人気フィルムの色を忠実に再現したフィルムシミュレーションや個性的なデザインで根強いファンを持つのが、富士フイルムのAPS-Cミラーレス「Xシリーズ」です。これまで、交換レンズはごく一部を除いて純正レンズしか選択肢がなかったのですが、この1~2年で実力派のレンズメーカーが続々とXマウントの交換レンズに参入し、選択肢がグッと増えています。9月9日に開かれるXシリーズの新製品発表会「X Summit NYC 2022」を前に、Xマウントレンズに参入したサードパーティ各社のトレンドやラインナップをまとめてみました。
ほぼ純正品しか選択肢がなかったXマウントレンズ
2012年2月、富士フイルムXシリーズの初号モデル「X-Pro1」のリリース開始とともに、Xマウントレンズの歴史が始まりました。それ以来、メーカー純正の単焦点レンズ、ズームレンズとも矢継ぎ早にリリースが行われ、現在では不足のないラインナップとなりました。
サードパーティ製のXマウントレンズといえば、X-Pro1の発売から約1年半後となる2013年6月にリリースされたカールツァイスの「Touit 2.8/12」と「Touit 1.8/32」が初めてとなります。しかしながら、2014年3月の「Touit 2.8/50M」の発売以降、その動きは水を打ったように静まり返り、国内の主要レンズメーカーからXマウントレンズが出てくる気配はまったくありませんでした。
当時からXシリーズのユーザーだった筆者は、レンズメーカー関係者などに会う機会があると、Xマウントレンズの発売について訊くことがありました。当然ながら具体的な話はもらえないのですが、「期待してほしい」といった前向きな返事は皆無で、そのほとんどは「難しいですね…」といったニュアンスの発言ばかりだったことを記憶しています。
トキナーを皮切りに、サードパーティが続々参入
前述のように、純正のXマウントレンズは単焦点レンズもズームレンズも充実しており、しかも比較的廉価なものが揃っています。外から入る隙はないと諦めているのか、それとも何らかの“見えない力”が働いていて参入できないかのどちらかだろう、と当時は考えていました。
そのような状況を打破したのが、2020年12月発売のトキナー「atx-m 23mm F1.4」と「atx-m 33mm F1.4」です。親会社のケンコー・トキナーが写真関連の総合商社である強みを活かし、サプライヤーを海外メーカーとするもので、開放絞りF1.4と明るいうえ、AFに対応するなど、純正レンズと何ら変わらない操作性や写りなどで注目を集めました。2021年8月には、中望遠の「atx-m 56mm F1.4」をリリースしています。
タムロンからは、2021年10月に「18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD」が登場。高倍率ズームレンズに強いタムロンらしいレンズであるとともに、サードパーティ製のXマウントレンズとして初のズームレンズとなりました。
今年に入り、その勢いは加速しています。4月、シグマは「16mm F1.4 DC DN」「30mm F1.4 DC DN」「56mm F1.4 DC DN」の3本を同時にリリース。こちらはシグマらしく大口径AF単焦点レンズとしています。6月には、トキナーから「sz 8mm F2.8 FISH-EYE MF」と「sz 33mm F1.2 MF」の2本がリリース。どちらもシネマレンズをベースとするマニアックなMF専用レンズですが、特にsz 33mm F1.2 MF は受注生産でそのマニア度に拍車がかかります。
7月には、タムロンの大口径標準ズーム「17-70mm F/2.8 Di III-A VC RXD」が加わり、同時にフォクトレンダーの「NOKTON 23mm F1.2 Aspherical」と「NOKTON 35mm F1.2」が登場。フォクトレンダーの2本はMF専用レンズながら接点を持ち、Exif情報などカメラとの通信がAFレンズと同様に可能としています。同ブランドからは、8月に「MACRO APO-ULTRON 35mm F2」も登場しました。
メーカーごとに個性がはっきりしている
ざっとレンズメーカー製のXマウントレンズを時系列に並べてみましたが、興味深いのがそれぞれのメーカーの個性がよく出ているところでしょう。
トキナーはAFレンズもMF専用レンズもあり、バリエーション豊か。ユーザーの好みに応じて選べます。タムロンは、得意のズームレンズで勝負。明るい開放値の標準ズームと高倍率ズームとも、同社のラインナップには欠かせないものであることが分かります。シグマはフルサイズ一眼レフ用の交換レンズ同様、大口径単焦点レンズ3本で展開。同社らしい隙のない写りがXシリーズでも楽しめます。そしてフォクトレンダーは、すべて金属製の鏡筒を採用するとともに、MF専用とし、ピントを合わせる楽しみと所有する楽しみを兼ね備えたものとしています。サードパーティ製のXマウントレンズはメーカー色の濃いラインナップと述べてよいでしょう。
Xシリーズユーザーも、ソニーのαミラーレスユーザーのようにレンズを選ぶ楽しみがぐっと増してきました。自社のレンズを売りたいカメラメーカーにしてみれば、正直あまり面白くないことかもしれませんが、ユーザー視点で考えればとてもありがたく感じますし、レンズの選択肢が増えればカメラとしての魅力も増すように思えます。
従来から使用している純正のレンズにプラスαとしてレンズメーカー製のレンズをチョイスしてみたり、最初からレンズメーカー製のレンズのみで揃えていくなど楽しみ方もいろいろ。この機会にレンズの購入を考えていたXシリーズユーザーは、サードパーティ製のレンズも検討してみるとよいかもしれません。
【トキナー】AF対応で精度の高いレンズが魅力
トキナーのXマウントレンズは、AF対応の「atx-m」シリーズとMF専用の「sz」シリーズに大きく分けられます。
Atx-mシリーズは、35mm判換算で35mm相当の「atx-m 23mm F1.4」、50mm相当の「atx-m 33mm F1.4」、84mm相当の「atx-m 56mm F1.4」の3本をラインナップ。いずれも開放値はF1.4と明るいうえに、金属製で精度の高いつくりの鏡筒が特徴となります。しかもAFに対応しているため、純正のXマウントレンズと操作感は変わりません。焦点距離13mmから15mmほどの広角レンズが加われば、シリーズとして魅力が増しそうです。
szシリーズはMF専用、総金属製鏡筒とするトキナーこだわりのレンズ。シネマレンズとしても活用できるよう作られています。接点がないためカメラとの通信は行えませんが、それも気にならないほどの高い描写特性を誇ります。現在のラインナップは、魚眼レンズの「sz 8mm F2.8 FISH-EYE MF」と大口径標準レンズの「sz 33mm F1.2 MF」の2本となりますが、今後の展開も楽しみなシリーズといえます。
製品名 | フォーカス | 実売価格 | 発売時期 |
---|---|---|---|
atx-m 23mm F1.4 | AF | 62,800円 | 2020年12月 |
atx-m 33mm F1.4 | AF | 56,800円 | 2020年12月 |
atx-m 56mm F1.4 | AF | 62,800円 | 2021年8月 |
sz 8mm F2.8 FISH-EYE MF | MF | 47,300円 | 2022年6月 |
sz 33mm F1.2 MF | MF | 58,300円 | 2022年6月 |
【タムロン】高倍率をはじめとしたズームレンズが売り
高倍率ズームをはじめズームレンズを得意とするタムロンは、もちろんズームレンズ一色。F2.8の明るい標準ズームレンズと、16.7倍の高倍率ズームレンズをラインナップします。いずれも強力な防振機構VCを搭載し、手持ち撮影での安心感はとても高く感じられます。写りも、ズームレンズとして不足を感じさせないのも魅力。買い足しとしては当然ながら、最初からこのいずれかのレンズとXミラーレスのボディを購入するのもアリです。フィルター径がφ67mmと揃っているのもタムロンらしいところ。今後、広角ズームや望遠ズームの登場にも期待です。
製品名 | フォーカス | 実売価格 | 発売時期 |
---|---|---|---|
17-70mm F/2.8 Di III-A VC RXD | AF | 93,500円 | 2022年7月 |
18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD | AF | 82,500円 | 2021年10月 |
【シグマ】まずはF1.4の単焦点レンズ3本をリリース
シグマは、開放F1.4の単焦点レンズ3本をリリース。35mm判換算で広角24mm相当の「16mm F1.4 DC DN」、標準45mm相当の「30mm F1.4 DC DN」、中望遠84mm相当の「56mm F1.4 DC DN」となります。画角的にはバランスの取れたラインナップですし、いずれも比較的手ごろな価格ですので、一度にすべて揃えてみるのもアリです。2022年内には「18-50mm F2.8 DC DN」の登場もアナウンスされていますので、楽しみに待ちましょう。
製品名 | フォーカス | 実売価格 | 発売時期 |
---|---|---|---|
16mm F1.4 DC DN | AF | 47,600円 | 2022年4月 |
30mm F1.4 DC DN | AF | 39,600円 | 2022年4月 |
56mm F1.4 DC DN | AF | 47,700円 | 2022年4月 |
【コシナ/フォクトレンダー】重厚感のある明るいレンズ
総金属製の重厚な鏡筒にMFと、こだわりを感じさせるレンズです。現在3本をラインナップしていますが、マクロレンズを除けば開放値はF1.2とひときわ明るいのも特徴。浅い被写界深度で被写体を浮き立たせたり、薄暗い撮影シーンでも手持ちによる撮影が楽しめます。さらに、いずれのレンズも電子接点を持っており、ボディとのExif情報などのやり取りも可能。MFが楽しいと思うXシリーズユーザーは見逃せないレンズになっています。
製品名 | フォーカス | 実売価格 | 発売時期 |
---|---|---|---|
NOKTON 23mm F1.2 Aspherical | MF | 99,000円 | 2022年7月 |
NOKTON 35mm F1.2 | MF | 87,800円 | 2022年7月 |
MACRO APO-ULTRON 35mm F2 | MF | 96,800円 | 2022年8月 |
【カールツァイス】AF対応で絞りリングも搭載
Xシステム登場からそう時間を置かずにリリースを開始したカールツァイスのXマウントレンズ。AF対応で絞りリングを備えていますので、純正レンズと変わらぬ操作感が楽しめます。
製品名 | フォーカス | 実売価格 | 発売時期 |
---|---|---|---|
Touit 2.8/12 | AF | 128,700円 | 2013年6月 |
Touit 1.8/32 | AF | 96,800円 | 2013年6月 |
Touit 2.8/50M | AF | 129,800円 | 2014年3月 |