国産PCメーカーの雄でありながらも、実は長野県安曇野市に本社を構えるVAIO。こだわりの「安曇野FINISH」を実現する環境、そしてその職場はどのような場所なのだろうか。工場を見学しつつ、実際にUターン・Iターン就職した社員に感想を聞いてみたい。

  • 長野県安曇野市豊科にある、VAIO本社

VAIO本社が長野県安曇野市にある理由

「VAIO」は、時代を先取りした設計、新しい使い方を提案する独自のアイデア、PCの概念を覆してきたデザインなどで、常に消費者を驚かせ続けてきたブランドだ。そんなVAIOを作ってきたVAIO事業本部が2014年7月にソニーグループから独立したことは、世界中に大きな衝撃を与えた。

こうして社員数約240名からとして新たな一歩を踏み出した「VAIO」。その本社は、長野県安曇野市豊科にある。東京オフィスに在籍するのは主に企画・営業・マーケティング・広報。また名古屋・大阪・福岡のオフィスは営業拠点だ。設計・製造や人事・総務、そして品質管理などは安曇野本社に集約されている。

そもそも安曇野に本社がある理由は、1961年に設立された東洋通信工業に端を発する。同社は1974年にソニーグループのひとつとなり、主にオーディオ機器を製造してきたが、1983年からPCの製造をスタート。そして1989年には「ソニーデジタルプロダクツ」と社名を変更し、ソニーのデジタル製品を製造する工場となる。1994年には「FeliCa」、1996年にはリチウムイオンバッテリーの生産も始まった。

  • テラス席もある社員食堂からは、雄大な南アルプスの山々も一望できる

そして1997年、ついに「VAIO」の生産を開始。以後はVAIOのマザー工場として、世界中の工場に対して設計・製造を指導していくことになる。さらに1999年には、あの「AIBO」が誕生。ソニーの中で唯一ロボット系の設計・製造を行う工場であったため、生産が終了する2006年まで、一貫してAIBOは安曇野で作られていた。

2014年の独立から今年で8年。電子機器の製造を受託するEMS事業や法人向けビジネスの強化などを経て、VAIOは再び市場にそのブランドを示し始めた。現在の従業員数は300名弱まで増加し、高い技術力で高品質な製品を作る日本企業として成長を続けている。

日本の技術と誇りを込めて品質を保証する「安曇野FINISH」

長年、VAIOを育んできた安曇野工場。現在はモノづくりの全プロセスをワンストップ体制で対応している。製品の3Dモデルをもとに、企画段階から全部署で製品を改善していくのがVAIO流のやり方。

PCはもともとBTO、つまり受注生産が中心だが、スマートフォンやタブレット端末が普及したいま、PC市場ではより少量多品種が求められている。

また、このような時代だからこそ高品質を実現する難易度はより高くなっているが、VAIOにはソニー時代から脈々と続くモノづくりの経験と歴史があり、それが同社の実績であり誇りとなっている。さらに、こうした時代の変化に応じて、VAIOのモノづくりも次のステップへ移ろうとしており、生産ラインの自働化、見える化、魅せる化をキーワードに進化し続けているという。

品質試験は主に「全機種共通品質試験」「モバイルノート向け特別品質試験」「アメリカ国防総省制定MIL規格準拠テスト」という3つの基準で行われている。数々の過酷な試験をクリアすることによって初めて実際に製品化され、販売される。

  • 環境試験室で行われていた落下試験

  • こちらは繰り返しPCの角を落とし続ける試験

  • 粉塵の舞う環境でのファンの詰まり方や熱暴走なども検証

組み立て工程では、QRコードやバーコードを活用し、全製品の一致確認と生産履歴追跡が行われている。部品の有無や位置確認、カラーやラベルは画像検査装置、各種キーやボタン、LEDなどは検査自働機を通して行われるが、最終品質チェックは人間の手を介す。その数は約50項目に及び、キーボードの感触やわずかな歪み、隙間などを熟練スタッフが入念に確認するという。

  • 本社のVAIO製造ライン。一部機種の製造ラインは黒くデザインされている

  • 外観からわかる不具合を自動で判定する画像検査装置

  • ロボットによるさまざまな検査が行われる検査自働機

  • OSやソフトも自動インストール。すべてのPCのインストール状況が可視化されている

  • 小さな違和感も見逃さないように、人間の手による最終品質チェックも行う

また製品に不具合が発生した際には、製造スタッフだけでなく設計のスタッフなどが確認することがある。これは、製造や設計を初めとしたさまざまな職種がひとつ屋根の下で働いている環境だからこそ可能なことだろう。

  • 工場内では、解析用のX線検査機を見ながら改善のアイデアを出し合っていた

長野県にUターンしてきた新卒社員が感じる「VAIOの働き方」

VAIOは、技術を磨き、新しいことにチャレンジしたいという人材を常に求めている。だが、VAIOで働くということは、長野県で働くということ。就職を希望する人の中には、大都市圏から離れて生活することに不安を覚える方が決して少なくないはずだ。

そこで、別記事で就職活動について伺った若手社員2名に、VAIOという会社の感想、そして現在の働き方について詳しく聞いてみた。VAIOで働いてみたいという方はぜひ参考にして欲しい。

1人目は、Uターン就職で故郷である長野に戻ってきた中西啓太氏。長野県で生まれ育ち、富山大学に進学。同大学大学院を経て、新卒でVAIOに入社した。

「VAIO本社は、本社機能と工場が一体となっており、さまざまな部署があります。そして部署間の連携が取りやすい社内風土があります。本当にいろいろな人と関わって成長できる環境があると感じます」(中西氏)

  • VAIO 製造本部 技術&製造部 製造課 エンジニア 中西啓太氏

学生時代にはフルマラソンを走ったこともあるという中西氏。休日にはジョギングや、コロナ禍で機会は減ったものの、スノーボードも楽しんでいるそうだ。天候が悪い時は自宅でゆっくり本を読んだり、映画を見たりとインドアな面も。機会があれば山登りやキャンプにもチャレンジしたいという。

「福利厚生の面では、土・日のお休みに加えて自由にカスタマイズできる休日も上乗せでいただいているので、プライベートを作りやすいと思います。小分けにしている人もいれば、まとめて使って遠出をしている人もいますね。もちろん、給与面でもしっかりとした数字があるので、大きなポイントだと思います」(中西氏)

  • 製造ラインで検査自働機を操作する中西氏

茨城県からIターン転職した社員が感じる「VAIOの働き方」

2人目は、Iターン転職で長野にやってきた佐伯尚哉氏。生まれは愛媛県で、名古屋工業大学に進学。茨城県で就職したのち、その会社を退職。第二新卒でVAIOに入社した。

「VAIOはソニー時代から勤められている技術者も多い会社です。面白いものを作るというチャレンジングなところがあり、そういう技術に関する議論ができる環境でもあります。成長できる機会は多分にあると感じています」(佐伯氏)

  • VAIO 開発本部 テクノロジーセンター 電気設計部 佐伯尚哉氏

佐伯氏は、海が身近で雪がほぼ降らない場所から長野に来た。インドアを自称しつつも近隣を散歩する時間も増えており、昨年からはウインタースポーツにも挑戦しているそうだ。とはいえ、休日は自宅で過ごすことが多く、動画を見たり、アプリ開発をしたりするのが日常だという。

「VAIOに就職して、海のない場所に初めて住むことになりました。長野に来て一番思ったのは、みんなすごく親切だということです。もちろん愛媛県民も親切ですが(笑)、長野の県民性なのか、地元の方でなくても優しくしてくれる印象を受けました」

そんな佐伯氏が驚いたのは、以前の会社と比べて休みがとりやすいことだという。

「有給休暇をすごく取りやすいと感じました。これは言っていいかどうか迷うところですが、急な用事などでどうしても今日はお休みをいただきたいというときでも、当日朝の連絡だけで休ませてもらえました。プライベートと仕事の両立という面で大きな柔軟性を持っており、以前の会社では考えられなかったことです」

  • 製造ラインから離れた視聴室が佐伯氏の仕事場だ

なお、お二人とも社内の部活動には所属していないそうだ。しかし佐伯氏は会社の空きスペースで野菜を育てる「ファームクラブ」から熱心なお誘いを受けているという。

「部活動はどこも本格的なんですよ。当初ファームクラブは花を植えていたそうですが、だんだん野菜に移行し、いまは花より実を取っています。写真部なども本格的で、カレンダーやバーチャル壁紙で提供している絶景写真も、社員の方が撮影しています。プロジェクションマッピングなどを趣味でやってしまったり、お祭りの山車を本格的に作ったり、何かを楽しむ場合でも、みんなこだわりがすごいんです」(佐伯氏)

VAIOでこそ得られる経験と生活がある

最後に、VAIOで実際に働いたことで得られた経験について、佐伯氏・中西氏、両名に伺ってみたい。

「僕は新しい環境に入って働くことでリフレッシュできるタイプです。人によっては不安を感じるかも知れませんが、新鮮な環境で働けることはとても良いですね。VAIOでは出身地が違う人と関わる機会が多く、新しい価値観や考え方に触れることができました。自分の視野も広がったと思います」(佐伯氏)

「VAIOに就職して今年で5年目になりますが、振り返ってみると困難な状況がありつつも、なんとかここまで成長してこれたという実感があります。それがあるのは、やはり住み慣れた地元での生活があったからだと思います。長野県は気候的にも過ごしやすい場所です。働きやすい環境で成長したいと思っている方がいたら、ぜひ一緒に働きたいですね」(中西氏)