具体的には、北欧の3地点に設置されたオーロラ観測用の高感度カメラが同時撮影した脈動オーロラの連続画像に対してCT解析が行われ、脈動オーロラの3次元構造が時々刻々と変化する様子の可視化に成功した。復元された3次元構造は、日本や北欧3か国など、計6か国によるEISCAT科学協会が運営する大型大気レーダーの「EISCATレーダー」が捉えた電離圏の電子密度の観測結果を、精度良く再現できていることが確かめられたという。
さらに、CT解析にオーロラ発光モデルを組み込むことで、脈動オーロラ発光を引き起こす降下電子のエネルギーの2次元分布の復元にも成功したとする。復元されたデータから、斑点状の脈動オーロラ中で、降下電子のエネルギーが高い領域が時間によって変化していることが明らかにされた。
降下電子のエネルギーは、宇宙空間の磁場やプラズマの環境に依存することから、今回の研究成果により、遠く離れた宇宙空間の物理量を地上に設置したカメラから遠隔で観測することが可能となったとする。
観測ロケットや科学衛星による観測に比べて、地上でのカメラによる観測は、安価で簡単に設置することができ、しかも長時間の連続観測も可能となる。実際、今回研究に用いられた北欧のカメラ以外にも、現在は北米や南極大陸など、極域の多くの地点にオーロラ観測用の高感度カメラが設置され、多くのオーロラ画像データが蓄積されているという。今後は、これらの大量のデータを網羅的に解析し、オーロラ物理学の理解を進める上で重要な情報を抽出することが求められていると研究チームではしている。
なお、研究チームでは、今回の研究によって確立されたCT解析手法を、脈動オーロラに限らずカーテン状オーロラなど、さまざまなオーロラに適用し、それぞれのオーロラの3次元構造や降下電子分布の統計的な解明を進めていく予定としている。また、2023年1月頃には、EISCAT科学協会を中心とした国際共同計画で「EISCAT_3Dレーダー」という世界最先端の大型大気レーダーを北欧5か所に設置して、電離圏大気の3次元観測がスタートする計画であり、同レーダーで取得された3次元データと、今回のCT解析から得られたオーロラ3次元構造を組み合わせることで、オーロラ発光を介して地球超高層大気と宇宙空間をつなぐ電流構造の可視化にも取り組む予定ともしている。