スズキが新型軽自動車の「スペーシア ベース」(以下、ベース)というクルマを発売する。既存の軽乗用車「スペーシア」を基にした新車で、特徴は広い荷室とマルチボードを組み合わせた空間アレンジの多彩さ。分類上は商用車だが、仕事にも遊びにも使えそうな1台に仕上がっている。
肝は「マルチボード」の使い方
ベースが想定しているのは1~2人での利用がメインのユーザー。前席は軽乗用車の快適性・乗り心地としつつ、後席は商用車として割り切り、スペースを削ることによって荷室の広さを確保した。パッケージングで目指したのは「乗用車と商用車のいいとこどり」(ベース開発陣)だ。後席を折りたためば荷室はフルフラットに。こうして作った空間を「マルチボード」で仕切ることで、さまざまな使い方が可能となる。
マルチボードがこのクルマの肝となるアイデアだ。はめ込む溝の位置により「上段」「中段」「下段」「前後分割」の4種類の使い方ができる。荷室を目いっぱい使いたいのならボードを外しておけばいい。空間の使い方はユーザーの発想次第だが、例えばこんな感じだ。
なぜこのクルマを作った?
スズキは小さなクルマの専門家として、ありとあらゆる軽自動車をラインアップしているメーカーなのに、そもそもなぜ、また新しいタイプのクルマを開発しようと思ったのか。スペーシアには「ギア」「カスタム」という派生モデルがあるし、商用車も「エブリイ」「エブリイワゴン」とそろっているにもかかわらずだ。
スズキによると、意外にも同社の軽ラインアップにはベースのようなクルマがなかったという。
ベースの使い方としては「リモートワーク」「車中泊」「キャンプ」「配送業」などが思い浮かぶ。いずれも、新型コロナウイルスの感染拡大によりニーズが高まったものばかりだ。
初めてベースのコンセプトを聞いたときは「スズキはタイムリーなクルマを作る会社だなー」と感心したのだが、聞けばベースの開発スタートは約3年前で、その頃にはコロナがここまで流行するとはだれにも想像がつかなかったそう。スズキとしては、新たなクルマの使い方を提案してみようとベースの開発を進めていたところ、時が経つにつれ、ベースが社会情勢にピタリとはまる1台になっていった、ということなのかもしれない。
ベースでは「純増年間1万台」を目指すとのこと。新規の需要が4,000台で、あとはスペーシアやエブリイなどから6,000台分のユーザーが移動してきたといったような形ではなく、ほかの車種の販売台数には影響を与えずに、ベースで年間1万台をプラスしたいという意味だ。少し野心的にも聞こえるが、時代に合ったクルマとして新たな需要を掘り起こせるかに注目だ。