コンピュータを使っている際に、最も恐ろしいのは「作ったデータを失ってしまう」ことだ。macOSが標準で搭載するバックアップ機能「Time Machine」は、ユーザーがミスなどでデータを損失する危険を最小限にしてくれる便利な機能だ。最終回となる今回は、モバイル環境の利用時にTime Machineはどうなるのかを紹介する。
モバイルでもファイルを取り戻せる「ローカルスナップショット」
MacBookシリーズを外で使っている際はバックアップ用のHDDがないため、ファイルを取り戻せないと思いがちだ。しかし実際に外付けHDDがない状態でしばらく使って、Time Machineにアクセスしてみると、数時間の間の作業についてはファイルを取り戻すことができる。これは「ローカルスナップショット」という、Mac OS X Lion(10.7)から導入されている機能のおかげだ。
ローカルスナップショットでは、システムディスクの不可視領域に1時間おきに前のシステムの状態との差分を記録して、一時的なバックアップの代わりとしている。あとはTime Machineから通常のバックアップのように利用できるというわけだ。
ローカルスナップショットはストレージの空き容量にもよるが、直近24時間は1時間ごと、それ以降は1日ごとに統合され、最大でおよそ1カ月分程度が確保され、古いものから順に削除される(全体の差分は1週間に1つ確保される)。そしてTime Machine用のHDDを接続するとバックアップが統合されるという仕組みだ。
このように大変便利なローカルスナップショットだが、欠点としてはHDDの空き容量がバックアップ用に消費される点だ。特にローエンドのマシンでは、気づいたら空き容量がだいぶ圧迫されていた、ということにもなりかねない。ローカルスナップショットの記録を行わせたくない場合はTime Machineの動作を一時的にオフにすればいい。手動で削除もできるが、ターミナルで「tmutil」コマンドを使う必要があるなど、ちょっと難易度が高い(詳細は海上忍氏の記事を参照のこと)。
また、ローカルスナップショットはあくまで一時的な代替品で、バックアップとしては機能しない。というのも、現在利用しているストレージが壊れてしまった場合、スナップショットにアクセスできないためだ。取り戻せるのもファイル単位で、システム全体のバックアップにはTime Machine用HDDが必要になる。
バックアップとはあくまで外部のストレージに作成し、現在のシステムが物理的に破壊されたとしても、バックアップ取得時点まで戻すことできるものでなければならない。ローカルスナップショット機能があるからといって油断せず、定期的にTime Machine用HDDにバックアップを取ることを忘れないようにしよう。
APFSではさらに便利に
ローカルスナップショット自体はHFS+時代からある機能だが、前回紹介した新フォーマット「APFS」では、それ自体が持つ「スナップショット」機能を利用することで、さらにシンプルかつ効果的に利用できるようになっている。
新フォーマット「APFS」で利用できる「スナップショット」は、ある瞬間のストレージの状態を記録しておける機能だ。ローカルスナップショットにおいては、スナップショットの保存先をローカルストレージの空き容量に指定するだけでよく、シンプルな挙動のためにトラブルの可能性も低い。
また、macOS Monterey以降では、ローカルスナップショットの一覧を「ディスクユーティリティ」から表示することができる。さらにGUIを使って任意のスナップショットを削除できるので、ストレージ容量が足りなくなった場合は活用してみよう。ただし削除した後も、システム側が必要に応じて空き容量を解放するまで時間がかかる場合もあるようだ。
なお、ここまでローカルスナップショットは「モバイル用」と説明してきたが、実際のところmacOS High Sierra(10.15)からは、APFSフォーマットのSSDを搭載したデスクトップ機でもローカルスナップショットを利用できる。外付けHDDをつなぎ忘れた時でも一時的にデータは保全されるというわけだ。このようにAPFSが採用されたおかげで、macOSの安全性はさらに高まっているのだ。
さて、(主に筆者の怠惰により)8カ月の長きにわたってお送りしてきたTime Machine連載も今回で終了。デジタル時代において、データとは自分自身の作業の結晶であり、コミュニケーションの記録であり、生活の記録そのものと言ってもいい。Time MachineとiCloudバックアップを組み合わせるなどすれば、ハードウェアを失ってもデータだけは救出できるケースも多い。万が一の事故や災害などで大切なデータを失わないためにも、必ずバックアップを取って万が一に備えておこう。本稿がその一助になれば幸いだ。