東京・東京建物 Brillia HALLにて現在上演中の『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演。ドリームワークスが2001年に製作して史上初のアカデミー長編アニメ映画賞を受賞した大ヒットアドベンチャーコメディの映画『シュレック』が2008年にブロードウェイでミュージカル化され、満を持して日本に初上陸。今回はトライアウト公演という形で全役オーディションを行い、1300を超える応募の中からspi、福田えり、吉田純也、泉見洋平、岡村さやか、須藤香菜、新里宏太らの出演者が選ばれた。
8月16日に初日を迎えると、確かな実力者が集まった公演が好評を博す一方で、公演関係者に体調不良者・発熱者が確認されたことから、8月18日から8月24日までの9公演が中止に。さらに中止期間中に、主役のシュレックを演じる俳優・spiに新型コロナ陽性反応が確認された。その他のスタッフ・キャスト全員の陰性が確認されたため、公演の再開が発表されたものの、シュレック役はアンダースタディの鎌田誠樹、そして鎌田が務めていたオオカミ役は3匹のこぶた役の岩崎巧馬(※崎はたつさき)が務めることとなった。稽古期間を経て公演は無事に再開し、28日に千秋楽を迎えることとなり、療養中のspiも、自身のTwitterアカウントで「皆様も是非シュレック見てください!!」とカンパニーにエールを送っている。
舞台公演の中止が相次ぐ中、主にミュージカルにおいてはWキャストが代役を務めるなどの例も多く見られる一方、主役を代役が務めるという例はなかなかない。万が一のために予め役の準備をする「アンダースタディ」という役割は、特にコロナ禍において重要性が指摘されていたが、実際に上演に成功した『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演は新たな例となることだろう。今回はなぜこのような対応が可能だったのか、さらに今後の展望についても含めプロデューサーにメールインタビューを行った。
■稽古時からアンダースタディが付き添っていた
――昨今「アンダースタディ」という役割が知られてきていますが、日本で上演されるミュージカルの主役が交代されるというのは、なかなかこれまでにない英断ではないでしょうか? スムーズに公演再開にたどりつけましたか?
主役のコロナ感染という一番想定したくない事態に直面しましたが、途中で全公演中止にせず、なんとか千秋楽を迎えたいという思いはキャスト・スタッフも同じであると感じておりました。開幕してからのお客さまの反応が良かったことに加え、キャスト全員の力量が高いという信頼もありましたので、なんとか再開したい。できるのではないか。と考えておりました。
カンパニー内に他に感染者が出なかったことも幸いしましたし、万が一を考えてアンダースタディを置いておいたこともあり、公演再開を目指したいと伝えた際にも、全員から前向きな気持ちをいただけたので、最低限の中止期間を経て、主役を交代して再開をすることを決断いたしました。
――コロナ禍において、今回のような事態の想定は現実的なものとしてされていましたか?
今年に入って、公演の延期や中止のお知らせを様々なところで聞くようになり、他人事ではないなと思ってはおりましたため、万が一の想定として、オーディションでの配役を決定する際から、アンダースタディは決めておりました。
――もともとのブロードウェイのカンパニーにもアンダースタディが組み込まれていたんでしょうか? そういったノウハウはありましたか?
ブロードウェイのシュレックカンパニーの裏側は存じ上げませんので分かりかねます。ですが、ブロードウェイでは、アンダースタディやスウィングのシステムがあることが通常なのではないかと思っておりますし、ロングラン公演の途中で主役の方が変わっていくのは通常なことかと思います。
今回、特にノウハウがあったわけではありませんが、優秀なスタッフたちと相談しながら進めていきました。キャストがオールオーディションで、実力派が集まったことも功を奏し、代役稽古も短期間で再開することができると判断いたしました。
――稽古ではどのような準備をされていたのでしょうか? シュレックのマスクは特注とのことですが、用意はされていたんでしょうか?
最初の歌稽古から、アンダースタディの方は本役の方と一緒に必要なシーンに参加していただいていました。稽古場では、本役の稽古のシーンにアンダースタディの方々に付き合っていただき、稽古を見て覚えていただいていました。
シュレックマスクは、spiさんの型のみで制作しておりましたが、マスクのサンプルができ上がった際に鎌田さんでも被れるかどうかの検証は行っておりました。
――役者の方にとって、役のスライドは可能なものなんですか?
通常の公演では不可能だと思います。
今回は、実力派のキャストさんのみが集まったという自負があったので可能だったと思います。また、コロナ禍で何が起こるかわからない時期の公演ですし、アンダースタディの方々には、万が一の際に急遽登板する可能性はあるよという事は稽古期間中から伝えておりました(もちろん、万が一の事態が起こらないことが一番なのですが)
そして、キャストも稽古場だけでなく、自主的にアンダーの稽古をしていてくれていまして、プロフェッショナルな役者さんが集まってくれたことがとても大きいです。裏で万が一のバックアップ体制を取っていたとはいえ、今回は全てのピースが奇跡的にうまくハマったと思っております。
――今回はトライアウト公演ということで、今後の展望などありましたら教えてください。
オールオーディションで質の高いミュージカルを作りたい。うまくいけばフルバージョンの上演に繋げたいという理念を持って、トライアウト公演を立ち上げました。結果、当初の想定よりもさらに上をいく仕上がりになったという手応えがありますし、フルバージョンでの上演が現実的になったと考えております。その暁には、観客の皆様にも引き続き応援していただきたいと思っております。今後とも、『シュレック・ザ・ミュージカル』を愛していただけますと幸いです。
撮影:阿部章仁