今回の研究では、その青斑核-高次聴覚野の神経回路が重要だと考えたとする。ちなみに、歌を学習している小さなヒナにおける、この神経回路についての先行研究は存在していなかったという。
具体的には、歌を学習しているヒナの青斑核と高次聴覚野の神経活動を3~4日に渡って記録することからスタート。はじめの取り組みとしては、親の歌を聴いて学習する前にスピーカーから親の歌を聴かせ、次に親と一緒にケージに入れて直接歌を聴いて学習させ、またその後にスピーカーから親の歌を聴かせ、ということが繰り返された。
青斑核と高次聴覚野のどちらの神経細胞も、スピーカーから流れる親の歌より、親が直接ヒナに向けて歌を歌ったときにより強い聴覚反応が示されたという。高次聴覚野の神経細胞は歌の音の特徴に反応していたが、青斑核の神経細胞は親が歌を歌うこと自体に反応しているようだったとする。
さらに、ヒナが親の歌を聴いている最中に青斑核-高次聴覚野の神経回路の働きを抑制すると、ヒナはいくら親の歌を聴いても、これを上手に学習できないことも判明したとする。
高次聴覚野の神経細胞は、歌の音の音響構造やテンポといったさまざまな情報を色々な領域から受け取っている。今回の実験結果からすると、その中で青斑核は、別の情報として、「聴こえてくるさまざまな歌の中からどの歌を学習するべきか」というような、社会的背景の情報を伝えているのではないかと考えられると研究チームではしているが、一方で今回はヒナたちがどのようなキーを使って社会的関わりという背景を読み取り、学習を促進させるのか、そのメカニズムまではわからなかったという。しかし、キンカチョウのヒナは発達期にのみ歌を学習するので、社会的関わりは脳発達にも重要であることが考えられるとしている。
なお、研究チームは現在、この社会音声学習にはどのような神経化学物資が必要なのかというような、歌学習に関わる神経回路メカニズムについて研究を継続中だとしているほか、社会的学習は相互的なものであることから、学習をするヒナたちの行動が、歌を教える側である親の“注意”や“やる気”のレベルも変えているのではないか、と推測しているとしている。