日本に上陸したばかりのテスラ「モデルY」に早速、試乗してきた。イーロン・マスク氏が「最も売れるテスラ車になる」と予言したSUVタイプの電気自動車(EV)は、はたしてどんな仕上がりなのか。すでに相当数の注文が入っているようだが、このレポートが購入を検討している皆さんの参考になれば幸いだ。
背の高い「モデル3」なの?
スポーツカーの「ロードスター」に続いて続々と登場してきたテスラの乗用車は、「Model」に1文字を組み合わせた車名を持つ。ラージサイズセダンは「モデルS」で、このクルマをベースにした大型SUVは「モデルX」。今回のモデルYは、ミドルサイズセダン「モデル3」をベースとしている。文字を並べると「S」「3」「X」「Y」となるのは、マスク氏が「SEXYなEV」づくりを目指したからだと聞く。
人気のSUVタイプであり、モデルXに比べると日本でも使いやすいサイズのモデルY。売れそうな予感がするが、まずは実車を見てみよう。
6月10日に受注が始まったばかりのモデルYとは、東京都江東区の有明ガーデン内にあるテスラの納車専用拠点「テスラデリバリーセンター有明」で対面した。スペックは全長4,751mm、全幅1,921mm、全高1,624mm、ホイールベース2,890mm、最低地上高167mm。ベースとなったモデル3より57mm長く、72mm広く、181mm高いそのサイズは、「意外と大きいな」という印象だ。
試乗車は最強バージョンの「パフォーマンス」というグレード。リアの「DUAL MOTOR」バッジには、2基のモーターを積むことを強調するかの如く赤のアンダーラインが入っている。カーボン製リアウイングや低めのコイルスプリング式サス、ダークカラーの21インチウーバータービンホイール、超扁平「ピレリ Pゼロ」など”武装”も万全だ。この巨大なホイールは結構外側まで出っ張っているので、気を抜いていると縁石ですぐに「ガリッ」とやってしまいそうなデザインでもある。
一方のインテリアは、ドアやアームレストがブラック、シートはピュアホワイトのヴィーガンレザーシート仕様。ダッシュボードに水平に張られたホワイトのパネルが唯一のアクセントだ。
ドライバーズシートからの景色は見慣れたテスラ各モデルのそれだった。モデルSからずっと変更されていないところを見ると、ユーザーからは「これで十分」だとか、「逆にテスラらしい」といった評価が届いているのかもしれない。
室内空間は広大で5人がゆったりと過ごせる。特に後席の足元には余裕があり、バックレストは3段階のリクライニングが可能だ。後席頭上まで続く広いガラスルーフのおかげで車内の解放感は抜群。ラゲッジルームはフロントトランク117L、リア854L、フルフラットで2,041LとSUVらしい積載量を誇る。
進化を止めない走るコンピューター
テスラアプリをダウンロードすれば、スマホを専用キーとして使える。アプリからはドアのロック/アンロックだけでなく、前後トランクの開閉やウインドーのチルト、空調などさまざまな操作が可能だ。
「動くコンピューター」ともいえるテスラ車の真骨頂は、ダッシュボードセンターにデンッと鎮座する15インチの大型タッチスクリーンだろう。走る、曲がる、止まる以外のほぼ全ての操作や設定をここで行うので、画面の使い勝手がクルマの良否を決めてしまうほど重要な部分だ。
日本に入ってきたばかりの「モデルY」では、その頭脳となるCPUがインテル製からAMD Ryzen(ライゼン)製に変わっていた。ゲーミングPCなどに多く使用されるライゼンのCPUは反応速度が機敏。車両のコントロールだけでなく、新しく導入されたゲームアプリなど覚える項目は膨大なのだけれど、使用しているうちに何となく使いこなせるようになるテスラのロジックは、スマホやタブレットなどと同じ感覚だ。停車中もCO2を排出しないので、大型ディスプレイで動画を見たり、テスラ車をテレワークの場として使ったりして、帰宅後なかなかクルマを降りてこないユーザーも増えているのだとか。
内臓が置いていかれる圧倒的な加速は健在
パワートレインはフロントアクスルにインダクション(誘導電気式)モーター、リアアクスルに永久磁石式モーターを搭載するデュアルモーター仕様。0-100km/h加速3.7秒、最高速度250km/h、航続距離595kmというパフォーマンスを公称する。
加速モードは「チル」と「スポーツ」があり、スポーツでの加速はテスラらしく強烈そのもの。ハーフスロットルでものけぞるほどなのに、そこからさらに奥までスロットルを踏みつけると、まるで2段ロケットに点火したかの如く(経験したことはないが)、内臓が後方に置いていかれるようなGが味わえる。全く容赦がない。
日本に来たばかりのモデルSの最速仕様(P100)に乗った当時は、スタートダッシュでリアホイールから白煙を上げ、お尻を振りながら豪快に加速するすごさと乱暴さにちょっと驚いたものだが、モデルYのマナーはそれに比べるとはるかに洗練の度合いが上がっている。数字的には、ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が0-100km/h加速3.6秒だというから、モデルY(パフォーマンス)は0.1秒遅いだけだ。
とはいえ、普段はそうしたパフォーマンスをフルで発揮させることなく、静かでゆったりとした運転を心掛がけたい。走り方によって「電費」が大きく違ってくるからだ。1走行ごとのデータはディスプレイで確認できるので、グラフで自分の走行と効率的な基準値を比べてみたり、内燃機関(ICE)搭載車との比較で燃料をどれだけ節約できたかを確認してみたりするのも楽しい。燃料代がどれだけ節約できたかを金額で可視化してくれるのはEVらしいポイントだ。
首都高では「オートパイロット」を使ってみた。操作は簡単で、シフトレバーを2度、ダブルタップするような感じで引き下げると機能が立ち上がり、レーンキープまで含めた追従運転(レベル2)が始まる。大きな画面上には詳細に描かれた自車とレーン上で追従対象の前走車だけでなく、周囲のクルマやバイクなどがそのままの形で表示されるので、周囲の状況が把握しやすい。市街地を走っているときは自転車や歩行者まで映しだしてくれる。
有明ガーデンのデリバリーセンターは、工場で生産された新車が到着するたびに駐車場がいっぱいになるほどの状態だという。今やテスラオーナーの「聖地」になっている感じで、遠く北海道からクルマを受け取りに訪れた猛者もいたそうだ(有償で自宅にも届けてくれる)。
実車を見たり試乗したりすることなく、ネットでポチり、有明のデリバリーセンターに出向き、到着したばかりのマイカーを見つけて乗り込み(当然、花束の贈呈式などはない)、近所の「オートバックス東雲」にある「スーパーチャージャー」で充電を試したりしつつ、自宅に持って帰る。新しいスマホを買うような感覚で、600万円オーバー(試乗車は800万円オーバー)のEVがバンバン売れる時代が到来しつつあるのだ。