渡辺明棋王への挑戦権を争う第48期棋王戦コナミグループ杯(主催:共同通信社)、8月15日(月)には挑戦者決定トーナメントの阿久津主税八段―里見香奈女流五冠戦が行われました。結果は142手で阿久津八段が勝ちました。

第48期棋王戦コナミグループ杯挑戦者決定トーナメントの表

本局は先手の里見女流五冠が得意の中飛車に進めます。序盤は23手目の▲3六歩が里見女流五冠の工夫でした。同一局面は10局あり、前例は全てが▲4六歩だったのですが「考えたことがあったので、やってみようかと」と里見女流五冠は振り返っています。

▲3六歩を急いだ効果の一つは▲3七桂の活用が可能になること。里見女流五冠はさらにこの桂を軸に▲4五歩と突き、阿久津八段の左銀を牽制します。ただ、以下の順で角交換から馬を作りあい、その馬の働きの結果、後手の香得となったため、徐々に阿久津八段がリードしていきます。

■崩れない里見

しかしそこであっさりと崩れないのが里見女流五冠。苦しくなっても折れずに辛抱強くチャンスを待ち続ける姿勢でこれまでも男性棋士を連破する活躍を見せてきました。相手の早い攻めを消してゆっくりした展開にし、一転して自陣の再構築に入ります。気がつけば里見玉は堅陣に収まって中央の厚みも光っており、徐々に勝負形になってきました。

■決断の一手

お互いが踏み込んで迎えた最終盤、すでに双方の玉が危ない形となっており、どちらの攻めが速いかという局面を迎えました。126手目、後手は△2六歩と攻めに出たいのですが、自玉がかなり危険です。持ち時間は残り3分。貴重な1分を使い阿久津八段は△6二銀と自玉の詰めろを解除しました。ここで受けに回った以上は先手からの猛攻をしのぎ切る覚悟が必要なので、決断の一手と言えます。

里見女流五冠は▲4四歩△5三玉▲5四香と迫ります。対して阿久津八段が△6四玉とかわした局面が本局のクライマックスでしょう。里見女流五冠は▲7七金とタダのところに捨て駒を放ちました。△同馬なら馬の利きがそれるので▲6五金から後手玉を即詰みに打ち取ることが出来ます。ですがこの瞬間は後手玉が何でもありません。△2六歩と詰めろに打ち、▲同金を効かせてからの△6八飛が攻防の決め手で、阿久津八段の勝勢がはっきりしました。▲7七金では一路ずらしての▲6七金、あるいは▲6五歩ならば、後手よしとはいえどもまだ難しい終盤戦が続いたでしょう。

里見女流五冠は惜しくも、女性初のタイトル戦本戦勝利はなりませんでしたが、阿久津八段と繰り広げた熱戦では間違いなくその実力を示しました。18日から始まる棋士編入試験にも大いに注目しましょう。

相崎修司(将棋情報局)

注目の一戦を制した阿久津八段(右)(提供:日本将棋連盟)
注目の一戦を制した阿久津八段(右)(提供:日本将棋連盟)