「致し方ない」はビジネスシーンでもよく用いられますが、使い方によっては失礼になることもあるため注意が必要です。
本記事では「致し方ない」の意味や読み方はもちろん、目上の人への使い方や注意点、類語や英語表現などについて、豊富な例文を交えながら紹介します。
「致し方ない」の意味や読み方とは?
「致し方ない」とは、物事をどうにかする方法ややり方がない状態のことです。
「致し方」とは「仕方(しかた)」の改まった言い方で、「物事を行う方法」「やり方」という意味があります。
したがって、「致し方ない」は何かをするときに、もうやりようがない状態やどうにかする方法がない状態において使われます。
普段の生活の中でも「仕方ない」という言葉を使うこともあると思いますが、改まった言い方をする場合には「致し方ない」という表現を使ってみましょう。
「致し方」の「致す」は謙譲語
「致し方ない」の「致す」は、「する」の謙譲語です。謙譲語とは、自分の動作を低くすることで、聞き手に対する敬意を表す言葉のことです。
「致し方ない」の読み方は「いたしかたない」
読み方は「いたしかたない」です。この場合の「方」は、「仕方」「やり方」などと同じように「かた」と読みます。
「致し方ない」のビジネスシーンでの使い方
特にビジネスシーンにおいて、社内外の人とうまくコミュニケーションを取るためにも、「致し方ない」の使い方や、失礼にあたらないか気になる人もいるでしょう。下記で使い方や注意点を紹介します。
「致し方ない」の使用シーンは「どうにもならないとき」
「致し方ない」の意味は、前述のように「物事をどうにかする方法ややり方がない状態」のことです。つまり天候や、予測できないような先方都合などの不可抗力により、自分の努力ではどうにもならないとき、その状況を受け入れるしかないときに使います。
「致し方ない」の使い方の注意点 - 失礼だと捉えられることも
注意しなければならないのは、言葉の与える印象です。
「致し方ない」は「他にどうすることもできない状況である」という意味を持ち、そこから「満足はしていないが、どうしようもないので受け入れる」といったニュアンスがあります。基本的にネガティブな印象を持つ言葉です。
例えば相手からの依頼に対して「致し方ないですね、承知しました」のように返答してしまうと、「不満はあるけど、どうしようもないから承知した」といったマイナスのニュアンスを感じさせてしまい、失礼だと捉えられる可能性があります。
また、自分の行いによる結果に対して、実際にはもう少し努力できる状況であったにもかかわらず「致し方ありませんでした」などと表現すると、やる気がないと感じてしまったり、無責任だと思ったりする人もいるでしょう。
現実的に「致し方ない」状況であったとしても、「致し方ない」と言うことで相手に不快感を与えてしまうケースもあるので、使用時には、相手や状況に注意しましょう。
目上の人へは「致し方ないことと存じます」などより丁寧な敬語に
前述のように、「致し方ない」の「致す」は謙譲語ではありますが、より敬意を強くするために「致し方ございません」「致し方ないことと存じます」というように、さらに語尾を敬語にして使うようにしましょう。
例えば「原材料の高騰により、わが社の製品も値上げに踏み切るのは致し方ないことと存じます」などのように使います。
「致し方ない」の例文
「致し方ない」の具体的な使い方を例文で紹介します。
・来月に長期休暇を取るためには、今月は連日の残業も致し方ないです
・花火大会の準備を進めてきましたが、この悪天候では延期は致し方ないと思います
・全員で意見を出し合って最善を尽くしたが、もうこれ以上は致し方ない
また「致し方ない」は、「部分」や「こと」とつなげて使うケースもあります。
・今回のような苦しい状況下では、失敗してしまったことも致し方ない部分はあると思います
・異動は致し方ないこととはいえ、最後までプロジェクトに参加できないのは残念です
「仕方ない」「仕方がない」との違い
「致し方」は「仕方」の改まった表現です。
そのため「致し方ない」は、主にビジネスシーンなど、硬い場面でよく使用します。
一方で「仕方ない」「仕方がない」は普段の日常会話の中で、友達や家族など親しい人との間でよく使う表現だという違いがあります。
「仕方ない」「仕方がない」の使い方としては、以下のような例があります。
・もうあきらめるより仕方ない
・うちの犬がかわいくて仕方がない
・ミスしなければ勝てたのに、悔しくて仕方ない
・傘がなく、仕方がないのでぬれて帰った
・あまりにタクシーの行列が長すぎるので、仕方なく歩いて帰った
「致し方ない」の類語・言い換え表現
「致し方ない」の類語や言い換え表現について紹介します。
仕様がない、しょうがない
「仕様がない(しようがない)」は、良い方法がない、手に負えない、という意味の言葉です。
「しょうがない」と記載、発音されることも多いです。
例文は下記の通りです。
・こんなにトラブルを起こすようでは、メンバーから抜けてもらうより仕様がない
・しょうがないので、私が彼の代わりを務めます
やむを得ない
「やむを得ない」には「そうすることのほかに方法がない」という意味があります。「やむを得ず」の形でもよく使われます。下記は例文です、
・思いのほか反響が悪く、放送打ち切りもやむを得ない
・トラブルがあったので、作業の進捗が予定通りでないのもやむを得ない
・緊急時はやむを得ないので、各自の判断で行動してほしい
・台風のため、イベントはやむを得ず中止となった
~ざるを得ない
「~ざるを得ない」は、動詞や助動詞の未然形の後に付けて、「~しないわけにはいかない」「やむを得ず~する」という意味を表します。
例文としては、以下のようなものがあります。
・こうも予想外の事態が起こっていては、当初の予定を大幅に変更せざるを得ない
・そのときは自分一人しかその場にいなかったため、自力でどうにか対処せざるを得なかった
・この悪天候では、休日のキャンプの予定はあきらめざるを得ない
「致し方ない」の英語での表現
「致し方ない、仕方ない」の英語表現は「it can't be helped」「have no choice」などがあります。
・It can't be helped under the circumstances.
(この状況では仕方ない)
・I had no choice but to wait.
(私は仕方なく待った)
特に仕事で英語を使う人は覚えておくといいでしょう。
「致し方ない」を失礼にならないよう使いこなそう
「致し方ない」は、仕方がない、やむを得ないといった意味で、どうしようもない状況において使われる表現です。
ビジネスシーンにおいても使える表現ではありますが、シーンや相手によっては不快感を与える可能性があるため注意が必要です。