富士通が手がけてきた40年間にもおよぶパソコンの歴史には、なかなか個性的なデスクトップパソコンも多い。こういう意欲的な挑戦があってこそ名機が生まれるものだ。中にはヒットに恵まれなかったモデルもあるが、そんな個性派デスクトップパソコンから3モデルを選んでみた。
3D立体視に対応したオールインワンデスクトップ「ESPRIMO FH550/3AM」(2010年夏モデル)
3Dテレビがブームとなっていたころ、おそらくパソコンでは世界初であろう3D立体視に対応したESPRIMO FH550/3AMが登場した。開発コードネームは「Dora2」。3D立体視には円偏光方式を採用し、付属の3Dメガネを使って画面を見る。
ハードウェアとしては、従来モデルで搭載していた一眼Webカメラを高い精度で2つ内蔵。3D映像と3D静止画を撮影でき、Blu-ray 3Dコンテンツの再生をサポートしたほか、DVDの2D映像をリアルタイムで3Dに変換する機能もあった。一説によると、開発もそうとう苦労したんだとか。
その後は上位モデルにも搭載された3D立体視機能だが、パソコンとしては正直それほど売れなかった。3Dテレビが急激に市場から消えていったのと同様に、短命に終わった。
パナソニックの「ナノイー」発生器を搭載したオールインワンデスクトップ「ESPRIMO FH900/5BM」(2010年冬モデル)
パナソニックのナノイーやナノイーXは、いわゆるマイナスイオンと呼ばれる物の一種。除菌効果や脱臭効果を持つとされ、パナソニック製のさまざまな家電製品をはじめ、トヨタのクルマ(一部の車種)などにも搭載されている。
そのナノイー発生器を液晶一体型デスクトップパソコン(画面背面上部)に組み込んだモデルがESPRIMO FH900/5BMだ。開発コードネームは「Sin」。パナソニックも開発に協力しており、パソコンに付加価値が求められる中で採用された機能だった。一時期はノートパソコンやBtoB向けのクライアント・サーバー機にも展開していたが、ナノイーの効果が実感しにくいこともあってか、定番機能とはならなかった。2022年の今だったらもっと訴求力があったのかもしれない。
37型大画面のオールインワンデスクトップ「FMV-DESKPOWER TX90S/D・95S/D」(2006年夏モデル)
32型モデルが好評だったことから、半ばイケイケ(失礼!)で投入された大画面オールインワンデスクトップ。当時、現在の富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の齋藤邦彰会長(2022年8月時点)が開発の陣頭指揮を執った。開発コードネームは「Tristan」。パソコン、テレビ、DVDレコーダーという1台3役でリビング設置を狙ったとしていたが、32型モデルのヒットに比べて結果はいまひとつだった。
製造現場も一苦労。組み立てラインに乗らないほどの大きさだったため、工場では専用の台車が何台も行き来していたという。社内外から「こんなの作って……」という声があったとかなかったとか。
その後「リビングパソコン」のコンセプトは進化し、ティスプレイを同梱しないセパレート型デスクトップ「FMV-TEO」の開発とヒットにつながった。FMV-TEOは、リビングの大画面テレビに接続することを想定したモデルだ。
デスクトップではないけれど……、女性向けノートパソコン「Floral Kiss」(2012年冬モデル)
富士通の女性社員が中心となって企画・開発した13.3型ノートパソコン。開発コードネームは「IRIA」。本体デザインはもちろん、グラデーション塗装やキーボード、ACアダプタから梱包まで徹底的にこだわって作ったとされる。「PCに、エレガンスを」のコンセプトを掲げ、20代~30代の女性の持ち物として似合う上品さを漂わせていた。
想定するユーザー層や市場からは好意的に受け止められ話題性も高く、成功したプロダクトといえる。ただ販売は思うように伸びず、基本的なハードウェア設計としては2代限りで終了した。当時は今ほど「私物」や「仕事道具」としてノートパソコンを所有する女性が少なかったことも、ブレイクしきれなかった理由のひとつだろう。