2014年7月、ソニーグループから独立し、新たな一歩を踏み出した「VAIO」。その本社は長野県安曇野市にある。大都市圏から離れた立地ながらも、同社にはUターン・Iターン希望者が絶えないという。どうしてVAIOが就職先として選ばれるのか、その秘密を探ってみよう。

  • Uターン・IターンしてVAIOで働いている社員に話を聞いた

実は増えている!? VAIOへのUターン・Iターン

VAIO本社のある安曇野市は清流と自然に恵まれ、わさびの栽培で有名。気温・湿度ともに低く晴天の日が多いため、年間を通して非常に過ごしやすいのが特徴。避暑地として選ばれるのも納得だ。こういった土地柄にも精密機器の製造場所として選ばれる理由があるのだろう。

  • 長野県安曇野市豊科にある、VAIO本社の建屋入り口

だが大都市圏と比べると分かりやすい娯楽は少なく、やはりアウトドアスポーツが中心。最寄りの豊科駅までは、午前と午後に一本だけ新宿直通の特急あずさが存在するものの、それ以外は松本駅で乗り換えることになり、交通アクセスも良好とは言い切れない。それでも、いまVAIOには多くの方が就職を希望して訪れているという。

学生や転職希望者が長野県へのUターン・Iターンを決意する、VAIOという会社の魅力はどのような点にあるのだろうか。人事総務部 部長の緑川あずさ氏に同社の採用について伺ってみたい。

長野県で働いてもらう難しさ

ソニー時代から人事に携わり、VAIOでは3年前から人事・総務を担当している緑川氏。同氏は、VAIOになってからの人材獲得の難しさを語る。

「安曇野市はやはり大都市に比べて人口が少なく、長野県だけで活動していても人は集まりません。新卒に向けてはさまざまな大学を訪問し教授やキャリアセンターの方にお会いしたり、説明会を開催したりと、ネットワーク作りに奔走しました。一方、最大の人材マーケットは東京ですので、営業や企画、マーケティングなどの機能は東京にオフィスを置き、最大限に活用しています。この両輪で採用活動を進めていますね」(緑川氏)

  • VAIO 人事総務部 部長 緑川あずさ氏

VAIOで働く魅力は、実は地道な努力によって学生に伝えられていることが分かる。現在、新卒ではUターン・Iターンの割合はほぼ半々とのこと。また「VAIOが好き」という動機で、まったく関係ない場所から就職する人も少なからずいるという。

「VAIOというブランドを愛してくださるのは本当にありがたいことだと思っています。Uターンに関しては、自治体ともタッグを組んで活動しています。長野県外在住の学生さんに『こういう会社もあるんだ』と認知してもらうことが大事だと考え、力を入れています」(緑川氏)

この自治体との取り組みの代表例が「シューカツNAGANO応援隊」だ。これは長野県と地元の新聞社が主体となって行っている活動で、長野県内の企業で働く若手社員から応援隊員を募って、2年間活動を行うというもの。具体的には、長野で暮らす・働く魅力や就職活動での悩みなどについて、応援隊員と話すことができる懇談会などが行われている。もちろん、VAIOからも社員が派遣されている。

「多くの学生さんは、特定の企業を狙っているというよりも、"長野県で働く"ことの実態を知りたくて参加されているようです。ですので長野県で働くことに対する不安を払拭できるようなお話ができれば、長野県内企業やVAIOにも興味を持ってもらえるのではないかと考えています。実際、『長野では休日に何をしていますか?』のような質問も多いですね」(緑川氏)

現社員が実際にUターン・Iターンを決めた理由とは?

では、実際に入社した社員はどのような経緯でVAIOを選んだのだろうか。長野県にUターン・Iターンし、VAIOで働いているお二人にお話を伺っていきたい。

エンジニアの中西啓太氏は長野県松本市出身。富山大学大学院を経て、新卒で長野にUターン就職した。現在はエンジニアとして、生産管理、量産計画の立ち上げなどで活躍している、中西氏はどんな理由でVAIOに就職を決めたのだろうか。

「理由はふたつあります。ひとつはVAIOというブランドと技術力です。PCが一般に普及を始めた当初からPCを作り続けているという点には、以前から惹かれていました。なのに、会社としては設立してまだ若いというユニークな特徴のある企業だったからです。もうひとつは、実際に会社説明会に足を運んだとき、先輩社員の話からフレンドリーさを感じたからです。スキルアップしやすい環境があると思いました」(中西氏)

  • VAIO 製造本部 技術&製造部 製造課 エンジニア 中西啓太氏

実際に働き始め、直接関わりを持ってやり取りをする中で、中西氏はVAIOの魅力を「人」だと感じたという。

「最初はとくに職種も絞らずに東京方面で就職活動をしていたのですが、終わりがある大学とは違い、職場はこれから長い間働く場所です。生活をしながら働き続けることを考えたとき、やはり住み慣れた地元を基盤にモノづくりにこだわりを持つ先輩方と共に成長できる環境で働けることに魅力を感じました」(中西氏)

  • 製造アッセンブリで製品の品質に目を光らせる中西氏

電気設計を担当する佐伯尚哉氏は、愛媛県出身。名古屋工業大学大学院を経て、茨城県の会社に就職。その後、第二新卒としてキャリア採用に応募し、Iターン就職で長野に来た。現在はオーディオやキーボード、タッチパッドなどの入力装置の設計開発に携わっている。

「僕にも大きくふたつの理由があって、ひとつ目はトレンドよりも本質を追求するというVAIOのモノづくりに対する姿勢です。ふたつ目は製品を作る上で、いろいろなところに関われることですね。以前勤めていた会社はそれなりに大きくて、社内分業が進んでいました。そのぶん関われる部分は決まっていて、そこを突き詰めていくスタイルで仕事をしていたんです。でもVAIOはまだ規模がそこまで大きくなく、そのぶん担当以外の分野も見なければなりません。なのに、製品は認知度が高くて面白さもありますよね。そんなところで働いてみたいと思いました」(佐伯氏)

  • VAIO 開発本部 テクノロジーセンター 電気設計部 佐伯尚哉氏

そして佐伯氏は、VAIOを「PCという主軸を持ちつつも、身軽で他のことにもチャレンジしていく企業風土がある。戦う場所があり、認知度もあるベンチャー企業」と言い表した。

  • さまざまな音響機器が置かれた視聴室で解析を行う佐伯氏

シューカツNAGANO応援隊としても活躍

新卒でUターン就職した中西氏は、前述した「シューカツNAGANO応援隊」の隊員でもある。地元企業をアピールする立場になったときには、指名された緊張感とともに、挑戦への期待感も覚えたそうだ。

「長野県から『2年間、あなたたちは就活生を応援する隊員として、県内への就職促進活動に参画してもらいます』と依頼を受け、県が主催するイベントに参加しました。主に12月ごろから、就活が本格化する3月ごろまで活動しています。就活に関する悩み相談を受けながら、就活の準備をお手伝いしました。コロナ禍での活動ですので、直接会場に赴くだけでなく、リモートで話をする機会も多かったです」(中西氏)

この取り組みは長野県内でも話題を呼び、中西氏もテレビ取材を受けたことがあるという。

「学生のみなさんは意識が高くて、キャリアに対する考え方や、長野県で働いた感想などを聞かれますね。でも僕自身、そんな10年先のキャリアまで考えられていません(笑)。緊急事態宣言などで大変な世代だと思いますが、本人たちは柔軟にコロナ禍の就活を進めているように感じました。ただ、リモートが多く直接出向く機会が少ないため決断はしにくい状況だったと思います」(中西氏)

VAIOが求める新卒・キャリア社員とは?

それでは、VAIOが新卒・キャリアそれぞれの採用において重視している点を伺ってみよう。

「新卒の皆さんには、なにかに対して打ち込んだ経験があるかを選考のポイントの一つにしています。VAIOの特徴がこだわったモノづくりであることは、現在も変わりません。製品そのものもそうですが、商品企画、マーケティング、製造工程、アフターサービス、全てに共通し、社員はみなさんこだわりを持っています。専門性も大切ですが、やはり自分で自分なりのこだわりを持って打ち込める方であることを重視して採用活動をしています」(緑川氏)

「キャリア採用の基準は、まず第一に即戦力としてご活躍いただけることです。それに加えて、『VAIOを好きになってくれるか』という点も大事にしています。当社にはソニー時代から培ったブランドがありますが、会社自体はようやく9年目、社員数300名弱です。大企業の伝統は残しつつ、一方でベンチャー企業のようなフットワークの軽さもあります。このふたつが混在している中で活躍いただくためには、本当に好きなモノや極めたい道、こだわりが大切になってくると考えています」(緑川氏)

  • 採用のポイントとして「こだわりを持っているか」を挙げ熱弁する緑川氏

純国産PCを製造するメーカーはどんどん数を減らしているなか、VAIOはふたたび日本のモノづくりという原点に立ち返り、精力的に製品を展開している。独立後に注力した法人向けPCは市場から高い評価を得ており、モバイルノートに新たな選択肢を増やすことに成功した。

現在、同社の従業員数は約300名。新卒採用であれキャリア採用であれ、すぐにビジネスの現場に近い仕事ができる規模感だ。高いブランド力を備えつつも、ベンチャー企業のような気質を備えていると言えるだろう。PCの新しい時代を自らの手で作りたい方にとって、VAIOは非常に魅力的な職場ではないだろうか。