しかし7月の提唱以前では、膨張宇宙でのホログラフィー原理は1つしか具体例が存在していなかった。抽象的な議論しかできなかったことが、研究が進展しない理由の1つと考えられるという。
そこで今回の研究では、ホログラフィー原理により初期宇宙の密度揺らぎの相関を計算する具体的な処方箋を確立し、3次元ドジッター重力に関するホログラフィー原理を、これまでのさまざまな先行研究を利用し、計算可能なものに精密化することにしたという。
3次元ドジッター重力に関するホログラフィー原理は、反ドジッターの場合から解析接続で構成することが可能であることから、今回の研究では、その方法を系統的なものにすることで、ホログラフィー原理を用いて初期宇宙における密度揺らぎの相関を計算することに成功したとする。この結果は、膨張宇宙に関するホログラフィー原理の理解、初期宇宙の新たな解析手法の構築、両方に関して重要な意義を持つと研究チームでは説明している。
また疋田特定准教授らは、今回の研究成果のほかにも、宇宙の理解につながる重要なアプローチがあり、中でも重要なのが、エントロピーと量子重力効果だとする。ブラックホールには事象の地平面に付随するエントロピーが存在し、その起源を説明することは量子重力に課された重大な使命だとしている。
同様に、空間が光速を超えて膨張していると考えられるインフレーションがまだ続いている領域がある可能性があり、そうした我々が到達も観測もできない領域とのホライズン(境界線)にも、付随するエントロピーが存在するとのことで、ホログラフィー原理を利用することで、そのエントロピーの起源を明らかにしたいとしている。
また、今回のホログラフィー原理による解析手法では、量子的な効果を比較的容易に解析することが可能であるともしており、重力の量子効果を系統的に調べ、量子効果に付随する、さまざまな謎の解明に取り組むつもりともしている。
なお今回の研究では、3次元ドジッター重力という簡単化した模型が扱われたが、今後は現実の宇宙の4次元時空へと拡張し、実際の宇宙の始まりに何が起きたのかを明らかにすることが、課題として重要だとしているほか、今回の初期宇宙の理論的な研究成果を、超弦理論の検証にもつなげていきたいともしている。