する好意は、白黒をはっきりとつけられるようなものばかりではありません。「この人は大好き」という白、「この人は絶対に無理」という黒があるとすれば、どちらともいえないグレーゾーンというものもあります。

とくに社会人であれば、「特別に好きでもないし嫌いというほどでもないけれど、仕事上でつき合いがある人」といった、まさにグレーゾーンというべき人間関係も多いでしょう。ひょっとしたら、白黒をはっきりつけられる人よりも多いくらいかもしれません。

「絶対に無理」という黒の人たちが相手なら、自分の心を守るために接触を避けるといった対処も考えるべきですが、社会人としては、グレーゾーンの人たちともそれなりの関係を築いていくことも求められます。

もちろん、このグレーゾーンにも、グラデーションのように「白寄りのグレー」や「黒寄りのグレー」もあります。大切なのは、「黒寄りのグレー」の人たちとのつき合いです。「黒寄り」ですから、ときどき嫌味な冗談をいってくるなど、「絶対に無理とはいわないけれど、ちょっと苦手かな」と感じるような相手です。

そんな相手に、「黒」の人たちと同じように関係性を断つような対処はおすすめしません。とくに、仕事のつき合いのなかで重要な立場にいるといった、関係性を継続させることが自分にとってのメリットになる相手ならなおさらです。

そこで、やはり「話が面白い人」になることが大切だと思うのです。相手の嫌味な冗談を逆手に取って笑いに昇華させるようなことができれば、グレーゾーンの人間関係を守ることができます。その嫌味な相手がこちらの話術に感心し、関係性をよりよいものにすることだってできるかもしれません。

■なんでも話せる空間をつくる「中身のない話」

では、「話が面白くない人」が「話が面白い人」になるにはどうすればいいでしょうか? わたしは、著書『おもろい話し方』(ダイヤモンド社)のなかで数多くのメソッドを紹介しています。

そのなかで、「なにを話していいのかわからない」といった、いわば会話の初心者のような人たちにお伝えしたいのは、「最初にあえて『中身のない話』をしよう」ということです。

コミュニケーション能力が高く「話が面白い人」は、「なにを話すか」ということを強く意識することなくどんどん会話を重ねていくことができます。一方、話が苦手な人ほど、「変な間をつくってはいけない…」「少しは気の利いた話をしなければ…」というふうに「なにを話すか」ということを強く意識します。

その強い意識によって頭のなかが混乱し、結果的に「なにを話していいのかわからない」ということになってしまうのです。

そこで、「中身のない話」、いい換えると「どうでもいい話」を最初にするのです。たとえば、「めっちゃアイスクリーム食べたいっすね」「どんなアイスクリームが好きですか?」といったものです。

まさに、中身のないどうでもいい話ですね。でも、最初にそんな話をすると、自分のなかにあった「気の利いた話をしなければ…」といった思い込みや縛りのようなものを壊すことができます。そうして、その後の自分に対して話しやすい雰囲気をつくるのです。

この中身のない話をすることは、自分だけでなく相手も話しやすい状態に導くことにもなります。会話の場では、多くの人が「この人はどんな話をしたいのだろう?」というふうに相手を探っているものです。

そこで自分がそれこそ気の利いた話だとか真面目な硬い話ばかりしたとしたら、相手も「こちらも気の利いた話、真面目な話をしないといけないぞ」というふうな姿勢になってしまいます。もちろん、場合によってはそれが正解ということもあるでしょうけれど、そうでないケースでは両者の会話は盛り上がりにくくなってしまうでしょう。

でも、「めっちゃアイスクリーム食べたいっすね」ならどうでしょう? 相手からすれば、「ほんとしょうもないこというなあ」「まあ、こんな相手にならどんな話でもできるか」と気が楽になるはずです。そうして、コミュニケーション能力が高くない人であっても、いい意味でふざけやすい空間、肩肘張らずにどんな話でもできる雰囲気ができるのです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人