老後の生活に必要なお金は月額22万円・25万円・36万円……と参考になるデータはたくさんあります。ただ、一番知りたいわが家に必要な老後資金との間にはギャップがあることも。今回は、そのギャップの理由と、わが家に必要な老後資金の求め方を5ステップで解説します。

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■老後資金はいくら貯めればいい?

【老後資金の平均必要額】

生命保険文化センターの令和元年度「生活保障に関する調査詳細は」の調査結果では、夫婦2人の最低限の日常生活に必要な額は月額22万1,000円、ゆとりある老後生活に必要な額は月額36万1,000円となっています。この金額は、18~69歳の男女に老後資金はどれくらい必要だと考えているかについて意識調査を行った結果です。

では、実際にかかる老後の生活費はいくらなのでしょうか。総務省「家計調査」2021年(令和3年)によると、高齢夫婦無職世帯の実支出は月額25万5,100円となっています。意識調査の回答にあった最低限の日常生活費に約3万円が上乗せされていることになります。

【「老後2,000万円」は嘘?本当?】

2019年に発表された金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書をきっかけに、老後に必要なお金=2,000万円というイメージを持たれた方も多いのではないでしょうか。

参考:金融庁 金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書 の公表について

この2,000万円は、総務省「家計調査」2017年(平成29年)の高齢夫婦無職世帯の実収入20万9,198円と実支出26万3,718円の差額約5.5万円という金額をもとに試算したものです。不足額が毎月5.5万円となる場合、備える期間を30年で考えるのであれば約2,000万円が必要ということになります。

2,000万には根拠があるという点ではこの金額は本当ですが、その根拠となるデータが違えばもちろんそこから導かれる金額も変わることには注意が必要です。これは様々な平均データなどを見るときにも気に留めておきたい点です。

【働き方でまったく違う老後資金の必要額】

老後資金を考える上で外せないのが「年金」です。年金は働き方によって受け取れる額が大きく変わります。

実際の受け取り額で比較してみましょう。自営業者が加入する国民年金の令和4年度の年金額は満額で月額6万4,816円、会社員や公務員が加入する厚生年金の標準的な年金額で月額15万4,777円(※老齢基礎年金を含む標準的な年金額)です。厚生年金は所得に応じて納付する保険料が異なり、将来受け取る年金額も変わります。自営業者の方は会社員や公務員と比較すると、受け取れる年金額が少ない分、老後資金の必要額が高額になりがちです。一般的な老後資金の必要額は会社員であることを前提とされているものも多いので、データを参考にするときには注意をしましょう。

■わが家に必要な老後資金を知る5STEP

【Step1.現状把握】

現在の貯蓄額や生活費が老後資金を考える上でのベースとなります。細かく把握する、というよりはざっくりでもいいので全体像を把握するように意識しましょう。

【Step2.老後の暮らしをイメージしてみる】

何歳まで働くのか?どこで暮らすのか?どんな暮らしがしたいのか?まだイメージしづらいかもしれませんが、パートナーと話し合いながら少しずつイメージを具体化してみましょう。

【Step3.必要額を計算する】

イメージした暮らしに必要な生活費を今の生活費をベースに計算してみます。生活費にプラスαで必要なお金、たとえば自宅のリフォーム費用や介護費用などについても考えてみましょう。公益財団法人生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護期間の平均は61.1カ月(5年1カ月)で、介護費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)の月平均は8.3万円となっています。また、一時費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用)の合計額は平均74万で、一人あたり平均約580万円の介護費用がかかっていることになります。

【Step4.年金の受給額を調べる】

年金は老後の収入の柱になります。その収入の柱がどれくらいかを確認するには、「ねんきんネット」での年金受給額シミュレーションが便利です。また、スマートフォンやタブレットで年金額を試算できるツール「公的年金シミュレーター」が2022年4月から試算運用中です。ねんきん定期便が手元にない場合も手軽に受給額が試算できます。

参考:厚生労働省「公的年金シミュレーター使い方ホームページ(試験運用中)

【Step5.不足額を計算する】

老後に必要な額と年金の受給額が分かれば、その差額が今後備える必要のある額となります。定年までの年数で割ると、1年間に備える必要のある額が明確になります。あまりにも現実的でない金額になった場合は、Step3に戻って必要なものに優先順位をつけてみましょう。

■老後資金の貯め方、どれがいい?

【iDeCo(個人型確定拠出年金)】

自分が拠出した掛金を、自分で運用し、資産を形成する私的年金制度です。掛金、運用益、給付を受け取るときに、税制上の優遇措置があります。

原則、60歳までは資産を引き出すことができない点、掛金の上限額が決まっている点、元本割れのリスクがある点には注意が必要です。

【つみたてNISA】

少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度です。対象商品は、金融庁が認めた公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定されているので、投資初心者にも利用しやすくなっています。また、いつでも自由に資産を引き出せるので、老後資金という用途に縛られずに資金を貯めることができます。

選べる金融商品が限定的である点、損失が出たときに税制上の恩恵を受けられない点、また元本割れのリスクがある点には注意が必要です。

【財形年金貯蓄】

財形貯蓄制度が導入されている事業所の勤労者が利用できる制度です。貯蓄額は給与から天引きされるので強制力があり、財形住宅貯蓄あわせて元利合計550万円の利子等が非課税となります。

年金以外の目的で払い出すと非課税措置がなくなる点、満55歳未満の勤労者に限られる点には注意が必要です。

どんな貯め方にもメリット・デメリットがあり、万人にとっていい貯め方はありません。それぞれの特徴を理解した上で、自分に合った貯め方を選びましょう。

■老後資金の必要額を減らすためにできること

【受け取れる年金額を増やす】

年金の受け取り開始年齢は原則65歳です。ただし、65歳で受け取らずに66歳以降75歳までの間で受給を繰り下げて、増額した年金を受け取ることができます。繰り下げた期間に応じて月単位で0.7%ずつ年金額が増額され、その増額率は一生変わりません。なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることができます。

また、60歳までに老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合や、老齢基礎年金を満額受給できない場合などで年金額の増額を希望するときは、60歳以降でも国民年金に任意で加入することができます。

【老後も仕事を続ける】

フルタイムで働くとなると負担感があるかもしれませんが、毎月5万円程度の収入が確保できると生活費の不足分解消に大きく貢献してくれます。今から副業などで60歳以降も得られる収入源を育てておくのも良いでしょう。それが老後の生きがいに繋がることもあるかもしれません。

【支出を見直す】

日々の生活費が抑えられれば、その分老後資金の必要額も減らせます。年齢を重ねたからといって、急に支出が減るわけではありません。今から日々の支出のなかに無駄はないか、自分たちの価値観に合わない支出はないかを見直す習慣を付けておきましょう。

■まとめ

老後資金の必要額は働き方や暮らし方、価値観などによって大きく変わります。だからこそ、わが家にとってどれくらいの額が必要なのかをざっくり試算することで、老後についてより具体的に考えやすくなるはずです。とはいえ、実際に必要な額がどれくらいかはそのときになってみないとわからないのも正直なところ。正確さにこだわり過ぎるよりは、「時間」を味方につけるためにも実際に行動に移すことを大切にしてくださいね。