8月3日、さいたま市にある「まるまるひがしにほん」にて「第1回 特殊冷凍技術体感セミナー ~「凍眠」の事例紹介~」が開催された。さいたま市の大宮駅近くにある拠点での開催とあって、会場には地元大宮駅に近い飲食業者らが駆けつけた。それでは当日の模様をダイジェストでお伝えしていこう。

テクニカンが開発した革新的冷凍技術

コロナ禍によって大きな影響を受けた食品業界。特に飲食業者は規模の大小を問わず、売上減はもちろん、フードロスなど課題が山積しているところも多い。そんな中、業界のゲームチェンジャーとして期待されているのが、テクニカンが開発した「凍眠」という冷凍装置だ。

この製品は従来のものと仕組みが大きく異なり、媒介に液体を使うことで冷凍食品が持つデメリットを克服しているのが特徴だ。「世界初となる液体凍結機で、冷凍なのに鮮度が落ちず、凍結前の美味しさをキープします」と壇上に登場した開発元であるテクニカンの今村氏は説明する。

  • 「まるまるひがしにほん」にて開催された「第1回 特殊冷凍技術体感セミナー ~「凍眠」の事例紹介~」の模様

液体は空気と比較して熱伝導率が約20倍にもなるという特徴がある。凍眠の中に満たされた液体の中に対象となる食品を漬けることにより、細胞を壊さず凍結できるため、解凍時にうまみが逃げ出すことがない。

これにより、鮮度が保たれることはもちろん、品質を変えずに長期保存が可能だそう。その特長を活かし、安い時期に仕入れておき、冷凍保存することで相場のコントロールも可能になる。必要な量だけ素材を解凍すればよいので業務効率化にもつながるうえに、フードロス対策も同時に行えるのも強みだ。「特に魚類に多い寄生虫対策にもなるので安全性を高めることも可能ですし、品質の高いチルド製品として、販路も拡大できます」と今村氏は説明を続ける。

  • 「凍眠」について説明するテクニカンの今村氏

続いて会場に設置された「凍眠ミニ」によるデモンストレーションが始まった。凍眠は内部の水槽に満たされたマイナス30度以上に冷やされたアルコール(不燃性)に、対象を浸すことで冷凍する技術になる。実際に真空パックされた牛肉を液体に浸けると、すぐさま凍結が進む様子が見て取れる。数分もすれば冷凍は完了するので、あとは冷凍庫で保存や冷凍配送が可能になるという手軽さだ。

  • 会場に設置された「凍眠ミニ」

  • 液体を媒介にした冷凍技術で従来の冷凍食品のデメリットを克服

「実際にこんにゃくゼリーを使って一般的な冷凍庫と凍眠の差をお見せしましょう」と今村氏がいうと、事前に液体に浸されていたこんにゃくゼリーを取り出し、用意していた通常の冷凍庫で凍らせたこんにゃくゼリーとの切断面を見せてくれた。

一般的な冷凍方法を使った方は断面の模様がマーブル上になっており、凍眠で冷凍したものは濃度が一様できれいな色をしている。「これはこんにゃくゼリーなので細胞ではありませんが、氷結晶の大きさの違いが模様となって見えるほど違うことがお分かりかと思います」と今村氏は解説する。

  • (左)凍眠を使って凍らせたこんにゃくゼリーの断面図と(右)一般的な冷凍方法を使ったこんにゃくゼリー

一般的に冷凍した食材がおいしくないとされる理由の大半は、凍結後にうまみが逃げ出してしまうことによるものなので、それがまったくない凍眠による冷凍はまさにそのデメリットがないという画期的な技術であることを会場の全員が体験することができた。

その後、実際に産地で凍らせたという生シラスや生酒、それににぎられた状態で凍らせた寿司などがふるまわれ、食のプロである飲食業者たちの舌をうならせつつ、セミナーは終了時間となった。

イベントを受けて

第1回目のイベントを受けて、各関係者にコメントをもらった。

まず、企画の背景について、NTT東日本 埼玉事業部 菊永遥香氏と岩見晃希氏に話を聞いた。

「地域の課題解決に私たちが持っているアセットやリソースが活用できると考えて活動しています。テクニカンさんがすごい冷凍技術をお持ちなので、現在の食品業界が持っている課題の解決に役立つと思い、今回のイベントによってより幅広い人々に周知していただけるのではないかとおもって企画しました」(菊永氏)

「現在日本はコロナ禍もあって、フードロスが大きな課題となっています。世界的にもこの問題は大きいので、凍眠がそれを解決できるのではないかと考えています。それをお話ししたところ、会場を提供してくれたまるまるひがしにほんさんも、バックアップしてくれるさいたま市役所さんも協力してくれることになったのです」(岩見氏)

NTT東日本の菊永氏は、テクニカン本社で実際に冷凍技術を体験してきたという。「この冷凍技術は本当にすごいと思います。この効果と可能性は実際に見てもらえばわかると思うので今回のイベントが開催できて本当に良かったと思います。実際の店舗でこの技術をどのように活かしていくかは、私たちもみなさんと一緒に考えていきたいです」

このイベントが課題解決へ向けての最初の一歩になるとNTT東日本の岩見氏は話す。まずは、技術を知ってもらい、次のステップでは実際の店舗で実証実験をしていきながら、地域に広げていけるとうれしいと話す。

「今回は凍眠ミニという一番小さな製品を持ってきましたが、これなら個人店舗様でも導入できる金額となっています。さいたま市の場合補助金も適用できますから、負担の少ない導入も可能です。ぜひみなさんに検討いただきたいですね」(岩見氏)

続いて、さいたま市 経済局 商工観光部 経済政策課 課長補佐 山口正人氏に話を伺った。NTT東日本とは普段からコミュニケーションをとっており、その中で面白い冷凍技術があると話を聞いていたという。

「市で聞くよりも、地域の飲食店の皆さまに聞いてもらおうということになり、駅前商店街の中心にあって開催場所にふさわしいまるまるひがしにほんさんにお願いしようということでセミナー開催まで話が進みました」(山口氏)

「私たちとしてもコロナ禍で非常にきびしい状況にある飲食業者のみなさまを支えていきたい思いはあるのですが、支援金にしても一次しのぎにしかならず、よいアイデアがなかなか出てきませんでした。経済産業省の『事業再構築補助金』を活用いただき、導入いただいた事例もありますので、これを機会にぜひ最新の冷凍設備を手に入れて課題を解決していただきたいですね」(山口氏)

今回イベントを開催した「まるまるひがしにほん」は、大宮駅前にあり、文字通り東日本全域の特産品などを提供する施設。1階は販売所となっており、多くの人たちが訪れるが、2階のセミナー会場は使い切れていないのが悩みだったと、まち・ひと・しごと総研 代表取締役社長 東日本連携センター センター長 菊池健司氏は話す。

「コロナ禍以前は市民の方々や商工会議所の方々にも使っていただいていたのですが、コロナ禍以降はなかなか活性化していなかったのが実情です。そんな中、NTT東日本の方から今回の話を聞き、まさにぴったりの企画だと思い、よろこんで会場を提供することにしたのです」(菊池氏)

「実は私たちのところでもたびたび各地で作られた冷凍食材を仕入れているのですが、大好評となっていた商品もありました。それらがテクニカンさんの技術によるものであることは知っていたので、今回の企画内容を伺ったときには運命的なものを感じました」(菊池氏)

同施設は地域の商店街が活性化することで大宮の賑わいを取り戻す狙いがあるという。「東日本全体の地域を結び、日本が明るくなるような取り組みに繋げていきたい」と菊池氏は話してくれた。

最後に、「凍眠」を開発したテクニカンの営業部の今村祐彦氏と栗田栄作氏に本セミナーへの想いや今後の展望について聞いた。

これまで、体験会や営業活動の一環としての勉強会は実施していたそうだが、飲食業者の方々を集め、セミナー形式で製品を発表する機会はなかったそう。第1回目のセミナーが終わり「普段の営業活動だけでは出会えなかった方々とお話ができることに喜びを感じています」と話してくれた。

「この技術は”百聞は一見如かず”という言葉がまさに体現するとおり、見て感じていただくことで、飲食業者様自らが使うイメージが湧いてくる製品だと思っています」

「現在、凍眠で冷凍した食品を出荷する際に各導入業者様には『凍眠シール』というものを貼っていただいています。このシールの意味がもっと世の中に広がって、凍眠シールが貼ってあるから、解凍してもおいしい、あるいは凍眠シールが貼ってある商品を選びたいと思ってもらえるようにしていきたいと考えています」

  • 凍眠シール

  • 凍眠シールが張られた食品のサンプル