連日の猛暑続きで完全に夏バテの筆者。息も絶え絶えのなか、暑さ知らずの北海道からある情報が。アウトドアブランドのメレルが札幌市にある販売店で「凍結した道路でも滑らない靴」の体験会を4日間だけ開催するというのです。
取材にかこつけて、北の大地に逃避行した筆者による製品レポートをご紹介します。
北海道の人でも滑る場所があった
温暖化の影響か、以前より雪の降ることが珍しい東京ですが、たまーに降るともう大変。足を滑らしたことによる転倒事故が発生したニュースをよく見ます。
逆に冬の気温がマイナスも珍しくない札幌、市民の皆さんは雪道などへっちゃらだろーと勝手にイメージしていましたが、実は落とし穴があると指摘するのは、メレルの販売店「スーパースポーツゼビオ ドーム札幌月寒店」でマネジャーを務める瀬川北斗さん。
「道民の多くはつま先を使ういわゆる『ペンギン歩き』で雪道を乗りきれます。ただ、例外が地下鉄などへの地上出入り口です。地下の暖かい空気と氷点下の地上との温度差、多数の人が通ることによる摩擦などで、雪が『融けては凍る』の繰り返しが起こり丸い形状で凍った状態に。ここが危ないのです」
ましてや「雪道はつま先」という習慣が無い観光客だと、普段の歩き方で「かかとから着地」して転んでしまうのだと言います。それにしても、雪道に慣れた道民も転ぶという危険個所、ヤバ過ぎでしょー。
ここで瀬川さんが「滑らない靴」として紹介してくれたのが、濡れた氷の上でも強力なグリップ力を発揮するという「Vibramアークティックグリップ」をアウトソールに搭載したメレルのシューズです。
「現在、複数社がこの技術を採用した冬シューズを出していますが、メレルが最初から手掛けていることもあるのか、このグリップを外側に配置しています。この差は大きいでしょうね」
いまいち理解力が低い筆者が首をかしげていると、瀬川さん、他社製品とメレルのそれを実際に見せてくれました。
左がメレル、右が他社モデルですが、確かに青い点々が付いたグリップの位置が異なりますね! これは分かりやすい。万が一、雪道に不慣れな人がかかとから着地する歩き方をしても、この外側のグリップが滑らないように支えてくれるのだそう。
もちろん、真ん中にあっても「支える力」は変わりませんが、自分の歩き方を思い起こしても、かかとにあるほうが「より良い」ということなのでしょう。これは目からウロコ!
「グリップがない普通のスニーカーなどでは、最初の着地で体重を支え切れず横に転んでしまいます。Vibramアークティックグリップはこれを防ぐ機能性を備えているのです」
メレルの「街歩き用」「山歩き用」の滑らない靴
今回2モデルが新登場していますが、本来は2021年に販売される予定だったそう。しかし生産国であるベトナムがコロナ禍でロックダウン。生産がストップし、発売が今年に延期されたそうです。
このため、本来は降雪し始めた時期にお店では体験会を開催するのですが、今年は納品もスムーズだったこともあり早めに実施したと言います。また、去年購入を希望するも買えなかったので待ち望んでいるユーザーにも早く紹介したい、という想いもあったようです。
発売されているのは、街歩き用山歩き用がそれぞれ1タイプ。その違いも瀬川さんに聞いてみましょう。
「街歩き用の特徴は、Vibramアークティックグリップを大きな塊にせず、細かく配置して軽量性を高めていることですね。もちろんグリップ力は維持しているので、歩きやすくなっています。また屈曲性も向上しています」
この街歩き用には、昨年12月に発売された「JUNGLE MOC ICE+(ジャングル モック アイスプラス)」(1万8,150円)と、今回新たに追加された「JUNGLE MID ZIP ICE(ジャングル ミッド ジップ アイス)」(2万350円)があります。前者はメレルの定番モデル「ジャングルモック」の雪道用、後者はそれのブーツモデルなのです。
サンダルのようにラフに履けるジャングルモック、より寒さ対策を強化したブーツタイプ、どちらを選ぶのかはユーザーの好み次第でしょうか。
なおブーツのモデルですが、スエード部分はもちろんアッパーの裏面にも撥水加工。さらにEVAインソールは取り外し可能になっています。アウトソールだけでなく、履き心地も良さげですね。筆者なら楽に履けるしサンダルタイプかな。横着なので……。
次に山歩き用ですが、スキー場、テレビでよく見る凍った湖で行うワカサギ釣り、さらにはスノーシューに装着して利用する時に活躍します。
「街歩き用と比較してグリップの塊が大きいです。あと街歩き用の青と違い、赤い点々がありますが、これは静電気を起こす仕様。雪がくっつかず、自然に雪が落ちるようになっています」
雪が付着するとその分靴が重くなるし、雪の水分が邪魔をしてグリップ力を発揮するまでに時間がかかる。そうした課題を解消すると瀬川さんは言います。
確かに札幌市内などの街中はきっちり除雪され、そこまで雪の付着問題を気にせずともよいですが、山の中は違いますからね。
なお本モデルは「THEMO ROGUE3 MID GORE-TEX」(3万3,000円)といい、完全防水メンブレンの採用、シュータンサイドからの浸水を防ぐベローズタン、通気性を高めるメッシュライニングなど高機能性が特に際立ちます。
この靴、すごくいいです。「滑らない」「ゴアテックスの完全防水」「雪がくっつかない」も魅力的ですが、持った時の軽さがヤバい。ウインタースポーツを楽しむ人なら分かりますが、1日滑って帰る時、だいたい足がパンパンなんですよねー。この軽さなら帰り道の疲労も多少マシになる気がしました。
滑らない靴はどれだけ違うか試した
ひと通り機能の説明を聞いたので、次は実際に履いて「滑らない度合い」を体感してみましょう。体験会用に用意された「大きな氷」を設置した手すりの付いた踏み台のようなものを使う形です。
まずは普段履きしているスニーカーで、おっかなびっくり氷の上に足を乗せると、こりゃアカン。まったく踏ん張れず転倒間違いなしでした。特に濡れた部分は本当にツルツルで、どうにもなりませんね。
ところが次に「JUNGLE MOC ICE+」で試したところ、驚異的なグリップ力! いや、これは感動する安定感で安心して雪道でも歩けますねー。あまりの違いに驚く筆者。
すると瀬川さん、「一番滑るのは濡れた状態の氷。乾燥したそれに比べてより滑ります。先ほどご紹介した『地下への出入り口が危ない』のも地下の熱で氷が融けた状態だからです」と説明してくれました。
ちなみに筆者の主観ですが、アウトソールが硬い靴は滑りやすい気がします。例えばナイキのエアマックスと比べると、エアフォース1は滑りやすいような。ソールの硬さで違いはあるのか、瀬川さんに尋ねてみました。
「そうですね、柔らかいソールだと屈曲性があり、足の指の力を使いやすく安定し踏ん張りはしやすいでしょう。今回の街歩き用モデルも第一関節がしっかり曲がる仕様で同じです。逆に山歩き用の使い方は、深い雪を『すぼっ、ずぼっ』と歩くイメージです」
なるほど! ということで、あながち筆者の印象も間違いではなかったようです。
寒い地域に住む方はもちろんですが、雪国以外の方も検討してよいのでは。転んで骨折した時の治療費を考えると、雪道用の靴を購入するほうが間違いなく安上がりですからねー。