『ミッドナイトスワン』の内田英治監督が、阿部寛とタッグを組んだ映画『異動辞令は音楽隊!』(8月26日公開)。阿部演じる主人公・成瀬の部下役として、音楽隊とはまた別の柱となる物語をけん引していく若手刑事の坂本を、磯村勇斗が演じている。
犯人逮捕のために手段を選ばぬ捜査を続けてきた成瀬は、その強引さがたたり、捜査一課から広報課の「音楽隊」への異動を命じられる。成瀬に“昭和のオヤジ”感が充満する一方、“令和の若者”らしい姿勢の坂本。世代間のギャップが覗く本作には、時代の鏡でもある、ハラスメントなどの問題も浮かぶ。
今回は、映画初主演となった『ビリーバーズ』を含め、すでに今年6作目の映画公開となる磯村に、本作の裏話や阿部との共演の感想とともに、映画界における変化といった難しい問題についても思いを聞いた。
■“昭和と令和”といった見え方が面白いオリジナル作品
――時代感を多く含んだ作品です。
阿部さん演じる成瀬と、自分の演じる坂本のいわゆる“昭和と令和”みたいな見え方が面白いと思いました。いま、ハラスメントの話などがすごくシビアになってきているなかで、こういったテーマ性が出てくるのはすごく共感できましたし、強引な捜査によって一課を追放された成瀬が、新たに音楽隊に入って、あの年齢で違うことを始めるというポジティブさにも惹かれました。内田監督のオリジナルならではだと感じましたね。
――本作で内田監督は、坂本役に目で語れる人を求めていたそうです。
それは嬉しいですね。特に「目で何かを」と現場で指示があった訳ではありませんが、言われてみると、確かに目で表現しているようなシーンは多かった気がします。
――成瀬と対峙しての、最後の泣きの芝居は、テイクを重ねられたとか。
自分のイメージしていたものより、監督はもっと感情を露わにすることを求めていました。「スクリーンサイズで見せて欲しい」と。そこに持っていくために、阿部さんにもずっとお付き合いいただきました。
■3人がかりでも阿部の体は抑えられなかった
――阿部さんとは、2019年のドラマ『まだ結婚できない男』に、磯村さんがゲスト出演された時以来ですね。今回の共演はいかがでしたか?
現場でドシっと立っていらして、それを見て僕らも身が引き締まりましたし、阿部さんの熱量に僕たちも一緒に乗っかっていかなければと士気が高まりました。すごくたくましかったですし、すごく楽しかったです。
――たくましかったといえば、阿部さんは体自体が大きいですし、強引な捜査シーンも迫力がありました。
すごかったですね。阿部さんの体を抑えるシーンがあったんですけど、正直「オレ、刑事は向いてないわ」と思っちゃいました。
――というと?
阿部さんがすごい勢いで会議室に入ってきたのを、止めて追い返さないといけないシーンがあったのですが、止められなくて。監督も僕1人じゃ無理だと思ったのか、柔道をやっている方2人がカバーしてくださって、結局3人で阿部さんを抑える形になったんですけれど、それでも監督に言われていたラインより阿部さんが入ってきてしまったんです。本気で止めたんですけど、勢いがすごかったです。
――磯村さんは30歳目前ですが、58歳の阿部さんくらいの年齢になるころには、どうなっていたいですか?
阿部さんたち先輩方のように、何歳になっても決して揺るがず、作品づくりに隙を作らないストイックさを大事にしたいと思います。ちょっと楽をしようとか、手を抜こうとかでなく、何歳になっても若い子たちと同じ熱量でお芝居を作っていたいですね。
――今回、磯村さんは音楽隊には入っていませんが、自分も入りたかったなとは?
それはないです(笑)。音楽隊の練習風景を見ていて尊敬しました。だからこそ、自分には無理かなと。周りの動きを見ながら演奏したり列を揃えたり。何か演奏するなら、僕はたぶん自分1人で自由に演奏したくなっちゃう気がします。もし、どうしてもやるなら指揮者ですかね。
――指揮者いいですね!
僕、学生の頃の合唱コンクールで指揮者をやったんです。思い出しました。かっこいいし、1番目立てると思ったので、自分で「指揮者やります!」と手を挙げたんです。でも蓋を開けてみたら、指揮者はずっとお客さんに背中を向けているという。
――あはは。
でも一番大事な役どころですよね。自分の作るリズムにみんなを乗せていく、僕の思うようにみんなが動くわけですから、楽しかったです。当時はそういうポジションが好きだったんでしょうね。当時は、ですよ(笑)
■もっとクリーンな業界に
――本作ではハラスメントなどについても描かれます。磯村さんご自身も考えることはありますか?
僕たちの業界って、ハラスメントに関してまだまだ疎いと思うんです。だからこそ、是枝裕和監督たちが立ち上がった動き(「映画監督有志の会」による提言書)などはすごく素晴らしいと思っています。もっとクリーンになっていくと思いますし、自分自身の発言も、自分が意図していなかったとしても、相手を傷つける可能性があるということも考えていかなければいけないと思っています。
――映画人として、磯村さんは昭和の映画界を知らないわけですが、イメージとして、こうしたところは残していけたらと思うことはありますか?
あくまでも僕個人の意見ですが、昭和には映画スターがいましたよね。たとえば石原裕次郎さんとか。でも今、いわゆる大スターと言われる人がいるかと考えると難しい。もちろんそれぞれに好きな俳優はいると思いますが、日本中が認めるような映画スターがいない気がします。それって俳優が、お客さんやファンと近い存在になったからなのかなとも思うんです。それもいいかもしれませんが、近すぎてもダメな気がして。どこかミステリアスだったり、距離があったり、会えない存在でいる方が、俳優としては面白いんじゃないかと思うことはあります。
――その方が夢を与える存在であり続けられますね。
別に僕自身がスターになりたいとかではないですよ。でもSNSなどが発達して、距離が近くなってきた分、面白みがなくなってもいるんじゃないかなと思うことはあります。あとは現場のイメージで言うと、昔はカメラマンや照明技師さんたちがもっと上の立場だったと思うんです。今は俳優が1番上のように立ってしまっている気がして。現場では技術部もスタッフさんも俳優も、みんなが同じ立場で戦えるのが理想かなと。たとえば海外だと照明さんが普通にポルシェに乗ってたりするんです。それって夢がありますよね。今後、映画に携わる全員が、幸せに作品を作れる環境になっていけばいいなと思います。
■磯村勇斗
1992年9月11日生まれ、静岡県出身。学生時代から舞台に立ち、2014年より事務所に所属。翌年、『仮面ライダーゴースト』にレギュラー出演し、スピンオフオリジナルドラマ『仮面ライダーゴースト アラン英雄伝』で初主演を務めた。2017年には連続テレビ小説『ひよっこ』でヒロインの相手役を務めた。映画『東京リベンジャーズ』『PLAN 75』、ドラマ『今日から俺は!!』『恋する母たち』大河ドラマ『青天を衝け』など多くの作品に出演し、印象を残している。第45回日本アカデミー賞では『ヤクザと家族 The Family』と『劇場版 きのう何食べた?』で新人俳優賞を受賞。『ビリーバーズ』で映画初主演を果たした。
ヘアメイク:佐藤友勝、スタイリスト:笠井時夢(ジャケット・パンツ/ともにアナーキスト テイラー、カットソー/マイン、ブーツ/ヨーク、その他/スタイリスト私物)