夏ドラマも後半戦へ突入した。ドラマオタクながら、この時期が来ると「ああ、もうすぐ年末だ」としみじみする期間でもある。

と、そんな夏ドラマに役柄設定の被りを二つほど見つけた。これは偶然なのか必然なのかは不明ではあるが、ドラマ終盤を楽しむひとつのヒントとして皆様にお伝えしたい。

各々の個性が光る陽キャと陰キャの"小鳥おじさん"

  • 西島秀俊

  • 柄本佑

ひとつめの偶然は"小鳥(ことり)"という苗字の男性が2人も登場していたこと。大島でも小島でもない、小鳥である。面白いことに、2人の性格や行動が真逆なのである。まずは『ユニコーンに乗って』(TBS系)の、西島秀俊さん演じる"小鳥智志"。長年勤務した信用金庫を退社して、成川佐奈(永野芽郁)の経営するスタートアップ企業へ48歳で転職。20代に囲まれた環境での仕事も楽しそうに、そして前向きに進めている。同僚からは「ことりん」と呼ばれる可愛さもありながら、年の功による対応力の高さも評価されている。

そんな「ことりん」とは異なる、陰キャ設定"小鳥"もいる。それが『初恋の悪魔』(日本テレビ系)で、柄本佑さん演じる"小鳥琉夏(るか)"。名前だけを見れば、明朗なイメージもするけれど性格は細かく、内向的である。警察の会計課に勤務しているという設定も頷ける。持論をひたすら話す癖と、好きな女性の前では素直になることのできない、おじさんである。

どちらの小鳥も第一線で活躍する俳優が演じている。この設定が真逆になるこを想像ができないほど、役に収まっているのは、小鳥ゆえ、役に羽ばたいたのであろうか……。特に西島さん演じる小鳥は、おっさん風味と天然ぶりが混在していて、とても可愛らしい。スーツを着ても隠しきれないガタイの良さとともに、高く、高く評価してハートマークをつけたい。

"超・記憶力"を秘けつにするのか、卑屈材料になるのか

  • 坂口健太郎

  • 中村倫也

苗字に続いて、特技でのダブりもあった夏ドラマ。物質を見ただけで瞬時にすべてを記憶する能力を持つ、神童のような男性が2名も現れた。ここで面白いのは、両者、能力との向き合い方がまったく違うこと。1人は必殺技のごとく決め手に、でももう1人は「俺にはこれしかないから……」と、まるで記憶力があることが後ろめたさになっている。

まずは『競争の番人』(フジテレビ系)に登場する、小勝負勉(坂口健太郎)。東大卒のエリートでありながら、公正取引員会を就職先に選んだ。大中小、さまざまな企業の不正を暴き、正しい利益が世の中へ行き渡るようにしていくことが小勝負たちの業務。ここで彼はどんな小さな案件も現場に出向き、ひたすら関連する書類をチェック。そして写真撮影でもしているかのように、すべての内容を把握する。

その証拠を不正者に叩きつけて、取り締まっていく小勝負。その様子はまるで『水戸黄門』の終盤に登場する、印籠を手にした黄門さまである。そう、彼にとって、記憶力は武器。隠すなんてとんでもない。シチュエーションを問わず、使いまくる。それが小勝負と記憶力の向き合い方である。

対するのが『石子と羽男』(TBS系)の羽根岡佳男(中村倫也)。弁護士である彼も小勝負と同じく、見たものを瞬時に記憶をして、依頼者からの案件を解決に導いている。この羽根岡という男、かなりの曲者だ。高卒で弁護士になるほど優秀な能力を持ちながら、自分が世間からどう見られているのかだけを常に意識している。

ドラマに出てくるような型破りな弁護士に憧れて、いつもぱっと見でロゴがわかるようなハイブランド品を身につけている。ここまで聞くと、麻布十番を庭にしていそうな風貌から、友達にはなりたくはないと思う。でも素の彼はビジュアルと反対に、とても卑屈だ。エリート弁護士一家でも一番出来が悪い、大手弁護士事務所はクビになる。いつも最後の決め手がすべて空振りで終わるような人生を歩んできた。

だから自分の記憶力さえも「俺はこんなことしかできないから」とでも言いそうな、後ろ向きな捉え方をしている。卑屈な雰囲気を演じる中村倫也さんが似合いすぎているので、このままでもいいような気もする。でも最近では相棒でしっかり者のパラリーガル・石田硝子(有村架純)の影響によって、少しずつ改善されつつ……ある? というところだ。

ふと同じような記憶力を『SUITS』(フジテレビ系・2018年)でも、鈴木大貴(中島裕翔)も持っていたと思い出した。彼は弁護士資格を所持しないまま、記憶力を高く買われて、弁護士として働いていた。やや間違った武器の使い方でもある。小勝負はそんなに心配ないけれど、羽根岡こそ間違った方向に使わないように……と願わんばかり。

小鳥と記憶力という奇妙な偶然。これは本当に偶然なのだろうかと、疑念がわく。何か意図を持ったキャンペーンなのかもしれないと、モヤモヤ考えつつ、4作品、最終回まで見守りたい。